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絶世の血獣  作者: 椿うどん
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魔物? 怪物? 現る。

奈津芽と別れ冒険者ギルドを出た真守と芽愛は目的地を決めず、時々最近何か変わったことは無いか聞き込みをしながら街をぶらぶら歩いていた。


「それにしても商人が何度もあんなことに巻き込まれてるっていうのにここの通りは何も変わらないな。」


「そりゃあ、ひとくちに商人って言っても一体どれだけの商人がこの街にいると思ってるのよ。」


普段見る景色と何も変わらない様子の店通りを見回す。


マナルスの街は他の街と比べても栄えており、人によっては王都と比較しても遜色ない程だと言う。これもこの土地を治めている領主が優秀だということか。


そんな通りを歩いて見ながら人の流れに逆らわずに進む。


「ほんとに情報収集っていってもこれだけ沢山の人がいると聞き込みするのも大変ね。数をうてば当たるんだろうけどあまりにも多すぎるとね。」


歩き疲れたのか左右で手を握り、空へ腕を上げて体を伸ばす。


「やっぱり手当り次第に声をかけても仕方が無いし適当に商人と関わりが深そうな施設とかに行ってみる方がいいんじゃないか?」


「それでいいんじゃない? どこに行く?」


だいぶ疲れているのか特に考えもせず真守の意見に賛成する。


「それじゃあ考え込んでもどうにもならないし、んーと、あそこなんかで良くないか?」


そう言いながら真守が進む方向に指を指す。その指の先にあるのは大きなレンガ造りの建物だ。


その建物をみて芽愛も頷いている。


「衣服店ね。確かにあそこなら布とか服とかを取り扱ってる商人が出入りしてる可能性は高いわね。」


「だろ?」


「じゃあ、まずはそこに入ってみましょう。」


行き先の決まった二人は衣服店は逃げるたりもしないので特に急ぐこともなく歩いていく。


そして、人の波を横切り店の前に出る。店の前の看板には大きく『衣服店 ギャレットハウス』と書かれている。


店の中に入ると色とりどりの様々な服が目に飛び込んでくる。和服や、洋服、子供用の服から礼服まで様々な種類の衣服が置いてあるが、しかし二人の意識は入店と同時に嫌でも目に付く入口の真正面に飾られたマネキンだった。


店長のオススメと書かれた立て札の後ろに飾られているそのマネキンはピンク一色の全身タイツに大量のフリルの施されたミニスカートに黒のジャケットに麦わら帽子を被っている。当然ジャケットは前が開かれ中にはピンクタイツ以外何も着ていない。どこに需要があるのかさっぱり分からない格好だ。


芽愛は言わずもがなお洒落に無頓着な真守でさえ頬をひきつらせている。しばらくある意味その超前衛的な芸術(マネキン)にある意味目を奪われていた為だろう。背後から近づくその気配に気が付かなかったのは。


「あらぁん、いらっしゃい。当店は初めてですかぁん?」


急に声をかけられたことに多少驚きながらもそれを心の中に留めたのは芽愛も真守も流石だったが振り返った所にいた人物を見てパクパクと口を開け閉めする。


そこに居たのは「黒目はどこへ行った!」とツッコミたくなるほどに白く、鋭い目にこれでもかというほど口紅の塗られた分厚い唇そして頭には髪の毛一本すら生えていない顔、そして身長は軽く2メートルは超えているであろう男だった。


しかもその冒険者ギルドの奈津芽すら顔負けしそうなほど怖い顔をしているのに満面の笑みをうかべて可愛らしくしゃがみこみ猫撫で声で手をすり合わせているのだ。


声をかけられた喋り方から真守は一瞬オカマなのではないかと思ったが立ち上がったその男(女?)の身を包む衣装が上半身全裸にさっきのマネキンよろしくフリルが大量の白色のロングスカートであるのを見て出そうになった悲鳴を慌てて飲み込む。そして心の中で「男なの!? 女なの!? 男ならなんでそんなスカートで、そんな喋り方を!? 女ならどうして上半身裸なんだ!?」と叫ぶ。


「は、はい。初めて入りました。」


「嬉しいわぁん! 新しいお客様よぉ!みんなも覚えておくのよぉ!」


店内に響きわたるような大声で叫ぶと数人の店員が顔をのぞかせ「了解でぇーす。」「わかりましたぁーん。」「あらぁ? 可愛い子達ねぇ。」と声が帰ってくる。ちらっと見えたその人たちの衣装も二人には理解し難いほど最先端をいっていたのは気のせいだと信じたい。


確実にはいる店を間違えたと思いながらもその巨体で出入口を塞がれているため出ることが出来ない真守は仕方なく話しをする。


「実は俺たちは今とある情報を集めていて、よければ店長さんに話を伺いたいんだが。」


「よく見たらあなたたち異能者ギルドのとこの子達じゃなぁい!?」


「は、はいそうですが。」


「やっぱりそうなのねぇん! そんな有名どころの人達に入ってもらえるなんてとても光栄だわぁん! いいわよ! 何が聞きたいのか知らないけれど話を聞いてあげるわぁん!」


二人が異能者ギルドの人間だと分かるとさらにただでさえ大きな体の筋肉を膨張させさらに巨大化し喜びを表す。なぜポーズを摂る必要があるのか。


もはや若干の恐怖から怯えに変わっていることを悟られないように表情が変わるのを我慢する。


「あ、ありがとうございます。それじゃあ、店長さんの所に案内してもらっても」


「私が店長のギャレットよぉん! 店長なんて可愛くない呼び方するよりギャレちゃんって呼んでもらえると嬉しいわぁん!」


まさかのこの男が店長だという事実が判明する。それと同時にマネキンの前の立て札とギャレットを交互に見て何かを納得する真守。


完全に怯えきっている芽愛は気持ち少し小さくなって真守の手を握っている。「ギャレちゃん(ボソッ)」「おい、やめろ、お前がビビるなんてこの店長何者なんだ!?」


ヴレイブモンキーの群れを修行開始から半年で壊滅させ、真守ですら倒しきれなかったラクラクラスを一撃でしとめるあの恐ろしい程に強い彼女はどこへ行ってしまったのか。


つまり店長(こいつ)はラクラクラスやヴレイブモンキーよりも恐ろしい怪物(なにか)ということか!


