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更新履歴

2024年 7月18日 第2稿として大幅リライト。

 長い廊下を進む侍従の後ろを、フェンと共について行きます。廊下は真っ直ぐに伸びていて、並ぶ柱には豪華な彫刻が施されています。

 やがて、私の背の3倍はあろうかという扉の前に出ました。この先に大広間があるのでしょう。


(この扉の向こうで、国中の貴族が待ち受けているのですね)


 口の中が乾くのを覚えます。平民のお母様との間に生まれた私が、いよいよお披露目されるのですから、怯んでしまうのは仕方のないことです。好奇の目にさらされるでしょうが、5つの加護を授かったことで無下にはされないはず。


「こちらでお待ちください」


 侍従はそう言うと、衛兵が並ぶ廊下の隅に下がりました。

 ワシワシと音がしたので足元を見ると、フェンがのんきに後ろ足で頭をかいています。扉の周りに立ち並ぶ十数人の衛兵など、私を守る上で気に留めるほどでもないのでしょう。


 大勢の足音が聞こえてきました。廊下の奥からたくさんの侍従を従えて、ジスモンド陛下ご一行がやってきます。失礼がないように扉の脇に下がり、目を伏せてお待ちしました。


「お前がカレリーナか。顔を見せよ」


 金細工の豪華な靴の持ち主が野太い声で命じたので、顔を上げました。

 初めてお見かけするジスモンド陛下は、お母様の部屋に飾られた小さな肖像画通りのお方でした。金の髪は獅子のように逆立ち、凜々しい太い眉の下には同じく金の鋭い眼光があります。元は碧い瞳だったのですが、加護を授かった際に金に変わったと聞きます。赤いマントを羽織った体は大きく、獣の王である獅子が人の姿をしたら、こんな感じなんだろうと思わせます。けど、肖像画よりお顔のしわが少し増えたでしょうか?


「お初にお目にかかります、陛下。ナディアが娘、カレリーナでございます」


 ダルトンに教わったカーテシーでご挨拶をいたします。指先まで研ぎ澄まされた所作は、陛下に見せても失礼がないはず――。

 陛下の後ろから舌打ちが聞こえました。おそらくイザベラでしょう。正統なる姫君をイラだたせるぐらいには優雅だったようです。


「初めてではない。生まれたときに、一度見た」


 今度はヴィクトリア王妃陛下の眉がピクリと上がりました。赤子を抱くお母様の元を訪れた陛下を思い浮かべて、不快に感じたのでしょうか? それなら、もっと嫌な気持ちになってもらいましょう。顔を上げて、満面の笑みを陛下に――。


「再び拝謁出来ましたことを、うれしく思います」


 碧い瞳を真っ直ぐに陛下へ向けます。金色の髪とこの瞳の組み合わせを受け継いだのはローレット殿下と私だけ。二人の娘はヴィクトリア王妃陛下譲りの赤い瞳です。見た目だけなら、私の方が正統な血を受け継ぐ王女に見えるのです。

 真っ赤なドレスのイザベラ王女殿下が、陛下の横に歩み出ました。


「なぁに? その地味なドレス。そんな野暮ったい装いで夜会に出ようっての?」


 ピンクの可愛いドレスを揺らして、シャーロット第二王女殿下も前に出てきました。13歳にしては幼い仕立てのドレスですが、ウェーブのかかった金髪がいかにも愛らしいです。


「うわぁ、ホントぉ。そんな古い形なんて、今ドキ誰も着ないわよぉ?」


 小鳥のように軽やかな声が、嫌みったらしくはやし立てます。このドレスがお母様が陛下から賜り、サイズを直したものだと知ったらどんな顔をするんでしょう?


「平民の出には、これぐらいでよい」


 陛下の言葉に、イザベラとシャーロットが慌てて頷きました。


「そ、そうですわね、陛下!」

「お父様のおっしゃるとおりですわ!」


 あれ? もしかして助けてくださいました? 陛下のお顔をチラリと見ましたが、眼光は鋭いままで、とても自らの娘を見る眼差しとは思えません。

 ふあぁ~と、フェンが大口を開けてあくびをしました。立ち並ぶ牙が露わになって、姫殿下二人とヴィクトリア王妃陛下がたじろぎます。ですが、ジスモンド陛下とローレット殿下は微動だにしませんでした。


(フェンを怖がらないなんて……。ジスモンド陛下はともかく、ローレット王太子殿下の加護もフェンに匹敵するってこと?)


 ジスモンド陛下の加護は広く知れ渡っていますが、ローレット殿下の加護は公表されていません。いったいどんな加護なのか――。


「ジスモンド陛下の御成りでございます!」


 侍従の声と共に、大扉が開き始めました。――いよいよ、私の運命を左右する、王家を挙げての夜会が始まるのです。

第11話を、7/19(金)に更新予定です。


【大切なお願い】

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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