13 無精髭さんとの出会い
更新履歴
2024年 7月24日 第2稿として大幅リライト。
――夜会って、色んな人がいて面白いです。壁の花になったことで、大広間を見渡す余裕が生まれました。
こちらをチラチラ見ている若い貴族がいます。私に話しかける機会をうかがっているのでしょうか? けど、フェンが恐ろしくて近づけるわけがありません。
ローレット殿下がうさん臭そうな老貴族たちと話をしています。みんな上辺だけの笑顔で、腹の探り合いをしている感じです。
オーケストラが奏でる優雅なメロディに合わせて、ダンスに興じる人たちもいます。人気のご令嬢は、順番待ちの列が出来ているようです。
(お相手がいれば、私もダルトンに鍛えられたダンスを披露することが出来るのですが……)
残念ながらそんな機会は巡ってきそうもありません。血のにじむようなレッスンで身につけたダンスですから、いつか披露することがあれば良いのですが……。
ふと後方のテーブルに目を向けると、誰もがほとんど手を付けない立食の料理を、ひとり黙々と食べている御仁がいることに気づきました。
歳のころは30過ぎくらい――。夜会だというのに顎には無精髭を生やしています。しかも、礼服の下のシャツがヨレヨレのしわだらけで……。
(ここに出席するような貴族であれば、メイドを雇えないはずはないのに……)
――ということは、好きであのような格好をしていることになります。
無精髭さんは皿に盛った魚のムニエルの匂いを嗅ぎ、ソースを指でペロリとなめると、口の中でモゴモゴと味を確認しました。彫りの深い二重の垂れ目が一層下がります。
ぷーっ。
思わず吹き出してしまいました。淑女にあるまじき行いです。すぐに口元を押さえて、身を正します。
イザベラ王女殿下が顔をしかめました。
「辺境者が場違いな……」
どうやら辺境のお方のようです。
無精髭さんはその後も、パイに、肉料理に、ケーキにと、少しずつ皿に取り分けては、味見をしていきます。
作法からあまりにも逸脱していて、おかしくてたまりません。
「側室の娘め、何がおかしいのよ。不快な」
イザベラ王女殿下から、そんなお小言が聞こえた気がしました。これはいけません。自らを律して大人しくしていなければ。
イザベラ王女殿下が、気の強そうな目をしたメイドに何か耳打ちをしています。悪い予感しかしません。――なぜなら、メイドのトレイには背の高いグラスが隙間なく並べられているのです。
扇で隠したイザベラ王女殿下の口元から、白い歯がこぼれました。
これは……フェンが忠告してくれたワインかけが来るのでしょうか?
第12話を、7/25(木)に更新予定です。
【大切なお願い】
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
応援して下さる方、ぜひとも
・ブックマーク
・高評価「★★★★★」
・いいね
を、お願いいたします!




