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絶世の血獣  作者: 椿うどん
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情報収集

ギャーギャーと怒る真守を落ち着かせた後、三人はギルドのとある一室の中で座っていた。


「それで結局のところ今日は何の話を聞きに来たの?」


応接室には表の受付や掲示板、食事処の騒がしさは一切聞こえてこない。ギルドの応接室では重要な情報のやり取りが行われることも少なくはないので全て防音仕様になっているのだ。


「うちのリーダーからの命令でね。最近頻繁に起こってるっていう事件についてね。」


「最近の事件っていうと牧場関連の方? それとも商人関連?」


「牧場?」


予想していなかった二択に真守はオウム返しに聞き返す。


「その反応だと商人関連の方みたいね。残念ながらそっちの方はほとんど情報が入ってきてないんだよね。」


「それでもいいわ、知ってることがあれば教えて。」


真剣な芽愛の表情に口元に指を立て考える。そして頭の中で情報を整理する。


「被害にあった人の共通点は商人達は全員馬車で移動中だったってことと逃げ出した護衛の冒険者達は一人残らず行方知らずってことぐらいね。」


「その商人たちはもちろん仕事中だったのよね?」


「馬車で商品運びの途中だったらしいからね。当然そうだと思うよ。」


「馬車ならでかいし移動するのも当然乗馬とかで移動するより遅い。何より遠距離の移動の場合適度に休憩をいれないと馬が走れなくなるから妥当なんじゃないか?」


「それもそうね。」


「それよりも、冒険者の方が妙じゃないか?」


真守は最初から感じていた疑問を口にする。


「そもそも冒険者ギルドは何で依頼を受けた冒険者の情報を持っていないんだ? 当然以来受注時の書類からその冒険者についての情報とかは出てくるんじゃないのか?」


「それが被害を受けた商人達のほとんどがギルド非公認で護衛を雇っていたらしいんだよ。」


「非公認?」


「本来商人が護衛を雇う場合は冒険者ギルドに依頼を出して書類で報酬や仕事内容を確定してから行うものなのよ。けど、それを無視して街の外とかにいる冒険者や逆に冒険者側から話をもちかけて正式な書類を通さずに護衛として雇われることよ。」


「非公認っていっても別に罰則とかはないから問題は無いんだけどね。何かあったら全部自己責任~、ギルドは関与しませんよってだけでね。」


芽愛の説明にエットルナが補足して伝える。真守は非公認で護衛を雇うということの意味を理解する。


「けど、ほとんどって言うことは何人かは正式にギルドで契約して護衛を雇っていたんじゃないのか?」


「真守くんの言う通りこの街でも一人だけ正式にギルドで契約して護衛を雇って出ていった商人がいたんだよ。」


「それならその商人に話を聞けば良くないか? もっと情報を得られるんじゃ?」


真守の当然の発言にエットルナは静かに首を振る。


「以来受注からしばらく経っても依頼完了の連絡がどこの冒険者ギルドにもなかったからね。もちろんどこかで魔物に襲われていないか確認しに行ったら発見した時には既にその商人は死んでたらしいよ。」


既に死人が出ているという事実に息をのむ。二人ともが自分たちが目の当たりにした現場にいたのがラインホッパー程度の下級魔物であったため死人はまだ出ていないと思い込んでいたのだ。


「その時にいた護衛は? そいつも逃げ出したのか?」


「それについては私も知らないよ。逃げ出したのか、知能の高い魔物に襲われて死体ごと食料としてどこかに持っていかれたのかね。」


「ならそこからは俺が話そう。」


扉が開き話に割って入ってきた男を見てエットルナが立ち上がる。


「ギルマス! もういいんですか?」


「ああ? あぁ、さっきの電話の事なら既に片付いた。ここは俺が引き受けるからお前は受付に戻れ。」


「えぇそんなー! さっき来たばかりなんですよ! 一緒に話だけでも聞かせてくださいよ、奈津芽さん!」


「てめえ、下の名前で呼ぶんじゃねえって何回言ったら分かるんだ!」


マナルスの街、冒険者ギルドのトップ、ギルドマスター姫屋(ひめや) 奈津芽(なつめ)


