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絶世の血獣  作者: 椿うどん
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烏合の翼

マナルスの街へたどり着きモルトをギルドでへ送り届けると真守と芽愛は二人の所属するグループの本拠地へ戻ってきていた。


既に二人ともシャワーを浴び戦闘用の衣装から室内用のラフな格好に着替えている。


「それにしてもモルトさんも災難だよな。冒険者には逃げられるわ、ラインホッパーには商品をいくつかダメにされるわ。商人向いてないんじゃないか。」


「そんなこと思ってても口にしないの。けど、本音でいえば私も同感ね。運がなくて人を見る目がなくて成功してる商人なんて聞いたことないもの。」


「俺の衣服が血で染ってたから赤黒くなってたっていうのにも最後まで気づいてなかったっぽいしな。」


二人が今いるのはマナルスの街の中心から少し外れた所にたっているビルのような建物の2階のとある一室である。


そこに置かれたソファーに腰を下ろしながら先程別れた商人、モルトの話をしていたのである。


リーダーに修行や帰りの出来事の報告をしようと思ったが、リーダーが用事で出ていたためそれを待っていた暇つぶしとしてだが。


「万葉さんが用事でここから出るなんて珍しいよな。基本椅子に座って本とかと睨み合ってることがほとんどなのに。」


「そんな事ないわよ。万葉さんが用事で出ていくところを真守くんも何度か目にしてるでしょう? それと万葉さんが椅子に座ってやっているのはれっきとした仕事のひとつよ。」


「でもなぁ.......」


「二人ともすまない。今戻った。」


芽愛が自分たちのリーダーのフォローをしているもののなかなか納得がいかないように真守が首を傾げていると扉が開いて一人の男が入ってきた。


「万葉さん、おかえりなさい。今お茶を入れますね。」


「ああ、ありがとう芽愛君。」


リーダーの謝礼を聞き芽愛は奥の部屋にお茶を取りに行く。


万葉 龍馬。性別男、年齢60代前半。知的な顔立ちに高身長で、彼の年齢を知らない人であれば60代であるとは分からないであろう若々しい体をもっている。


そして芽愛と真守の所属するグループのリーダー、それが万葉 龍馬という男である。


「ところで、真守君? 私がどうとか言うことが外まで聞こえていたのだがなんだったかね?」


「い、いえなんでもありません!」


体をビクッとふるわせ勢いよく否定する。


もしも外から帰ってきた龍馬がだらしのない格好であれば真守ももう少し強めの態度に出たかもしれないが今龍馬の身を包んでいるのは遊んでいたとは微塵も思えないほどピシッと正された礼服なのだ。


龍馬は真守の上司ということもあってこれ以上口出しすることなどできるわけが無い。


「ところで、万葉さんはどこに行っていたんですか?」


お茶をいれた湯のみを3つ乗せたお盆を持って戻ってきた芽愛が龍馬に尋ねる。


「そう言えば急の用事だったから朝の会議では話せていなかったんだったな。領主から連絡があってな、顔を出していたんだ。」


「領主のところですか? 万葉さんが出向くなんて珍しいですね。」


「ああ、いつもなら大抵断っているのに。」


「いくら我々、『烏合の翼』が冒険者ギルドから独立しているからとはいえ大事の場合は出向く必要もあるからね。」


完全独立型私的冒険者ギルド『烏合の翼』それが龍馬をリーダーに真守と芽愛の所属するグループの名前だ。


本来冒険者ギルドというのはその街や国を治めている領主や国王が経営しそこに一般人が依頼を出して冒険者が依頼を選び受け、報酬を得る。という権力を持つ機関が依頼人と冒険者を繋ぐ為に経営しているものなのだ。


しかし、そんな冒険者ギルドの中には権力者の下についていないものがある。


それが完全独立型私的冒険者ギルドだ。

国王や領主に個人として認められた者が自ら冒険者ギルドを立ち上げ、冒険者を雇い経営する。


冒険者からすると一般の冒険者ギルドと完全独立型私的冒険者ギルドの違いは大きく分けて二つある。


一つは自由度の大きさである。基本的に一般の冒険者ギルドは冒険者が仕事をしたい時にギルドに赴き受けたい依頼を受ける。そのため実力を上げるために魔物の討伐に向かおうが、植物などの採集を使用が街や村へ届け物を届けたりなどしたいことをすることが出来る。さらに冒険者を辞める時も簡単な手続きひとつででき、逆に冒険者になる時も簡単な試験に合格するだけでなれるのだ。


一方で完全独立型私的冒険者ギルドは個人が経営しているためまずギルドに入ることが難しい。そのギルドの方針や目的に合わせてリーダーが入ることを許可しない限りは入ることが出来ない。それによってまずギルドを経営する者は国王や領主に認められるほどの何かしらの才に長けたものの為認められるのがとても厳しく入りにくい。


そして、大抵の場合ギルドに所属する際の条件の一つとして永久所属を承認しなければならないためギルドを辞めるという事例がほとんどない。


二つ目の違いは存在の大きさだ。一般の冒険者ギルドは一般人からの依頼がほとんどのため所属している冒険者の実力も上下が激しく様々な者がいる。


しかし、完全独立型私的冒険者ギルドに所属するものはそもそも並外れた才を持つものばかりの集団のため、依頼の難易度が高い。並大抵の冒険者では歯が立たないような魔物の依頼や危険度が高いと予想される謎の調査。また、領主や国王などの権力者からの依頼も一部を除きほとんどは完全独立型私的冒険者ギルドに送られる。


