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絶世の血獣  作者: 椿うどん
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冒険者ギルド

龍馬からの命令を受けた芽愛と真守は再び着替えて街中に繰り出していた。


二人の向かう先は冒険者ギルドである。冒険者ギルドの中に入ると沢山の冒険者が掲示板の前で依頼を探したり自前の装備品をこれみよがしに見せつけていたりパーティーに入ってくれる冒険者を勧誘していたりと色々な目的でギルドに来ているのがわかる。中には真昼間から酒を飲んで、いや、酒に飲まれて酔いつぶれている冒険者もいる。


そんな絶えず騒がしい冒険者ギルドだが、いくつかのパターンにおいてはその喧騒が静まりかえる時がある。そのパターンの一つが今である。


芽愛と真守が冒険者ギルドの中へはいるとそれに気づいた冒険者が他の冒険者へ知らせ、またその冒険者が他の冒険者へ知らせと波のように入口の近くから静まり返っていく。


冒険者ギルドに来たのは久しぶりだとはいえここまであからさまに反応されると思っていなかった芽愛はふうと息を吐く。


すると冒険者をかき分けて奥から一人の男が出てくる。


「これはこれは、お久しぶりです神坂さん。今日はどのようなご用件で?」


「私が来たのはギルドの職員に尋ねたいことがあったからで別に冒険者であるあなたが出てくる必要は無いのよ。」


そう、奥からでてきた男の身を包んでいるのはギルドの制服ではなく冬であれば死んでしまうのではないだろうかという程に布面積の小さい黒の服に使い古した裾がボロボロで大きさが合っていないのかダボダボのズボンを履いた男だった。購入する時にサイズを間違えたのだろうか。


そしてそのサイズ間違いの筋肉ダルマの男は


「確かにそうですが、私たちに出来ることがあればなんでもお申し付けください。」


ため息をつく芽愛。ビクッと体を震わせる筋肉ダルマ。


「はぁ.......前も言ったと思うけれど、別にあなたたちが何もしなければ私も何もしないから気を使わなくてもいいわよ。」


「いえ、そう言われましてもあの恐ろしさはなかなか忘れることはできませんから。」


ははは、と力なく笑いながらどんどん元気をなくしていく。


大の男が泣いて逃げるような見た目の筋肉ダルマが手を擦りながらヘコヘコと年下の女性に頭を下げるという異様な光景を作り出したのは他でもない芽愛なのだ。


芽愛はその実力を知らなければただの美少女である。そんな女性が血の気の多い冒険者の多いギルドに一人で入ってこれば当然絡まれる。


そう、絡んでしまったのだ。この芽愛の目の前にいる筋肉ダルマを含む数人の冒険者が。その後のことは言うまでもない。筋肉ダルマたちが泣いて許しを乞うまで芽愛があの手この手で苦しめ痛めつけ心の底から反省させたのだ。


その内容は.......いや、やめておこう。酷く恐ろしいものであったとだけ言っておこう.......。


「とりあえず私たちのことは気にせずいつも通り騒いでいなさい。」


「はい、ではそのように。おいお前ら! 神坂さんのご命令だ! いつもどうり飲んで騒ぎやがれ!!」


芽愛の単に自分たちに気にすることなくいつも通りでいてくれという発言を命令ととった筋肉ダルマは後ろを振り向くと他の冒険者へ怒鳴りながら冒険者の波の中に帰っていった。


「別に命令のつもりはなかったのだけれど。」


「ほんとに何やったんだよ。」


ちなみにその最初の芽愛のギルド訪問のことを後で話に聞いただけの真守は芽愛が何を行ったのかは知らない。


一度好奇心から尋ねてみたことがあったが、「乙女の秘密よ。」とかなんとか言われ誤魔化されてしまったのだ。


筋肉ダルマが戻り徐々に最初の騒がしさが戻っていくと芽愛と真守も真ん中の通路を通り受付へ向かう。


その際向けられる視線の意味は二人もとも違うものだが。芽愛に対しては実力を知って尚その外見の美しさから心を奪われている男性冒険者、真守に対してはそんな美少女と並んで歩いていることから向けられる嫉妬と殺意の目線だ。