顔中におびただしい数の古傷をつけ刺し殺さんばかりの鋭い目付きでタバコを吸い、歩いている姿はチンピラと間違えられそうだが、れっきとしたギルマスだ。


本人は女のような名前を呼ばれることを嫌がるため、職員にギルマス権限で名字で呼ぶことを強制しているが名字も姫屋とチンピラ顔負けの極悪顔と並べるとしっくりこないのでギルドの職員は統一してギルマスと呼ぶことにしている。


一度誤って下の名前で呼んでしまった当時新人だった職員がぶん殴られて仕事初日から早退になったという話はマナルスの街ではあまりに有名だ。


そしてその元新人は諦めずに奈津芽を説得する。


「そんなこと言わずにぃ。そんな怒ってどうしたんですか。こーんな怖い顔ばっかしてるから冒険者からも敬遠されるんですよ!」


「お前のせいだろうが! いいから黙ってさっさと行け!」


手で目を釣り上げるようにして引っ張るエットルナの首根っこを掴んで怒鳴る奈津芽。当然身長の低いエットルナは猫のようにぶら下がる。がしかし、それでもタダでは転ばないのがこの女である。


「奈津芽マスターお願いします! 私できるだけ仕事したくないんです」


「てめぇにはそろそろ立場の違いってやつを教えてやった方がいいようだな.......。」


眉をヒクつかせながら拳を握りしめてエットルナの腹部に照準を合わせる。それを見てさすがにやりすぎたと感じたエットルナはその小さな体をばたつかせて奈津芽の拘束から抜け出す。そしてそのまま芽愛に笑顔で「また今度お茶しようね。」と言いながら逃げていってしまった。


「ったくあいつは。ほんとにどうしようもねえな。」


獲物を取り逃がしてしまった左手と殴るものがなくなった右手の力を抜いてため息をつく。


「そんなに怒らないであげてください。エッタも本当に悪気があってやっている訳では無いと思うので。」


「いや、悪気はあると思うけどな?」


奈津芽と同じく多々エットルナの被害に遭っている真守が芽愛のフォローに対して真顔でツッコミを入れる。


だが、当然二人は元から奈津芽がエットルナを殴る気はなかったことをわかっている。エットルナがどれだけ暴れようと元冒険者で、それもかなりの活躍を見せていた奈津芽の拘束を逃れられるはずがないのだ。それでも逃げられたというのは奈津芽の本質が優しいからだろう。


「分かってるよ。それでも怒らねえとあいつはどんどん調子に乗るからな。」


「あ、はいとてもわかりますその気持ち。」


やれやれと疲れた声を出しながら先程までエットルナが座っていた椅子に腰を下ろす奈津芽に間髪入れずに同意する。


さらに真守の脇腹を間髪入れずに肘で打つ芽愛。脇腹を押さえてうずくまる真守。


「こっちもこっちで相変わらずらしいな。嬢ちゃん、小僧。」


「それなりに元気にやらせてもらってます。」


「いい加減小僧はやめでぐだざい。」


芽愛は笑顔で、真守は芽愛に肘鉄をくらって苦しそうに返事をする。


そんな真守を見ながらタバコをふかしてふんぞり返る。


「はっ、お前は腕はたってもまだまだ小僧だよ。」


「どこが小僧なんですか!」


「それが分からねえようだからいつまでたっても小僧なんだよ。」


「んな理不尽な.......。」


はっはっはと笑いながらタバコを灰皿に押しつける。


横で項垂れている真守を無視して芽愛が本題に話を戻す。


「それで、エッタから少しの話は聞いたんですが知ってる事を教えてもらってもいいですか?」


「ええと、何だったか。ああ、そうだたしかエイダのやつの話だったな。」


「すいません、そのエイダっていうのは誰でしょうか?」


「さっき話にでてた商人の護衛をしてた冒険者だよ。そこそこ腕の立つ奴だったんだがな、さっぱり消えちまいやがった。」


「消えた?」


復活してきた真守が訝しげに眉をひそめる。


「ああ、商人が襲われたらしい現場からはあいつがそこにいたっていう痕跡が一切見つからなかったんだ。」


「それは確かな情報なんですか?」


「間違いないな。何せ俺本人が見に行ったからな。」


「姫屋さん自らですか?」


本来ギルドマスターというのは冒険者ギルドの中で書類の確認や承認をすることで、権力者や芽愛たち異能者ギルドなどとの連携を緊急でとらなければならない時に迅速に対応できるようにギルド内での仕事がほとんどなのだ。