「それにしても凄いですよね。世界中探しても数える程しかない独立ギルドの一つを万葉さんが持っているだなんて。」


「真守くんは知らないと思うけれどここを開くにも色々あったのよ。」


「そうなのか? 何があったんだ?」


色々と言われればその色々を聞きたくなるのが人というものであろう。そう言えば知らなかったなと言いながら芽愛の方を向く。


がしかし、その質問に帰ってきたのは龍馬の声だった。


「二人とも話がそれてしまってすみませんいるが少しいいかね。領主の所から受け取ってきた依頼とこれからの行動、あと君たちからの報告を聞いておきたい。」


そういいお茶をゆっくりとした動作で茶に喉を鳴らす龍馬。湯のみを同じくゆっくり机の上に戻した龍馬は鞄からいくつかの書類を取り出す。


「まずは私の方から話させてもらおう。私が領主のところから持ってきた依頼は最近街の外れで起こっている商人への魔物の集中的な襲撃事件についてだ。」


「えっ。」


そこで驚きを隠さずに芽愛は声を上げると同時に手を挙げて発言する。


「万葉さん、いいでしょうか?」


「どうしたんだい?」


「実は私たちが修行から帰ってくる途中ラインホッパーに襲われている商人に出会ったんです。」


「早速か。もしかして護衛として雇っていた冒険者は逃亡していたのかい?」


「はい、私たちが駆けつけた時には既に護衛の姿はなく馬車は横に倒され、馬は殺されていました。」


「なるほど、実はその連続襲撃事件の全てが魔物の強さに関係なく護衛が逃げ出しているんだ。」


「全て、ですか?」


「ああ、全てだ。」


真守は訝しげに眉を寄せる。真守たちが救助したモルトの人を見る目がなかっただけだと思っていたが他の商人も同じ目にあっているというと話はまた変わってくる。


そもそも街の近くにいる魔物はそれほど強力ではなく護衛に雇われる程の冒険者であれば余程のことがない限り危険もなく倒せる魔物がほとんどなのだ。


「流石にこのような事件が連続で起こったことについて怪しいとふんだ領主がこの事件についての依頼を我々『烏合の翼』に出してきたというわけだ。」


「普通の冒険者ギルドに頼んでいたら解決までに時間がかかりすぎて被害が拡大してしまうかもしれないということですか。」


「そうだ。私はこの事件が何か大きなことが動いているような気がしている。あくまでこれは状況からの解析ではなく、私の勘だがね。」


「それでも万葉さんの勘となると簡単に見過ごすわけにはいきませんね。」


真守が龍馬の勘を注意する。


「確かに万葉さんの勘は〝異能〟の関係もあってよく当たりますからね。」


芽愛の同意に真剣な顔で頷く龍馬。


「そこの所は実際に〝能力〟を使ってみなければわからないから私はこれからこのデータを元に〝解析〟に入る。。天音君にも街中での能力発動を許可して既に調査に向かってもらっている。出会うことがあったら協力してくれ。」


そう言いながら手元の書類をペラペラと揺らす。


「万葉さん天倉と会ったんですか?」


「さっき帰りの道中でね。もしかして彼女はまだ帰ってきていなかったのかい?」


「はい、以前万葉さんが天音ちゃんに頼んでいた事件の調査をまだ単独でしていた最中だと思います。」


「そうか、まだ帰ってきていなかったのか。それは天音君に悪いことをしたね。また彼女には別で休暇を与えるとしておこう。」


基本話に出ている天倉 天音という少女は今回のような情報収集や潜伏調査を得意としているため長期の仕事が多いのだ。


「では二人も修行から帰ってきて早々で悪いが出てくれ。くれぐれも気をつけてな。あと、いつものもよろしく頼む。」


「了解。」

「了解です。」


龍馬からの命令を受けた二人は湯のみの中の茶を流し込むと着替えるために自室へ戻っていった。


一人残された龍馬は領主から受け取った書類を眺め異能〝解析〟を使う。




―――――――――――――――――――




完全独立型私的冒険者ギルドまたの名を異能者ギルド。一般の人々からすると後者の呼び名の方がよく耳にする言葉だろう。


第六次世界大戦後魔法や様々な技術を用いても現実にすることが出来なかった人ならざる能力を手に入れた者たちが突如現れた。


ある者はなんの前触れもなく日常の中で、またあるものは生まれた時から既にその体に異能を宿していたという。


その者達は各々の目的のためにその能力(ちから)を使った。その結果世界中で犯罪や事件が増加すると同時に争いは激化した。


そんな中結成され急速に大戦を終わらせた伝説の異能者グループ『PARS』。彼らの活躍から後に異能を持つものたちは尊敬と畏敬の念を込めてオラクルと呼ばれるようになった。


完全独立型私的冒険者ギルドは様々な事件や謎を解明する実力派ギルドであると同時に数少ない世界の異能者たちを抱え込こみ管理し、未だに謎な異能の発生原因について調べる世界の希望と危険を併せ持った存在なのだ。


そして異能者ギルドの一つである『烏合の翼』は世界のために今日も活動する。

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