11 ローレット殿下の加護
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2024年 7月19日 第2稿として大幅リライト。
大扉が開くと、豪華なシャンデリアの下に集う、千人を超える貴族たちの姿が目に入ってきました。いずれも国の要職であったり、領地を任されている重鎮の方々です。とはいえ年老いた者ばかりではなく、若々しい騎士やうら若い淑女の姿もあります。狙いはもちろん――次期王の指名を受けるとみられるローレット王太子に取り入ること。それから、五加護姫である私の品定め。
望むところです。幽閉されているおかげで、私には頼りになる友人が一人もいません。ダルトンやエリカ……とまではいかなくとも、味方になってくれるようなお方が必要なのです。――ただし、五加護の力を濫用するような方は困ります。国を揺るがすような力を持ってしまった私を、そっとしておいてくれるような……そんなお方がいるでしょうか?
「国王陛下ーッ!」
「陛下に栄光あれー!」
「我ら太陽神と共にーッ!」
一族を背後に従えつつ壇上に立ったジスモンド陛下は、鳴り止まぬ拍手を手で制すると、凄みのある声を響かせました。
「今宵もよく集まってくれた、皆の者」
再び拍手が巻き起こりました。
「国王陛下、万歳ーッ!」
「太陽の国、モンドウェル王国よ永遠に!」
ジスモンド陛下が再び、手で拍手を制しました。すぐさま大広間が静まりかえります。
「皆に集まってもらったのは他でもない、ローレットのことだ」
貴族たちが身を乗り出しました。予測がついていることとはいえ、王の口から語られるのを待ちます。
陛下は焦らすかのように、たっぷりと間を置いてから語り始めました。
「皆も知っての通り、ローレットが『祝福の儀』で授かった加護は、長年秘匿としてきた。それは……ローレットが授かった加護が、あまりにも強大だったからだ」
おおっと感嘆の声が上がりました。と同時に、ざわざわと戸惑いも漏れています。強すぎる加護とはいったい何なのでしょう?
「ローレットが授かったのは――」
貴族たちが固唾を飲みます。
「戦の使いマルスだ!」
地鳴りのようなどよめきが広がりました。
「おおぉ! なんと!」
「千年前……世界を戦野に陥れたという……」
「最強の戦神だ!」
感喜の声を上げる貴族たちを、陛下とローレット殿下は満足げに見下ろしています。
戦の使いマルスは、従う騎士たちに神の力を授ける――。ダルトンが教えてくれた歴史書には、そのように書かれていました。剣は鎧を切り裂き、弓矢は谷を越える。何でもない騎士団を一騎当千の精鋭たちに変貌させるのです。
「幼きうちに公表しては、闇に葬ろうとする輩が出るとも限らぬ――。それ故に秘匿としてきたが、ローレットは研鑽にはげみ、戦の使いに相応しい武と智を手に入れた。今こそ――」
陛下の鋼のような右の拳が、高々と掲げられました。
「戦神であるローレットを次の王に指名し、我が国こそが最強であることを、世に知らしめるのだ!」
まるで宣戦布告のような訓示に、大広間が揺れました。皆、熱狂して拳を振り上げています。
「陛下は列強に一歩も退かぬお構えだ!」
「ローレット殿下のお力があれば、それも可能!」
ジスモンド陛下は、厳かに両手を広げました。
「太陽の使いソルが、そなたたちと共にあらんことを」
大理石で出来た頑丈な大広間が、騎士たちの熱狂で揺れます。
太陽の使いソル――。それは、国に栄光をもたらすとされるジスモンド陛下が授かった加護です。昇る太陽に人が敵わないように、絶対的な武も備わるとされています。ですが、その強い力は大地を干上がらせることもあるといわれていて……。
(太陽の使いと、戦の使いが重なるなんて、文官の力がますます弱まりそう)
誇らしげなジスモンド陛下とローレット王太子殿下の背中を見ながら、重い息を漏らしてしまいました。気の合うことに、足元のフェンのあくびと同時に……。
第12話を、7/22(月)に更新予定です。
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