「あらぁん? 何か失礼なこと考えてないかしらぁん?」


「ははは、何を言っているんですかギャレットさん。そうですか、あなたが店長でしたか。それじゃあ、早速話を伺ってもイイデスカ。」


「うふぅん、初対面だから緊張してるのねぇん。いいわよそれじゃあここだと他のお客様の迷惑になっちゃうかもしれないから奥に行きましょうん。」


そう言い残すとギャレットは「ギャレットさんなんて照れちゃってぇん。ギャレちゃんでいいのに、可愛いわぁん。」とか恐ろしいことを言いながら奥へずんずん進んでいく。


ギャレットが奥に行ったことによって出口が空いたのでこのまま帰ってやろうかという気持ちになった真守だったが帰った場合、既に異能者ギルドの者だということがバレているので後で何があるかわからないという恐怖から諦めてギャレットの後を追いかけたのだった。


もちろん芽愛は動かなかったので真守が強引に腕を引っ張っていった。


店のレジの奥に入るとピンク一色の部屋に案内される。壁も床もソファもテーブルも全てがピンク。大商人とかとの話をする場合これは失礼に値しないのだろうかと疑問に思う真守だったがギャレットに言われるがままソファに座る。


するとだいぶギャレットに慣れてきたのかゴリゴリ削られたSAN値を少し回復した芽愛が久しぶりに会話に入る。


「早速なんですが、このお店では商人との取引はよく行われていますか?」


「そうねぇ、割と色んな商人が来るけど、お得意様も何人かいるわぁ。それよりさっきまで下を向いていなかったからわからなかったけどあなた可愛い顔をしてるわねぇん。」


そう言いながらギャレットが舌なめずりをするとビクッと身体を震わせ再び俯いてしまう芽愛。それを見てギャレットはまた「恥ずかしがっちゃってああん、もう抱きしめたくなっちゃうぐらい可愛いわぁん」と自分の体を抱く。「やめて! 芽愛のライフはもうとっくにゼロよ!」と叫びたくなる気持ちをぐっと堪えて芽愛の代わりに事の経緯を簡単に説明する。


「なるほどねぇん。けど何か手伝えたらと私のところでは特に被害に遭った商人はいないと思うわぁん。少なくともお得意の中にはねぇん。」


「なにか小さなことでもいいんです。商人から変わったことを聞いたとか、他の客から妙なことを耳にしたみたいな。」


「そうねぇん、どんな事でもと言うと一つだけあるわねぇん。」


化物(ギャレット)との接触に耐えてきてようやく出てきそうになっている可能性のある情報にソファから気持ち前かがみになる真守。


何を勘違いしたのか同じく顔を突き出し手を顔に置くギャレット。必然的に二人の顔の距離は縮まる。当然真守は体を後ろに引く。


「残念ねぇん。」と呟きながらソファにもたれ直したギャレットは少し考える。


「最近羊毛の値段が上がっているわぁん。なんでも羊の数が減っているとかでぇん。」


指折り何かを数える。


「確か、三日前に来た目の前の店通りの肉屋の店主さんと羊肉の値段が上がってるって言って意気投合したのよぅん。」


その時のことを思い出して楽しそうに笑うギャレット。目の前で笑っているのがまだ芽愛やエットルナのような綺麗な女の子であれば真守の気持ちも和らいだだろうが、目の前にいるのがハゲでオカマの変態ときたら怖気しかしない。


「羊を飼っている牧場って言うとどこら辺にありますかね?」


「私と肉屋の店長さんが贔屓してるのはここから北に行ったところにある一人の若い男の子が経営しているところよぉん。その子もまた可愛いのよぉん。」


「牧場の羊ですか。ありがとうございます、とりあえずそこに行ってみたいと思います。」


ある意味ギャレットに慣れてきた真守は華麗に最後のセリフをスルーしてお礼を言う。


「お礼なんていいのよぉん。私としても異能者ギルドの人と繋がりを持っておいて損はないだろうっていう個人的な判断なのよぉん。むしろあまりお手伝い出来そうになくて申し訳ないわぁん。」


異能者ギルドに関わっておきたいという考えももっていたとは、一応この大きな店を盛り立てている店長と言うだけのことはある。


「いいえ、外で聞き込みしてても何も情報が得られなくて困っていたんです。それじゃあ、俺たちはこれで失礼します。」


「でも、今日はもうすぐ暗くなるから行くのは明日にした方がいいと思うわぁん。」


「分かりました。じゃあそのようにします。」


情報を得ることが出来た真守は一旦今日はギルドに帰ろうと芽愛を立たせて早足に『衣服店 ギャレットハウス』を後にする。


当然後ろから聞こえてくる「いつでもいいからまた遊びに来てねぇん!」というギャレットの声は無視した。



―――――――――――――――――――


ギャレット「はっ、名前聞き忘れたわぁん!」

真守「何か寒気が.......」

芽愛「ビクッ」

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