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04 悲しい思い出

更新履歴

2024年 7月8日 第2稿として大幅リライト。

 ――それは、5年前のこと。


 離宮の庭に次々と騎士たちが踏み込んできます。その数、10人はいたでしょうか。逃げるニワトリを追って畑の苗を踏み潰し、実った野菜を剣で薙ぎ払います。


「ああ~っ、トリさんが~っ、お野菜が~っ」


 まだ5歳の私は、大粒の涙をこぼしました。

 お母様が膝をついて、私を後ろからそっと抱きしめます。まるで、平民が騎士に跪くように――。


「クッ……ナディア様……カレリーナ様……」


 後ろでは、今よりわずかに白い髪が少ないダルトンが、左右の腕を騎士にひね上げられ、地面に押しつけられています。

 一見して高価とわかるかかとの高い靴が、目の前で踏みつけられました。


 姉のイザベラ王女殿下です。正妃であるヴィクトリア陛下の第一王女で、私より6つ年上の当時11歳。腰まで伸びた真っ赤な髪と、金色の瞳がヴィクトリア王妃譲りで、気位の高さが切れ長の目尻に現れてます。

 お母様が私を包むように頭を下げ、懇願しました。


「イザベラ王女殿下! どうかおやめください!」

「フン! こんなみすぼらしい畑、取り潰します。離宮の庭をなんだと思っているの!」

「支給されるお金が少なくて、仕方なく……」

「あきれた! 王宮を取り仕切る王妃陛下を批判だなんて。お目こぼしでここに住まわせてもらっているくせに!」

「も、申し訳ございません」


 お母様は、額を地にこすりつけて頭を下げます。腕の中の私もおでこに土がつきました。平民上がりの側室であるお母様には、第一王女殿下に抗う術などないのです。

 騎士たちはますます勢いづいて、畑を荒らしていきます。捕まったニワトリがグッタリと首をもたげ、踏み潰されたトマトが土に赤い染みを作りました。がんばって耕した畑を潰すのが楽しいのでしょうか? みんな笑っています。


「やれやれ、食べ物を粗末にしちゃいけね~なぁ」

「誰です!?」


 イザベラ王女殿下が振り返ると、胸元が大きく開いた鎧を着た女騎士が立っていました。剣を構えた門兵が左右で牽制しているので、堂々と正面から入ってきたようです。


「お前は、王宮騎士の……」

「切り込み隊長エリカでございます」


 エリカと名乗った騎士は胸に手をあて、軽く頭を下げました。


「王宮騎士のくせに、私にもの申そうというの!」

「いえいえ、とんでもない。そんな大それたこと、考えてもいません。ただね――」


 エリカがニタリと笑いました。子供心にも恐怖を覚える、狂戦士バーサーカーの顔です。


「ご存じの通り、私の加護は『剣の使いカリーカ』でございます。このカリーカ、空腹だと血に飢えるので、私は常に何かを口にする必要がありまして――」


 エリカはゆっくりと地に落ちたキュウリを拾って、土を払いました。


「だから……私も、カリーカも、食べ物を粗末にするヤツが許せないんですよ」


 キュウリをかじりながら、燃えるような真っ赤な瞳が王女殿下を睨みました。


「わ、私に対して無礼な! この者を捉えなさい!」


 そばにいた騎士がビクッとして、うろたえます。

 エリカが「アハハハ」と大笑いしました。


「無理ですよ、イザベラ王女殿下。私を捕らえるなら、騎士団丸ごと連れてこないと」

「おのれ……不敬罪で牢獄に入れてやる……」

「人より上位の存在であるカリーカ様に、不敬は通じませんよ。カリーカ様の不興を買えば、どうなるかわかるでしょう?」


 エリカは、王女殿下の耳元にそっとささやきました。


「暴走すればアタシにも止められない。ここにいるみんな、首を刈られてあの世行きです」


 イザベラ王女殿下の顔から、サーッと血の気が引きました。真っ先に首が飛ぶのは、すぐそばにいる王女殿下ですから無理もないです。


「なーんてね! アッハッハッ!」


 エリカのたくましい腕が、王女殿下のか細い背中をバンバンと叩きました。


「クッ! 今日のところは引き上げてあげます! 覚えておきなさい!」


 王女殿下はエリカの腕を振り払うと、一目散に屋敷の外へ逃げていきました。畑を荒らしてた騎士たちも慌てて続きます。

 エリカが満足げに鼻を鳴らしました。

 この方は救世主でしょうか? 私とお母様を助けてくださいました。


「改めまして、王宮騎士団切り込み隊長エリカです。これからちょくちょく寄らせてもらいますよ」


 ――そう。これが、私に剣術を容赦なく仕込むことになる、エリカとの出会いなのです。



  ◆  ◆  ◆



 フェンが半目になって、むーんと唸っています。懐かしい話をしてしまいました。


「フン! そんなヤツら、次に来たら我が蹴散らしてくれるわ!」


 ダルトンが、うんうんと頷きます。


「フェン様であれば、造作もないことですな」

「人だろうが魔物だろうが全て滅殺するまで」


 ぬいぐるみの丸い顔が、牙の並んだ口で切り裂かれたように二分されました。神殿で降臨した時と同じ、狂気をはらんだ素の顔です。


 ――けど、もう怖くありません。フェンは私を護るために使わされた、フワフワでモコモコの神獣様なのですから。

第5話を、明後日7/10に更新予定です。


【大切なお願い】

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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