「だいたいその頃からこの妙な事件が多発してきやがったからな。それにエイダが殺られたとすれば並の冒険者や職員に行かせるわけにもいかねえからな。」


「けど、冒険者が失踪したとはいっても一切の痕跡が残っていないっていうのはおかしくないですか?」


「そうだ。だからこの事件は妙なんだ。」


たとえ、魔物に襲われてやられたとしても魔物と戦った痕跡がその場に残っていないとおかしい。それらが一切無いことはありえないのだ。


壁を睨みながら顎をさすって考える奈津芽。だが、何も考えつかなかったのかすぐに芽愛たちに向き直る。


「とりあえず俺の方でも情報を集め次第嬢ちゃんたちに知らせるようにする。だが、先も言ったがこの事件は何か妙だからな。できれば冒険者ギルドの方からも烏合の翼へ協力を頼みたい。」


芽愛も少し考えてから奈津芽に向き直る。


「分かりました。それでは私たちも情報が入り次第また伝えに来ます。」


芽愛はこの協力依頼であれば龍馬は間違いなく了承するだろうと独断で判断したのだ。もちろんその考えに異論はないので真守も何も口出しはしない。


「それじゃあ、俺は仕事に戻るぞ。」


「あ、待ってください。」


ポケットからタバコを取りだし部屋を出ていこうとする奈津芽を真守が呼び止める。


「さっきそこで今回と同じような事件の現場に鉢合わせんですが、モルトっていう商人が依頼を出しに来ていませんでしたか?」


「ああ、あの商人の言ってた冒険者ってのはお前らの事だったのか。」


思い出したかのように声を出し取り出したタバコを持ったまま腰に手をやる。


「もしかしてもう依頼を受けてましたか?」


「ついさっきな。そいつの話を聞いてた職員によると何人かの冒険者を連れて荷物運びと馬車の残骸を片付けに行ったらしい。そういえばもしその冒険者が来たら礼を渡しといてくれとか言って袋を置いていったな。」


「まあ、取りに行くのもめんどくせえしどうせお前らも次来んのもすぐになるだろうし今度でいいよな?」と目で訴えかけるのに対し笑う芽愛。それを了承と見なした奈津芽は部屋を出ていこうとする。


「あ、あと一個だけ。」


「まだなんかあるのか?」


再び真守に呼び止められ不機嫌そうに持っていたタバコをポケットにしまう。


「もしもここにロアとルアっていう双子の兄弟が来たら俺たちが探してたって伝えておいてください。」


「双子の兄弟だ?」


「はい、多分八歳から十歳ぐらいだと思うんですが、その商人の馬車に乗り合わせてたらしいんです。」


「それでその兄弟は無事だったのか?」


「実は.......」


真守はその時の状況を奈津芽に大まかに説明する。


「他人の短剣と解体用ナイフでラインホッパーを瞬殺か。そいつは凄いが、その兄弟は一体何者なんだ?」


自身の装備で瞬殺したのであれば、ラインホッパー程度であれば別段驚くそうなことではないが、他人の、しかも片方は解体用のナイフで瞬殺となると、並大抵の冒険者でも出来ない芸当だ。


「すぐ歩いていったからそれも分からないんですよ。」


その時に話を聞けていたらわざわざ冒険者ギルドに報告したかどうかもわからない。


「そうか、まあいい、俺もその兄弟については気になるからな。ギルドにきたらお前らが探していたと言っておいてやる。これで終わりなら本当に俺は仕事に戻るぞ。」


「はい、ありがとうございます。」


奈津芽は軽く頭を下げる芽愛と真守に対して後ろ手に手を振り、「万葉の親父にもよろしく言っといてくれ。」と言いながら出ていった。


奈津芽が完全に姿を消したのを見届けると芽愛は扉の方を指さし真守を見る。


「それじゃあ、私たちも行きましょうか。」


「行くってどこに?」


「とりあえず街を歩いて情報収集を続けましょう。」


「了解っと。」


それを聞いた真守は立ち上がり芽愛の後ろについて扉から出ていった。


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