もちろん芽愛程ではないにしろ真守も自分たちが束になってかかっても叶わないほどの実力であるということは知られているので行動に起こす阿呆はいない。


いくつかある受付からどこに行こうかと少し迷い、見ているとそのうちの一つに見知った顔を発見し、そこに決める。


その受付嬢も芽愛が自分に気づいたことに気づくと笑顔で手招きする。


「やっほ~めーちゃん今日はどうしたの?」


「久しぶりエッタ。ちょっと聞きたいことがいくつかあってね。」


エットルナ・トラルバ。芽愛には劣るものの目鼻の整った顔立ちと笑顔の耐えない明るい性格から隠れファンも多いというマナルスの街の人気受付嬢だ。芽愛を美しいというならエットルナは可愛いという表現が正しいだろう。


エットルナは芽愛の後ろから顔を覗かせた真守にも声をかける。


「真守くんも久しぶり。元気してた?」


「ああ。エットルナさんは相変わらず元気そうだな。」


「エッタでいいって言ってるのに、真守くんのい・け・ず!」


「仲いいフリをしてしまうとつけあがって調子に乗られそうなのでやめておきます。」


「あれぇ!? 辛辣!!」


ショックを受けたようによよよと泣き崩れた振りをし、カウンターから飛び出し芽愛に飛びつく。そして足をばたつかせ芽愛に抱きつく。


それを仕方がないなあとでもいうふうに優しくなでながらカウンターに押し戻す。


その一連のやり取りから周囲の冒険者から暖かな眼差しが向けられる。もちろん真守もその一人だが。


「やっぱいいよな芽愛さん。」「いや、俺はエットルナさんの方が」「やめとけ、冷静に考えて無理だ。」「そんなことやって見なきゃわかんねえだろ!」「本音は?」「どうせ無理なので眺めるくらい許してください。」


勝手に失恋している冒険者バカ達を完全に無視している芽愛とエットルナ。もしかするとエットルナは素で気づいていないだけなのかもしれないが。


押し戻されたエットルナはぽふっと椅子に着地すると一息。そして話を元に戻す。


「まあ、冗談はこれくらいにしといてその要件ってなんなの?」


「んー、エッタでも別にいいんだけどギルマスいる?」


「結構重要な事なの?」


「重要っていうか情報収集の為に来たからギルマスの方がいいかなって。」


「あー、そゆことね。それじゃちょっとまっててギルマスに言ってくるから。」


そう言い残すとエットルナは立ち上がりカウンターの奥へ消えていった。


しばらく待っていると奥からエットルナが一人で戻ってきた。


「今、ギルマスなんの話か知らないけど誰かと電話してたから。秘書さんに伝えておいたよ。多分電話が終わったら降りてくると思う。」


「ありがと、エッタ。」


微笑みながらお礼を言う芽愛。


「もう、めーちゃん癒されるわぁ。結婚してめーちゃーん。」


「はいはい、とりあえず私達はギルマス待ってるからエッタも早く仕事に戻りなさい。」


また2人でゆりゆりしだす。当然真守は蚊帳の外だ。


芽愛の口から仕事という言葉を聞くと隠す様子もなく嫌そうに顔をしかめるエットルナ。


「そんな嫌そうな顔してもダメだからね。きちんと仕事はしなさい。ギルマスが来た時に怒られちゃうわよ。」


「それもそうなんだけどさー。あ、そうだ! それならギルマスが来るまでの間私が知ってること教えたげるよ! それなら仕事でもあるからいいでしょ?」


ね?ね?と上目遣いで芽愛にお願いする。うーんと困った顔で悩みこんでいる芽愛を見てエットルナはあと一押しだと確認して真守に目配せする。


(めーちゃん説得して! 真守くんならどうにか出来るでしょ!?)


