17 決意
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2024年 7月30日 第2稿として大幅リライト。
「カレリーナ様、お手紙が届きました。おそらく婚約の申し込みかと」
「また!?」
自室のアンティーク……といえば聞こえがいいけど、すごく古ぼけた机の上にダルトンが5通の封書を置きました。すでに山と揉まれているので、全部で50通はあります。このままだと国中の貴族から婚約の申し込みが来かねません。
「仮にも王族なのに、随分気軽に申し込みが来ますね」
「弱小貴族にでも嫁いで、大人しくしてくれれば王家も安心ですからな」
「そうね……フェンがいなければ、とっくに殺されてるかも」
ちらっとソファにいるフェンを見ましたが、神獣様はぬいぐるみの姿で惰眠をむさぼっています。丸出しのお腹と、口元にこぼれた固いパンの欠片からは、一国を滅ぼしかねないといわれる凶暴さはまるで感じられません。
「いかがいたしますか?」
「すべてお断りの返事をしておいて」
「よろしいのですか? 中には学があり、見目の良い男もいると思いますが?」
「私を飼い殺しにするために選ばれた貴族たちでしょう? そんなの御免よ」
「畏まりました」
ダルトンは両手で封書の山をすくい上げると、頭を下げて部屋を出て行きました。
「はぁ……」
このところため息ばかりが出ます。窓から狭い庭を眺めて、気持ちを整理することにしましょう。
国を出る意志はありません。迎え入れてくれる国はあると思いますが、戦争の火種になってしまいます。
王家としては、私に都合のよい弱小貴族をあてがって、5つの加護の力だけを利用したいのだと思います。王族として国のために尽くすのは当然ですけど、私やお母様を幽閉してきたヴィクトリア王妃陛下たちの思惑通りに事が進むのは面白くありません。
かといって、私の味方になってくれるような貴族がこの国にいるでしょうか? 王家に逆らって、私とお母様をかくまってくれるような……。
先日の夜会で出会ったグラスター卿の顔が、何故か思い浮かびました。バサバサの髪に無精髭、身なりを気にしないことは明らかだったけど、不思議と不快感はありませんでした。何より垂れた眼差しが穏やかで、フェンが懐いています。
――私の心は決まりました。
◆ ◆ ◆
その夜。
ノックをして部屋に入ると、お母様は窓際の椅子に座って、月を眺めてらっしゃいました。
私の後ろを、ぬいぐるみ姿のフェンがついてきます。
「まだ起きてたんですね」
「月が綺麗だったから、眺めていたの」
お母様のそばに歩み寄ります。
「お体の具合は?」
「もうすっかり。あなたの加護のおかげね」
「よかった……」
「どうしたの? 思い詰めた顔をして」
「お母様……」
決意してきたはずなのに、言葉が出ません。この先を口にすると、お母様に寂しい思いをさせてしまいます。この何もない離宮に、一人留め置くことになってしまうのですから――。
「お母様……私は……」
うつむいた顔を上げました。――言わなければなりません。先延ばしにしたところで、いつかこの日が来るのだから。
「私は……フェンと旅に出ます」
お母様は驚きませんでした。身じろぎもせずに、私の目をまっすぐに見つめてくださいます。
「この国を知りたいんです。書物の知識だけではなく、実際に国を見て回りたい。私が5つの加護を授かったことには、きっと意味があるはず。私が為すべき事は何なのか――それが知りたい」
胸に溜めていた思いが、堰を切ったように溢れ出ました。
お母様は、すべてわかっていたかのように、ゆっくりと頷きました。
「私のことは心配いりませんよ。寂しくなるけど、ダルトンが守ってくれます」
そして、悪戯っぽく微笑みました。
「恋を……見つけるつもりね?」
心を見透かされていました。国を知り、自分の為すべき事が知りたいなどと言いながら、心の奥底は――恋をしてみたいのです。
王族に逆らう者がいるとは思えないけれど、どこかに全てを承知で私を受け入れてくださる方がいるかも知れない。
頬が熱くて、耳まで真っ赤になっているのがわかります。
「あなたは、どこに出しても恥ずかしくない娘です。絶対に幸せになるのですよ」
「はい!」
熱い想いと一緒に、暖かい涙が瞳に溜まっていきます。お母様の瞳も涙が一杯です。
お母様の元から、巣立つ時が来たのです――。
第18話を、7/31(水)に更新予定です。
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