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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

くちなしの哀歌

作者:

初投稿。

――第二次世界大戦後、急激な技術革新が進む現代。

「魔法なんてお伽噺の中だけ」

 そんな認識が溢れかえっている現代だが、そこには確かに魔法は存在していた。


******


 僕は辺境の村で生まれた。なぜか僕だけ魔力を持っていた。両親がいなかった僕は、生きていくため村長に命じられるがまま村に魔力を供給した。


――その、価値や代償も知らないままに。


 春、村の作物は豊作。毎年この季節はいつもの村人が持ってくる食事が豪華になった。

 夏、魔力を供給する量が少ない。魔力を供給すると激しい運動をしたときのように体力が減っていくけど、この季節は幾分か楽で村の仕事を手伝おうとした。でも、体力がなくなった体では他の仕事をはできないと言われた。

 秋、冬に備えて住民はたくさんの備蓄を作る。備蓄倉庫になってる村の中心に建つ古びた旧図書館で僕は一人で住んでいた。

この季節は部屋が備蓄でいっぱいになってしまうから、僕は余った部屋の隙間で寝起きした。

 冬、電気の代わりに魔力を使うため、僕はいつもよりたくさんの魔力を供給して動けなくなる。魔力切れになるのだ。この時期になるとふと思うことがある。僕の魔力はみんなを温めることが出来る、のに。僕はなんでこんなに寒いんだろう。なんて、両親がいない僕に生きていく居場所があるのにそんなこと考えてしまう僕は贅沢なのかなと思った。けど、震えは止まらなくって僕はかじかんだ体を丸めて布団に潜り込んだ。

 そんなふうに僕の季節は回っていった。僕は、永遠に抜けることのできない四季の巡りがずっと続いていくと思っていた。



――そう、あの日までは。



******


 粉雪の舞い散る美しい夜。ぼくの毎日は一変した。優しい睡魔に誘われて夢の世界へ微睡み初めた穏やかな夜に、布を引き裂いたような甲高い悲鳴が終わりを告げた。

「キャーッ、誰か助けて」

「村が襲われた。早く防壁をっ!」

 

 防壁を起動するには魔力が大量に必要だ。だが、魔力の代わりにできる電気もこの村には通っていない。村を守るには僕の魔力を使うしかなかい。しかし、季節は冬。僕の魔力は既に尽きかけていた。


領主はベッドで横たわる僕に冷たい声で命令した。彼に会ったのは僕が幼い頃に以来だった。

「魔力を供給しろ。」

僕は口を開いた。これ以上供給したら体力が底をつきてしまって最後には死んでしまうだろう。

「無理です。もう僕には魔力がありません。」

領主は言った。とても冷たい目で僕を見下ろしていた。

「まだ口答えする元気があるではないか。」

住民は口を揃えて言った。

『魔力を供給しろ。』

 僕は彼らの瞳をじっと見つめた。住民たちの瞳にはもはや憐憫の情などはなく、熱を持ったその瞳はただひたすらに己が助かることを求めて僕を睨んでいた。彼らは魔力を使いきった人間がどうなるのかわかっているはずなのに。


 本当は知っていたんだ。僕は皆に怖がられていたこと、皆が食事を運ぶ係を押し付け合っていたこと。

 僕は気づいていないふりをしていた。信じたくなかったんだ。でも、もう認めるしかない。


 「僕は、僕自身は誰にも必要とされていなかったんだ。」

 ――じゃあ、もう僕はいらないね。


 頬を伝う涙と、恐怖か酷使されたが故なのかわからない体の震えを無視して、必死に両手を空へ掲げた。体から流れていく魔力を感じながら僕の意識は遠のいていった。


 わかっている。僕が壊れていく、もう止めることはできない。

 わかっている。これが僕の選択だったということは。

 わかっていたんだ。この選択で僕がもう僕でいることができないことなんて。


 ――それでも、最後に僕は。一人で震える夜じゃなくて。誰かと温かい夜を過ごしたかった。

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