12 壁の花になりました
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2024年 7月23日 第2稿として大幅リライト。
壇上の玉座にジスモンド陛下が座り、ヴィクトリア王妃陛下が傍らに立つと、オーケストラが華やかなメロディを奏で始めました。夜会の始まりです。
陛下が自分を紹介してくれるのではとちょっと期待しましたが、触れずじまいでした。五加護姫としていくら騒がれようと、側室の姫など取るに足らぬ存在ですから当然です。下手にお兄様より目立ってしまうと、生きづらくなってしまうし、ちょうどよかった気もします。
ローレット殿下が壇上を降りると、次代の王に取り入りたい貴族たちの輪が出来ました。
イザベラ殿下とシャーロット殿下が続くと、若く美しい貴族の男たちが取り囲んで――と、思ったら違いました。素通りして、私の元へ来ます。
(えっ? えっ?)
あっという間に、若い貴族たちに囲まれてしまいました。
「カレリーナ王女殿下、シュルツ侯爵家のバーンズと申します。お会い出来て光栄です」
「エドモンズ伯爵家のレインズでございます。おぉ、なんとお美しい」
「マール子爵家のビットリオと申します。以後、お見知りおきを」
「メ、メレディー子爵家のマルコット……」
男性といえば高齢のダルトンしか知らないので、いきなり押し寄せた若い男の人たちにたじろいでしまいます。王族らしく微笑みを絶やさぬように努力しますが、頬が引きつっているのが分かります。
(お姉様方を差し置いて、私に挨拶するなんて……)
横目でこちらを見ているイザベラ殿下とシャーロット殿下の唇が歪んでいます。とてもお気持ちを害されたようで……。
グルルルルル……グアァアオォォォォ!
フェンがおもむろに巨大化しました。神殿で出会った時ほどではありませんが、大人の背丈の倍ほどの大きさになって、群がる若い貴族たちを見下ろします。半開きの口から鋭い牙が覗いて、地の底から届くような声が空気を震わせました。
“我が守護する娘に言い寄ろうとは命知らずどもめ。食い殺してやろうか?”
「あわわわ……」
「お、お許しを……」
華麗な振る舞いを見せていた若い貴族たちが尻餅をついたり、後ずさりしながら逃げていきます。
(あれ? これじゃ誰ともお知り合いになれないんじゃ……?)
シュッと元のオオカミほどの大きさに戻ったフェンが、私の意を察して答えました。
「あんな馬鹿な若造どもが良いのか? お前はまだ若い、焦ることもなかろう」
それもそうか――。神獣様がそう言うなら納得するしかありません。フェンを怖がるようでは話も出来ませんし、ここは焦らずに成り行きを見守ることにしましょう。
フェンの本性を垣間見て呆然としているイザベラ殿下とシャーロット殿下に、スカートの裾をちょんと上げて頭を下げました。
「イザベラ殿下、シャーロット殿下、場を騒がせてしまい申し訳ありません。隅で大人しくしております」
我に返ってお二人が鼻を鳴らしました。
「そ、そうね! そうなさい!」
「その恐ろしい神獣様を大人しくさせなさいよね!」
こうして私は、壁際の花となりました。
フェンがあまりにも恐ろしかったのでしょう、近寄ってくる人はもう誰もいません。
自分の味方となってくれる貴族と出会えないかと目論んでいましたが、もう叶うはずもありません。満足げに後ろ足で頭をかくフェンが、ちょっと恨めしいです。
ため息が漏れるたびに、幸せが逃げていく……そんな心境です。
けど、奇跡はこれから起こるのです。――そう、10歳の私にはまだまだ早い運命の出会いが。
第13話を、7/24(木)に更新予定です。
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