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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

桜の国の百合畑

元婚約者としては誠に遺憾だが、王弟殿下には破滅していただく。

作者: れとると
掲載日:2024/04/10

 8000字ほどの令嬢ざまぁもの。がっつりではありませんが、百合です。

『アカシア伯爵令嬢ミモザ・ブロッサム! お前との婚約は破棄だ! 俺はこのカトレアと結婚する!』



 ……その結末が、今や懐かしい。


 私が貴族学園にいた頃、私の婚約者を篭絡した男爵令嬢カトレア。


 恐ろしい女でした。未来を熟知している節すらあった。



 私は婚約者の第二王子エラン殿下にたびたび諫言したものの、受け入れられず。


 周囲を味方につけようと動くも、常に先回りされて頓挫しました。



 カトレアは王子だけではなく、幾人もの男を味方につけていました。


 騎士団長の息子メナール。


 枢機卿の子息ライル。


 宮廷魔術師も務める侯爵の令息ルカイン。



 孤立した私は、これはさすがに敵わぬと逃げ出した。


 卒業間近に衆目の前で婚約破棄されたときは驚きましたが。


 これも粛々と受け入れ、卒業資格を手にして領に引き上げたのです。



 王家側から進めていた婚約の、王子個人の勝手による破棄。


 我が伯爵家は相応の詫びをいただき、一時うるおいました。



 ですが、身分差のある望外の立場からの失墜。私自身は、次のお相手など望めません。


 ゆえ、生前贈与として領の隅の森をいただき、そこに屋敷を建てて引きこもりました。



 とはいえ、輝かしい未来を約束されている王子たちの中心に……あの女がいるわけで。


 私と私の一族が不遇な扱いを受けるのは、目に見えていました。


 そう考え私は、我々は、何年もかけ、備えた。必死に駆けずり回った。



 ――――その結果。私は今、切っ先を突きつけられている。



「気が急いておられるようですね、エラン()()殿下」



 目の前の男……エラン殿下は、軽装ながらも、鎧姿。


 手にした剣は私に向いているものの、揺れが大きい。


 顔には疲労と険、皴と隈が見て取れます。髭も剃っておらず、かつては美麗だったお顔が台無し。


 口で荒く呼吸しており、目も血走り、顔に汗をかいています。



 しかし……この状況。どうしましょうかね。



 私の屋敷を訪ねてきた、エラン殿下。


 数年ぶりの再会の挨拶もそこそこに、話があるからと言われ、部屋に招き入れたら。


 いきなり剣を抜かれるとは、思いませんでした。



 ……けれどもエランは、追い詰められ、緊張の極致にあり、かつ私を警戒している様子。



 ――――詰めろ逃れつつ三手詰め、といったところですかね。



「お疲れのご様子です。まずはお座りくださいませ」



 私は椅子の背もたれを引いて、彼に少し微笑みかける。


 それからテーブルを回って、反対側にゆっくりと歩いた。


 切っ先は常に私の方を向いていたものの彼は動かず、私はエランとテーブルを挟んだ。



 ……やはり。私の余裕ある態度に「何かある」と警戒し、動けませんでしたね?



 ――――まずは一手。必殺の間合いは外れ、詰めは逃れました。



「ああそう。お茶をお出しいたしましょう」


「貴様が出す飲み物などッ!」



 ふふ。どんな目に遭って来たのでしょうね。警戒のしすぎではないでしょうか。


 疑いの色が出すぎていて……かえって行動が読みやすいのですが。


 私は応えず、沸いた湯を注ぎながらお茶の準備を始めます。



「少しのお時間をいただきますので、おかけになってお待ちください」



 改めて、席を手で示すと。


 エランが、用心した様子で歩き、椅子に腰かけた。


 抜き身の剣には手を掛けているが……座り、大きく息を吐いている。



 ……強く緊張しすぎで、集中力が持たなくなりましたね。案の定です。



 ――――これで二手。すでに一足では、斬り掛かれないでしょう。



「使用人もおりませんので……お待たせいたしました」



 私は無作法ながら、テーブル向かいから中央に、カップを二つ、おく。



「いや、まて! ……こちらを貴様が、先に飲め」


「こちら、ですね?」



 私が確認すると彼が頷いたので、向かって右のカップを手元まで引いて。


 椅子に座り、一口。


 もうひと口含み、飲み下す。



 エランが、喉を鳴らした。だが、手は伸ばさない。



「毒など、入っていませんよ」


「フンッ、どうだか」



 だが彼は、耐えかねたのかもう一つのカップを引き寄せ、口をつけた。中身を半分ほど、飲み下す。


 喉が渇いた様子なのは、見て取れていました。


 飲みやすい温度で提供した甲斐が、あったというものです。



 ……私に選択させ、飲ませた。その時点で、油断しましたね?



