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絶世の血獣  作者: 椿うどん
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魔物の襲撃と双子

馬車から飛び出し、魔物を狩った二人の男の子。その姿を確認した芽愛は慌てて安否を確認する。


「君たち大丈夫だった!?」


もちろん素人ではできない動きで魔物を狩り尽くした二人の男の子の実力がかなりあることに気づかない芽愛ではなかったが、念の為も含めた確認だろう。

また、いくら強くても幼い子供に無理をさせたくないという芽愛の優しさからだ。


芽愛に話しかけられた二人の男の子は互いの顔を見やる。


「ねえねえ、ルア。お姉さんが大丈夫って言ってるよ? 大丈夫だった?」


「当たり前じゃん。もう、面倒臭いから寝ててもいい? 兄さん。」


お互いの安否を真顔で確認する二人。あの程度の魔物に遅れをとるわけがないという単純な気持ちから自分の無事を確認するまでもなく互いに芽愛の質問を投げる。


お互い無事だということを確認すると、二人は芽愛に向き合う。


「ルアは大丈夫だってさ。」


「君は?」


眠そうな目を擦りながらその場で座り込んで寝てしまった少年をルアと呼んだもう一人の少年に対しても念の為に確認しておく。


「ロア? もちろん大丈夫だよ。」


二人の無事を芽愛が確認している間に真守は馬車の中に他の生存者がいないか確認しに行く。


すると、奥で物陰に隠れてブルブルと震えて丸まっている人物を見つけた。


「大丈夫ですか!」


真守が声をかけると恐る恐る振り向いた男は真守の足元に縋り付く。


「も、もう終わりだ。ここで死ぬんだああぁぁぁ……」


「落ち着いてください! 助けに来ました、何があったか説明して貰えますか?」


「え……?」


真守の姿をとらえた男は不安の隠しきれない怯えた目で見つめ、現状を把握しきれずにいた。


真守の説明で落ち着きを取り戻した男はぽつぽつと説明を始めた。



「雇った護衛は逃げていくし、周りに馬は殺されてしまったんだ。助けを呼ぼうにも乗り合わせたのは二人の子供たち......」


そこではっ、と顔を上げた男は食い気味に真守の肩を掴む。


「そうだ、あの子たちは!? 魔物に襲われるまでずっと寝ていたのに急に飛び出して行ったんです!」


「大丈夫ですよ。二人とも無事です。今自分の師匠が話を聞いています。」


二人の少年の無事を聞いた小太りな男は安心したようにその場にへたりこむ。


「よかった。流石にあんな小さな子供たちが死んでしまって自分だけ助かるのは心苦しいからね。そうか、無事か.......よかった。」


「とりあえず俺たちだけではこの馬車はどうにもならないので街に戻りましょう。それでいいですね?」


「は、はい。問題ありません。どの道、私はマナルスの街に仕入れたものを売りに行くところだったんです。馬車はギルドで依頼でも出して冒険者を雇うことにします。」


商人の確認が取れた真守は腰をぬかしている彼の体を支えながら馬車の外へ出る。


外に出ると倒されたラインホッパーというバッタのような見た目の魔物の死体が転がっている。


「これは凄いですね。この数のラインホッパーを殲滅とはお兄さんはとても強いのですね。」


どうやら、商人は真守がラインホッパーを討伐したと勘違いしているらしい。


あの少年たちが冒険者なのだとしても、冒険者に年齢による優劣はほとんどないとは言えどやはりあのような小さな少年がこの数のラインホッパーを殲滅したということは考えずらいらしい。


「いや、これは俺じゃなくてあの男の子たちが倒したんですよ。」


「いやいや、大丈夫ですよ。そんな謙遜せずとも私は今回の恩を忘れたりはしませんので。」


何が大丈夫なのかはわからないが真守の発言を信用せずに既に商人の頭の中ではラインホッパーを倒したのは真守ということになってしまっているらしい。


わざわざこの場で必死になって商人に説明する理由も特にないので勘違いを放置したまま馬車の裏側にいるはずの芽愛の元へ向かう。


今この場では商人の命が助かったということを喜ぶべきで他のことは適当でもいいだろうと思った結論である。


ラインホッパーの討伐は少年たちのものだということはギルドには伝えてあげないとなと考えながら馬車の裏にまわるとそこには既に少年の姿はなく、魔物の死体をまじまじと観察している芽愛の姿があった。