(出来る出来ないって言うかエットルナさんにも聞いてギルマスにも聞いてって二度手間になりそうな気がして面倒臭いから嫌なんだけど。)


(そんな! 私と真守くんの仲じゃない! お願い、一生に一度のお願いだから!!)


(既に172回目の一生に一度のお願いなんだがそれについては何か申し開きは?)


(そんなにお願いしていない!)


(この女開き直りやがった!)


(だって事実だもん。)


息を吐くようにサラッと嘘をついたエットルナにじーーっとジト目になって接近する。


(三日前の期限ギリギリの討伐依頼。)


(うっ。)


痛いところをつかれたというように身体をびくつかせる。しかし、「でもそれだけじゃん!」そう口を開こうとしているのを瞬時に読み取った真守はさらに追撃をくらわす。


(先月のジュース、昼食の買い出し、人手不足だった時のギルドの助っ人)


(うっうっうっ。)


真守の容赦のない三連撃にたじろぎ苦しそうにその大きな胸を押さえつけるエットルナ。しかし、それでもまだ真守の追撃は止まらない!


(挙句の果てには遅刻の後処理。俺はエットルナさんの母親じゃないんですよ。)


(うぅぅぅぅぅ。)


真守の口撃に言い訳できる余地もなく倒されたエットルナはとうとう椅子の上に膝を曲げて座り蹲ってしまった。


少し言いすぎたかと思った真守は、はぁ.......とため息を吐く。


「まあ、別にいいんじゃないか? 芽愛。一応エットルナさんもギルドの職員だし情報量でいったらかなり助けにはなると思うし、ギルマスが来るまでに簡単な情報整理がてらさ。」


仕方が無いのでエットルナに援護射撃をしてやる。すると悩みこんでいた芽愛は顔を上げる。


「それもそうね。じゃあエッタ、お願いできるかしら。」


「真守くん! 愛してる!!」


芽愛から許可を貰ったエットルナはがばっと真守に抱きつく。


「近い近い! 離れろエットルナ!」


「あっれ~? 真守顔真っ赤になっちゃってるよ? もしかして私のこと意識しちゃった? 意識しちゃった? それと〝さん〟が抜けてるよ?」


「もう、お前なんか呼び捨てで十分だ!」


うざったらしく絡んでくるエットルナを振りほどきながら吐き捨てる。


エットルナは見た目は子供のような身長の低さとはいえ出るところは出ているなかなかの成長具合の身体を持っているのだ。そんな女の子に抱きつかれて意識しない方が男としてどうかしているだろう。


なかなか嬉しそうに真守の腕を抱きしめたまま離れないエットルナを見て芽愛が間に入る。


「こらエッタ、くっつきすぎよ。いくら嬉しくてもそんな簡単に男に近づいてっちゃダメよ。真守くんだってオオカミさんになっちゃうかもしれないからね。」


「でも芽愛、私は多分真守くんにはそんな度胸はないと思うよ?」


「まあ、それもそうね。この歳で色恋沙汰の一つもないヘタレくんだもんね。」


「お前らなぁ、言わせておけば.......。」


芽愛とエットルナに言いたい放題言われた真守の眉がピクピクしている。


「俺だってそのうち恋の一つや二つするだろうさ!」


「はいはい、そうね。じゃあエッタ応接室に行きましょ。」


「うん、こっちだよ。着いてきて。」


「お、おい、待てよぉ!」


軽く発言を流された真守は仲良く歩き出した二人の後について行くのだった。


また、真守は焦りのあまりエットルナが真守に抱きついた瞬間先程までとは比べ物にならない、他の女性従業員が逃げ出すほどの殺意が真守に向けられていたことに気づかないままであった。


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