 ――――三手。王手(チェック)。ふふ。毒など使いません。私が入れたのは()です。



 しかもこれ、私には効きません。慣らしましたので。


 容易い相手で助かりました。


 彼女……かつてのカトレアならば、こうはいかなかったでしょう。



 エランはようやく一息ついたのか、顔の険しさがすこし鳴りを潜めました。


 目元が僅かに緩み、そして……剣を腰から下げた鞘に、納めていきます。


 短い剣のようですが、納めにくそうです。一度立てばよろしいのに。



 …………しかし。疲労が嵩んでいたのか、効きが良いようです。お話が聞きやすくていいですね。



 ついでです。回りがよくなるよう、部屋を暖めておきましょうか。


 私が暖炉に指を向けると、私の魔力に反応し、そこに小さな火が灯りました。


 置いておいた薪に燃え移り、炎が大きくなっていきます。



「…………宝玉、か」


「ええ。このような辺境でも、最近では手に入ります」



 最初に魔力から火を起こしてくれた石……宝玉。


 緑の石・魔石を特殊な樹脂で包んだものです。


 魔石は何度も使うと割れてしまいますが、宝玉は使った分の魔力を後から込め直し、何度でも使えます。



 おや。エラン殿下はずいぶん苦い表情をされていますね。



「どうされました? 難しい顔をなされて」


「……………………外国由来の品だ。あまり気分の良いものではない」



 何を言っているのやら。単に、自分の商いを潰されたからでしょうに。


 しかも別に外国由来ではありません。外国()()で広まっただけ。


 まぁいいでしょう。気分も落ち着かれているようですし、話を始めましょうか。



「すぐご用件を……というのも風情がございません。よろしければ、近況などお聞かせくださいませ」



 私が問うと、彼は惑っている様子でした。


 それはそうでしょうね。最近はきっと、嫌なことばかりでしょうから。


 そうして、見たくはないものから目を逸らし。



「…………カトレアの行方を、知っているな。ミモザ」



 やはり。すぐ本題に切り込んだ。


 そうですか……屋敷に来るのは()()()()いましたが、彼女に用でしたか。


 用向きの察しもつきますね。



「いいえ。知るはずもありません」


「とぼけるなッ!!」



 エランが腰を上げ、テーブルを叩きました。


 彼のそばのカップが転がり、中身の半分がテーブルクロスにしみていきます。



「お座りくださいませ。彼女も、ご家族も、皆亡くなった。そうでしょう?」



 カトレアの実家、セルヌア男爵家はこの王弟の怒りにふれたらしく、お取り潰しとなりました。


 本人もご家族も皆、獄死した……となっています。



「違うッ! 墓が空だった! どこかで……どこかで生きているはずだ」



 ……あなた()墓荒らしをしたのですね。犯罪行為を、簡単に口にしないでほしいのですが。


 ふむ。そちらから話を持って行ってみましょうか。



「…………そういえば、同じことを仰ってた方がいましたね」


「はっ、まさかルカインがここに来たのか! 奴はどこだッ!」



 侯爵令息のルカイン。


 まだ家は継いでいないものの、学園卒業後、異例の早さで宮廷魔術師に抜擢されていました。


 研究室も持ち、独自に魔石量産法を開発、偉大な成果を残された、とか。



「お帰りになられました。私が、寄る辺のない女が行くなら娼館では、と言ったので。探しに行かれたのかと」


「入れ違いかッ! 娼館はもう探したし、奴自身も……くそっ」



 まぁルカインは、娼館まで行って。



 ――――捕まって、もう処刑されたのですがね。



「はっ。ルカインが来たならば、ライルは、やつは!」



 枢機卿のご子息、ライル様。


 学園を出た後は、御父上の後を継ぐべく、教団で多くの信を集めつつあった、とか。



「ああ、彼はカトレア嬢を探しにきたのではなく……匿ってほしい、と。何かあったのですか?」


「ぅ、いや。大したことではない。それで、今どこにいる」


「王都に戻られましたが」


「! そうか。やつは王都に隠れ家を……」



 ええ。王都の隠れ家に戻って。



 ――――そこで毒を飲まされましたよ。



「だが王都には俺は……そうだ、メナールも来たのではないか?」



 騎士団長を父に持つ、メナール。


 卒業後は本人も騎士となり、国境を中心に戦に参加し、戦果を重ねていたそうです。



「彼はライル様とは逆に、国外に出るのを手伝ってほしいと。案内をつけましたが、その後は」


「そ、そうか」


「慌てた様子でしたが、彼も何か?」


