20 初めての野営
あ~ん、んぐんぐんぐ……。
「ふわぁぁ! おいしいぃぃぃぃ! こんな美味しいお魚初めて!」
「川魚を焼いただけじゃぞ?」
「だって、取れたてだもの。香りが違います」
「まぁ……離宮に送られてくる魚は、腹を下しそうなものばかりだったからな」
そう――。たまに王宮から送られてくるお魚やお肉は、どれも古くてイヤな臭いがするものばかりでした。
「綺麗な星空が、一層美味しくしてくれてるのかもしれないです」
森の間から満天の星がきらめいて、私の心をワクワクさせてくれます。
「野宿一つでそこまで盛り上がれるとは、大したもんじゃ」
フェンは呆れながらも、愛用のお皿に盛った焼き魚を食べています。
「フエゴ様も、お魚を食べませんか?」
「んン?」
焚火に息を吹き込んでくださっていたフエゴ様が、こちらに振り返りました。
「ワシは食事などという非効率な栄養摂取は行わん。お前の精神力さえあれば、いつでもこの世界で実体化出来る」
「そうですか……。火を起こして、お魚まで焼いてくださったのに、申し訳ありません……」
「気にすることはない。火の使いはすなわち、火を使った料理の使いでもあるのだ。絶妙の火加減であろう?」
「はい! とってもおいしいです!」
「お主が望むのであれば、国ごといい具合に焼いてやるんだがな? ん?」
「……そんな物騒な料理はいいです」
グアッハッハッ、とフエゴ様が豪快に笑われました。いつ聞いても神の御使い様の冗談は笑えません。
「さぁ、寝床が出来ましたよ」
焚火から少し離れた木の根元に、枝と葉っぱの小さな天幕が出来ていました。天幕は森の一部であるかのように、生きた枝葉が絡み合っています。
「フィト様、ありがとうございます! とっても素敵です」
「礼には及びませんよ、カレリーナ。わらわはそなたを守護する身ですから。それにしても――」
フィト様が眉をひそめました。何か気になることがあるようです。
「3つの加護を同時に召喚して平気なのですか? 普通なら精神力が枯渇して、卒倒しそうなものですが……」
「ぜんぜん平気です。頭痛もまったくないですし」
「おかしな子ですねぇ、そなたは」
フェンがボリボリと、魚をずらりと並んだ牙で砕きながらぼやきました。
「5つも加護を授かった時点でおかしいんじゃよ。さっさと世界の支配者にでもなればいいんじゃ」
「そうやってそそのかして……。これまでどれだけの人を惑わしたんです?」
「さぁのう……加護者がどうなったかなどと知ったことではない。所詮、我は牙を突き立てるしか能が無い、戦の神獣よ」
「そんなことないですよ。フェンはモコモコして可愛いじゃないですか」
「か、可愛い? 人をペット扱いしおって……。そんなことを言うのはお前だけじゃ」
怒りながらも照れてるフェンを見てると、普通のイヌみたいに思えて可愛いです。
「物騒なことを言ってないで、もっと楽しい話をして下さい。ほら、フエゴ様も、フィト様も。夜は長いんですから、いっぱいお話ししましょう」
「よかろう」
「いいですよ」
フィト様が蔦を操って、森の奥から丸太を運んできました。フエゴ様と並んで座って、焚火を囲みます。
「フエゴ様、フィト様にあまり近づくと、燃えてしまわないですか?」
常に体が燃えているフエゴ様の火の粉が、チラチラとフィト様の緑の体に降りかかって心配です。
並んで座る御使い様が顔を見合わせて、笑みをこぼしました。
「大丈夫ですよ。命ある木は燃えにくいものなのです。万一燃えたとしても、必ず再生しますしね」
フエゴ様が同調して、うんうんと頷かれました。
「命の輪廻じゃな。火とは焼き尽くすだけではない。再生の始まりでもあるんじゃよ」
生を受けてわずか百年しかない人の営みと、悠久の時を越えて世界を見守る御使い様たち――。
今夜はどんな吟遊詩人でも奏でられないような、とびきりの神話が聞けそうです。
次回更新は、8/21(水)に『転生少女の七変化 ~病弱だった少女が病床で作った最強7キャラで、異世界をちょっと良くする物語~』をアップ予定です。
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