表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/20

05 癒やしの使いサナレ様

更新履歴

2024年 7月10日 第2稿として大幅リライト。

 フェンを胸に抱えて、屋敷の2階へ向かいます。もちろん、ダルトンとエリカも後ろからついてきます。二人の軽い足取りから、これから何が起こるのか興味津々なのが伝わってきます。

 ドアをノックすると、優しい声が返ってきました。


「入ってらっしゃい」


 部屋の中では、お母様がベッドの上で半身を起こしています。


「まぁ、その子はどうしたの? 子イヌ……とも違うみたいだけど……珍獣?」

「ち、珍獣ではない! 我はしん(・・)じゅう! 神獣フェンリルじゃ!」

「し、神獣様!? ゴホッゴホッ……失礼いたしました。では、カレン、あなたは加護を?」

「はい。5つ授かりました」

「5つも!?」


 か細い声が裏返りました。驚くのも無理はありません、加護は1つ授かるだけでも国の宝であり、奇跡なのですから。


「では先ほど、庭から射し込んだ光も……あなたが?」

「はい。豊穣の使いフィト様に、恵みをいただきました。これからは、お野菜も卵もいっぱい採れますよ」

「まぁ!」

「さぁ、次はお母様の番です!」


 お母様の体は、長い幽閉生活で重い病に蝕まれています。粗末な館とはいえ、ダルトンと私の二人で掃除をするには広く、じめついた空気とほこりで胸を病んでしまったのです。

 私はフェンを床に降ろすと、膝をつきました。手を合わせて祈りを捧げます。すると、お母様が頭を撫でてくださいました。髪がほどける感触が気持ちよくて、うっとりしてしまいます。


「健やかなる癒やしの使い――サナレ様、どうか我が元へお越しください」


 清らかな輝きが湧き上がって、体を包むのがわかります。ほんわかと暖かくて、リラックス出来る――そんな輝きです。

 ふわりと軽やかな布が頬を撫でるのを感じて目を開けると、白い衣のドレスを纏った女神様が漂ってらっしゃいました。たおやかな髪の色は銀です。

 ダルトンとエリカが跪きました。

 ベッドの上で跪けないお母様は、あたふたして顔を布団に突っ伏しました。


「我が加護を与えし娘、カレリーナよ、何用ですか?」

「サナレ様、どうか母ナディアの病をお治しください」


 サナレ様はお母様を見ると、優しく微笑まれました。


「ナディアよ、顔を上げなさい」


 お母様がやつれた顔をサナレ様に見せました。痩せた頬と土気色の肌が悲しいです。


「長く胸を患っているようですね。息をするのも苦しいでしょう……」


 サナレ様は、右の手のひらをお母様の胸にかざされました。ほわっとした光が周りを照らします。


「胸に潜みし陰よ、退きなさい」


 サナレ様の手のひらから発した光がすべて胸に吸い込まれました。お母様の頬にみるみる赤みが差していきます。

 すーっ、はーっ。お母様の深呼吸なんて、いつ以来でしょう?


「まぁ、胸が楽に……。こんなに息がしやすいのは何年ぶり……」

「お母様!」


 思わずベッドに上って、お母様に抱きついてしまいました。淑女にあるまじき振る舞いにお母様は少し戸惑われましたが、優しく抱き止めてくださいました。


「心配かけましたね、カレン……もう大丈夫ですよ」


 お母様の瞳からあふれた涙が、ぽたぽたと私の頬に落ちてきます。私の瞳からも涙が溢れて、布団を濡らします。

 ポケットからハンカチを取り出す音が聞こえたので、ダルトンが目頭を押さえているのでしょう。エリカが鼻をすする音も聞こえます。


「カレリーナよ、ナディアは運動不足です。この部屋から出して、其処なフェンリルと散歩などさせると良いでしょう」


 フェンの丸い瞳が吊り上がりました。


「なんじゃと! このワシをイヌ扱いする気か!?」

「そのかわいらしい姿で凄んでも、怖くありませんよ」

「ぐぬっ……ぬぬぅ……」


 肩を震わすフェンをスルーして、サナレ様がこちらを見ます。


「体をいたわりなさい、カレリーナ。さすれば、我が力に頼ることもないのです」

「はい。心がけます」


 サナレ様は慈悲深い笑みを残して、光の余韻と共に去っていきました。

 ――残されたのは静寂。目の前で繰り広げられた奇跡に、みんな言葉を失っています。

 私は、ぴょんとベッドから降り立ちました。


「さ、お母様、立って。これからお屋敷を大掃除ですよ!」

第6話を、明日7/11に更新予定です。


【大切なお願い】

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

応援して下さる方、ぜひとも

 ・ブックマーク

 ・高評価「★★★★★」

 ・いいね

 を、お願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