「いやいいんだ。だが息災ならばよかった」



 いいえ。メナールは。



 ――――彼が殺した者たちの遺族らに袋叩きにされた後、御父上に首を刎ねられましたよ。



「ふぅ……」



 話していて安心したのか、エランが椅子に荒々しく腰を下ろしました。


 私は立って彼の近くまで行き、カップを回収。


 戻って、次のお茶を煎れにかかります。



 …………ふふ。もう剣を抜く気もない。最初はあれだけ息巻いていたのに、可愛いものですね。



 次のお茶を供すると、今度はぐっと一息に飲み干されました。


 もう疑いもしない。単純です。


 彼は背もたれに寄り掛かりながら、片手で目元を押さえています。



 ……時間、量ともに頃合いですかね。



「お部屋はありますし、お疲れならば今日は休んでいかれるとよいでしょう」


「ああ……世話になる」



 カトレアのことを聞くの、もう良いようですね。


 では……次はこちらから、話をしましょうか。


 私は、サイドテーブルに置いておいた鈴をとって、鳴らしました。



 ほどなく奥の扉が開き、女性が一人入室。


 王弟殿下が……目を見開いておられます。



「か、カ!?」


「カトレア嬢に()()()()()()でしょう。


 部屋の準備を申し付けようと思いましたが……そうですね、まずは紹介いたしましょうか」



 黒に近い紫の髪をした女が。



「サクラ。私がとった、弟子です」



 私の隣まで来て、頭を下げる。



「でし……だと。なぜおまえが、何の弟子を?」


「学園の時も申しましたが、我がブロッサムの家系は占いに通じております。


 人の縁から機を知り、場合によっては時を見る。


 血縁外からも才ある子を迎えることがあり……サクラは()()でたまたま見つけたのです」


「女のお前が、なぜ娼館に行く」


「仕事です。高級娼婦には、人気でして」



 エラン殿下が、私の言葉を飲み込み切れず、疑いの目でこちらを見ています。


 ですがおそらく、頭がだいぶ朦朧としており……うまく考えられないのでしょう。


 その証拠に、サクラが気になるのに、言葉を紡げていない。十分に、効きましたね。



 ――――機は、熟しました。断罪の、時間です。



「サクラは数奇な運命をたどった子なのです。


 騎士に暴力を振るわれ、聖職者に薬を盛られて弄ばれ、魔術師に実験台にされたこともあるとか」


「!?」



 その顔……ふふ。あなたにとっては、とても覚えのある話でしょう? エラン。



「高貴な方に諫言したら怒りを買い、身を隠したそうですが……おや、どうしましたエラン様?」



 わなわなと唇を震わせ、冷や汗をかき、私の隣辺りから視線が逸らせなくなっているようです。


 さぞ……サクラから冷たい目で、見られているのでしょうね。


 すっと横を見ると、おや。私の方を見ていました。これは、私から言っていい、ということですか。



 では続けましょう。



「私、あなたに振られたことは気にしていないのです」


「な、に?」


「そのお心を繋ぎとめておけなかったのは、私が悪い。


 カトレアの方が上手(うわて)だった。それだけなのです」



 カトレアに関しては……尊敬すらしている。



 未来を知っていたとしても、常に正しい選択ができるとは限らない。


 だが彼女はそれを、やり遂げた。


 恐るべき差し手。手強く、学園にいた頃は毎日が本当に楽しかった。



 だから、こそ。



「ですがそんな私にも、許せないことがある。


 サクラをひどい目に遭わせた四人の男……その最後の一人を」



 じっと。エランの青い瞳を。震える目を、見る。



「ずっと探していたのですよ、革命軍に追い回されてる()王弟殿下?」


「き、貴様! 知って!?」



 知っていますとも。


 あなたが悪逆の限りを尽くして民を怒らせた結果、国王陛下はその座を明け渡すこととなった。


 そのくらい、さすがに辺境にも伝わってきますし……私は、いろいろと伝手がありますので。



「エラン」


「ひっ!?」



 サクラ……カトレアが、口を開いた。


 薬が全身に回ったエランは体がまともに動かせず、椅子の上でただ狼狽えるだけ。



「どうして、私をかばってくれなかったの? どうして、奴らの好きにさせたの?」


「あ、あ……」



 私が彼に飲ませたお茶、一杯半。


 そこに含まれていたのは……自白剤にも使える、薬です。


 ついでに体の自由も奪ってくれるもので、かつて司教となったライルが使っていた薬の、一つでした。



「私を、どう思っていたの。()()()


