根を絶たれた華
「ヨォ兵隊さん、一発どうよ?」
「悪いな、さっきヤッてきたばっかでスッカスカンさ」
そう言って片手を挙げながら去っていく兵士、ここ華の都はかつて共和国の首都だったが、今や第三帝国軍の兵士が肩で風を切って歩き、至る所に緋色基調の大きな旗が掲げられている。
国境を越え電撃の如く攻め込んできた第三帝国軍に怖気付いた共和国政府は、自ら宣戦したにも関わらず首都を捨て一目散に南の大陸へ逃げてしまった。
「ちぇ、今日は晩飯なしかぁ」
夜の路上で悪態をつくエマは、元々共和国の大手製紙会社の令嬢だったが、厳しい親に反発して喧嘩や非行に明け暮れていた。
やがて第三帝国軍が首都に入城してくると両親も合衆国へ亡命しようとするがエマはこれに反発して街に残り、若干17歳の娼婦として生計を立てている。
「やめて!来ないで!」
エマが裏路地を歩いていると女性の甲高い悲鳴が聞こええてきた
様子を見に行くと、第三帝国兵士がエマより少し年上くらいの綺麗な共和国人の女性に馬乗りになって襲っている。
「キモいことしてんじゃねェよ、豚野郎」
そう言ってエマは近くにあった酒瓶で思いっきり兵士の鉄兜をどついた。
「イッテェなクソ女、邪魔すんな」
割れた酒瓶を払いながらフラフラと立ち上がって睨みつけてくる兵士にエマはすかさず金的を喰らわせた。
「おぐぅえぇ?!」
目を白黒させて悶える兵士。
「うるせェよ、やりてェんだったら金払えよ!だったら私が相手してやっからよ」
そうニヤニヤ勝ち誇るエマ、しかしそんな隙をついて兵士が銃を構える。
「やりやがったな!ぶっ殺してやる」
「おいちょっと待て!銃は卑怯だろうが」
金的をしといて矛盾発言をするエマ、しかし兵士に血走った目は確実にエマを殺さんとギラついている。
「コラッ貴様!何をしてやがる!」
エマの後ろからの何者かが怒鳴りつけてくる、振り返ってみてみると、立派な軍服に身を包んだ将校が拳銃を構えて立っている。
「ッチ・・」
逃げ場がなくなったエマが覚悟を決めようとしたその時。
「裏路地でなんて卑劣な真似をしてるのだ貴様!」
その将校は明らかにエマではなく、エマの目の前にいる兵士に向かって怒号を飛ばしている。
「しかし、この女が・・」
「言い訳はいい!その粗末なモノをしまってとっとと立ち去れ!」
将校がそう命令すると。
「くそったれ、劣等人種ルーツのクセに!!」
そう言って兵士はそそくさと逃げていった。
「うちの兵士がすまなかった、怪我はないか?」
拳銃をしまってそう聞いてくる将校。
「私よりそこに転がって怯えてるネェちゃんに聞けよ、私ゃ見ての通り無傷だわ」
「え?君が襲われてたわけじゃないの?」
困惑しながら将校は転げている女性に手を差し伸べようとするが。
「やめて!」
と将校の手を払って逃げていってしまった。
「おや、嫌われてるなぁ全く・・」
そう笑いながら再びエマの方をみる将校。
「そりゃそうさ、敵に助けられたきゃないだろうよ」
エマも笑いながら返す。