「お、おまえ、は」



 口の端に泡を浮かべながら。


 弱く首を振りながら。


 かつて彼女に篭絡された男は。



「魔石を産む、鳥。うるさくて、貧相で、縊り殺してやりたかった」



 その惨い本心を、語った。



(……最後の()が、切れた)



 エランから出ていた、最後の「縁の糸」がふっつりと切れたのが、見えました。


 彼の命運をぎりぎり繋いでいた、最後の絆が。



『――――ミモザ様! おられますか!』



 折よく、屋敷の外から呼びかけが聞こえました。


 ……もしも彼がカトレアの心を、縁を繋ぎとめていられれば。


 この来訪は、きっとなかったでしょうね。



「サクラ。お客様のようです。対応を任せます」


「はい、先生。失礼いたします」



 彼の横を通るとき。


 彼女はそちらを見もせず。


 涙はおろか、何の表情も……浮かべていませんでした。



 サクラが屋敷玄関へ向かったため、またエランと私、二人だけになりました。



 少しの時間はありそうですし……そう、ですね。


 あとは私が、愉しませてもらいましょうか。



「魔石が市場に溢れたときは、本当に驚きました。


 あれは自然由来のもの。ところが、何か生産法が確立されたというではありませんか」



 どんな人間でも小さな魔法が用いれる、便利なエネルギー源……魔石。


 しかし使いすぎると割れてしまうし、魔力のこめ直しもできない。


 自然出土しかせず、鉱脈もありません。



 それが急にたくさん出回り始めたのは、確か学園卒業から二年ほど経った頃でした。



「ですが、先代陛下が崩御なされ、第一王子殿下がご即位。


 王弟となったエラン様の妻が、カトレア()()()()と知って。


 私は、ピンと来たのです。何かある、と」



 エランは、何も答えず。


 しかしその瞳だけ、怯えた色をのぞかせながら。


 私の方に、向け続けています。



「調べ始めた矢先、身を隠すために〝サクラ〟となった彼女を見つけられたのは僥倖でした。


 魔石を生み出せる性質を持っていた彼女の体を弄り回し、あなたたちは。


 ――――人から魔石を取り出す手段を確立した。そうですね?」


「そう、だ」



 彼は首を振りながら、肯定しています。自白剤はよく効いているようです。



「国境の小競り合いの絶えないあたりで、敵味方問わず人をさらった騎士のメナール。


 王都を中心に怪しい薬を流行らせ、聖職者の身分を隠れ蓑にして人をかどわかしたライル。


 そして集めた人間を殺し、魔石を取り出していた魔術師のルカイン。


 先代国王を殺し、王弟として権力を手にして彼らを後押ししていた……主犯のあなた」


「そ、うだ」



 ……本当、ひどい連中。その結果、国民を怒らせて、革命まで起こしてしまうんだから。



 メナールは被害者遺族と、御父上に誅殺された。


 ライルは教団内部がもみ消しに動き、毒を飲まされた。


 ルカインは革命軍に捕まり、先日処刑されている。



 国王陛下を始めとした王族、およびエランの妻は、エランを売った。


 革命軍に助命を願い、国を明け渡し、首謀者(エラン)たちの行状をつまびらかにした。


 この男の逃げ場は最早、国のどこにもない。



 おそらく、カトレアからまた魔石を取り出し、資金を作って逃げるつもりだったのだろう。


 けど、それは叶わない。



「ほう、ぎょく、さえ」



 おや、聞いていないのに話し始めましたよエラン。まだ自力で喋れるとは。



「宝玉、さえ、出てこなければ」



 宝玉。何度も使える魔石。


 あれがでてきたせいで、彼らの大量生産法は立ち行かなくなったのです。


 まっとうな方法だったら……むしろ互いに益があったのですけどね。



 未加工の魔石は売れ行きが細り、しかし宝玉の生産元は外国。


 繋ぎのとれない彼らは慌て、さらなる増産……すなわち、虐殺に踏み切り。


 ことのすべてが露見して、革命を誘発。追われる身となった。



 しかし。よほど未練があったのですね、エラン。


 本当に、愚かな男。


 宝玉の、話。それは。



 それだけは――――聞かなければ、よかったのに。



 では。


 止めを。


 さしてあげましょう。






「宝玉を発明したのは、私です」






「え」



 エランの顔から、表情が抜け落ちました。



 宝玉は――――もっと未来に、別の人間が作り出すものでした。



 けどエランに婚約破棄されて、その太い縁が切れた瞬間。


 私は遠い未来に、宝玉が魔石にとってかわることを()()した。


 そうして見たアイディアから、そのまま製品を作り出し……国外を中心に流通させたのです。



 我らブロッサムの魔女は、縁を読む。


 常日頃から縁を広げ……それが切れた時、時を読む。



 とはいえ知ることができただけなら、私は多少の備えをして、それで終わりにしていたでしょう。


 けど、こいつらは。



 ――――私を、怒らせた。



「あなたがたが、カトレアに惨い扱いをしたと知って」



 彼女はいつも懸命だった。


 聡明で、忍耐強く、気高かった。


 私がもっとも敬愛する強敵(とも)、カトレア。



 こいつらは! 彼女の尊厳を、踏みにじった……ッ!



「私が()()()()()のです」



 私は、席を立ってテーブルを回り。


 椅子にまだなんとか収まっている、元婚約者の。


 その震える目を、間近で、真っ直ぐに見て。



 ずっと我慢していた一言を、突き刺した。






「貴様を破滅させるためになッ!!」






 彼の目が、ぐるんと回り。


 口から吐き出される泡が増え。


 ずるり、と椅子から落ち。



 無様に床に、倒れ伏した。




「先生」



 扉を開け、カトレア……サクラが入ってきた。



「失礼します!」


「どうぞ。あとはお任せいたします」



 幾人かの革命軍の方たちが、室内になだれ込む。


 手早く、エランを部屋から運び出し始めた。


 ゆっくりと、扉が閉まり。



 私はかつての強敵(とも)、今は弟子となった彼女と二人、残された。


 その黒い瞳が、潤んでいる。



「さすがです、先生。お見事でした」



 そう真っ直ぐ褒められると照れる……いえ、こういうところこそ、彼女の強みですね。


 胆力強く、勇気をもって踏み込める。それに何度、先を行かれたことか。


 私は首を振りつつ、言葉を紡いだ。



「ブロッサムの魔女は、今後100年の未来を決める大事を見る。


 確かに私は縁あって、その奥義に辿り着きました。


 ですが」



 私はサクラに、微笑みかけた。



「未来を使()()、という点に関してはやはりあなたには敵わない」



 ほんと。私はこんなことにしか使えないのだから……笑ってしまう。


 おや、なぜ首を振るのです、サクラ。



「とんでもない。先生は、そのブロッサムの秘奥を。


 ()()()()()()()、使ってくれた。


 そうなんですよね?」



 む、しまった。ひょっとしてさっきの……聞かれていましたか。



「やっぱり先生――――ミモザが、最高よ」



 サクラが。かつての強敵(カトレア)の顔をして、言う。



 ……やはり私は、まだまだですね。


 優雅を是とするブロッサムの魔女が、感情的になって怒鳴り声を聞かれるなんて。


 私は照れを隠すために、少しの咳ばらいをしつつ話題を変えることにしました。



「今回のことで、あなたの余計な縁はすべて切れた。


 これからは、魔女として立派にやっていけるでしょう」



 太い縁は情報を多く呼び寄せますが、悪縁だと雑音になりやすい。


 サクラにとって、エランたち四人のそれは、特大の悪縁でした。


 そしてエランを最後に、その縁はすべて切れました。



 技や知識はもう教え込んであるので、これで魔女として独り立ちできます。



「皆伝です。これからは、サクラ・ブロッサムを名乗りなさい。


 もう身を隠す必要もありません。


 今後はご両親のもとに帰っても良し、好きに生きると良いでしょう」



 サクラは、少し驚いたような顔をした後。


 ゆっくりと、笑顔を浮かべた。



「はい。では引き続き、おそばにいさせてください。先生」



 ……………………ん?



「それは、よいですが……なぜ」



 我が強敵(とも)が、意味もなくそのような選択をとるはずがありません。


 よくないとは思いつつも、つい警戒心が湧いてきてしまいます。



()()()()()



 サクラの黒い瞳が。


 私を、じっと見ている。



「なにを」


「エランとの縁が切れた瞬間に。


 ――――私の今後100年を決める、大事を」






 彼女の見ていたのが、本当に未来(わたし)だったと、知るのは。


 もう少し、先の話。



 失われた王国にはかつて、このような警句があったという。


 「ブロッサムの魔女は、優雅を是とする。


  だからこそ、冷静な彼女たちを。


  決して、怒らせるな」



※続きの長編を連載しております。よろしければご覧ください↓

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【長編版】元婚約者としては誠に遺憾だが、王弟殿下には破滅していただく。

短編及びその後。サクラ主役の話です。完結保証
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― 新着の感想 ―
[一言] 地味にライルだけ温くない?あと純粋にサクラが見た未来読みたい
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