「芽愛、中にいた商人さんは無事だった。恐らく死者はいないはずだ。.......芽愛?」


「え、えぇ分かったわ。報告ありがとう。それと商人さんも無事でよかったです。」


ラインホッパーの死体を観察したまま動かない芽愛にもう一度真守が呼びかけると立ち上がり商人に声をかける。


すると、芽愛の顔を見た商人は驚きしぼしぼと縮んでいた目を見開く。



「これはこれは冒険者さん。このお綺麗な方があなたのお師匠様ですか?」


芽愛は誰が見ても美人と言うであろう外見の持ち主なので真守の言う師匠を筋骨隆々の剛腕男でイメージしていた商人の戸惑いも仕方が無いだろう。


「はい、そうですよ。」


「ああ、申し遅れました。私は商人のモルトと申します。」


「私は神坂 芽愛、それとこっちは弟子の真守です。」


忘れていたように慌てて自己紹介をするモルトに同じく挨拶を返す芽愛。


「それで、私は無事だったのですが、あの男の子たちは一体どこへ?」


「あの子たちなら一応引き止めはしたんですが、大丈夫の一点張りで走ってマナルスの街へモルトさんが出てくる少し前に向かってしまいました。」


「そうですか、いや、まあ無事そうならよかった。街に着いてから見かけたら声をかけてあげたいと思います。」


「はい、そうしてあげてください。ではとりあえず、街へ向かうということでよろしいですか?」


モルトに確認しながら真守に目配せをすると真守も先程聞いた事なので軽く頷き肯定を示す。


「はい。問題ありませんが、その.......一応売り物ですので商品の無事を確認だけさせてもらってもよろしいでしょうか?」


「構いませんよ。私たちは外で待っているので確認が終わり次第戻ってきてください。」


ラインホッパーは真守や芽愛ほどでなくとも、一般の冒険者でも余程の駆け出しでなければ単独で討伐できる程度の強さとはいえ戦うすべをもたない商人のモルトからすれば十分に危機的状況だったであろうにも関わらず商品の確認は忘れないという商人魂に呆れ半分感心半分で許可をだす。


また、ラインホッパー如きで逃げ出す程度の冒険者を雇ってしまったモルトの運のなさ、もしくは人を見る目のなさは商人としてどうなのかとは思うが。


芽愛に許可を貰ったモルトはヘコヘコ頭を下げながら馬車の中へ入っていった。


外に残った真守は先程の少年達について芽愛に尋ねる。


「結局さっきの子供たちは何だったんだ? 冒険者だったのか?」


芽愛は首を横に振る。


「分からないわ。一応問いただしてみたけれど全部軽く聞き流されてまともに答えてくれなかったわ。分かったのは二人に怪我がなかったってことと名前がお兄ちゃんの方がロア、弟くんがルアってことだけ。あと多分双子。」


「やっぱり、ラインホッパーとはいえあの歳の子供が苦もなく倒せるということは冒険者なんだろうな。」


手を上げて肩を竦め分からないとジェスチャーでアピールする。


「さあね。でもさっきも言った通りマナルスの街に向かうって言ってたから私達も街に戻れば会えるかもしれないじゃない。もし冒険者ならギルドで張り込めば多分来るだろうし。」


「まあ、それもそうだな.......。で、さっき見てたけどその死体がどうしたんだ?」


モルトと一緒に出てきた時にラインホッパーの死体をみていた芽愛の顔がとても真剣だったものを忘れていなかった真守はその意を問う。


「別になんて事ないわよ。どうでもいいこと考えてただけ。」


わざとらしく手を振り誤魔化そうとするが真守は追及する。


「嘘つくなよ。芽愛の嘘は分かりやすすぎるんだからさっさと吐けって。」


「.......」


あっさりと誤魔化そうとした事がバレた芽愛は諦めてラインホッパーの死体を見ながら本当のことを話す。


「死体が綺麗すぎるのよ。」


「? まあ、あの動きで一撃で倒してたからな。」


「言い方を間違えたかしら。傷口が、綺麗すぎるのよ。」


そういい足元に落ちていたラインホッパーの一部を持ち上げて傷口を真守に見せる。


「真守くんもさっきの戦闘を見て気づいたと思うけどあの子たちの武器はお兄ちゃん、ロアくんの方が短刀、ルアくんに関してはもはや戦闘用じゃなくて魔物解体用のナイフだったわ。」


「言われてみると、確かにな。」


普通ナイフのような刃が短い武器は切りつけても魔物相手には致命傷を与えられない場合が多いため、刺したり、牽制用として使うのだ。


しかもナイフを戦闘で使う場合のほとんどが魔物を売り、稼ぎを得ることを目的とした場合ではなく討伐することを目的とした、売却が目的でない場合に使用するのが多い。


いくらナイフのような小さな武器とはいえ魔物に無駄な傷がついてしまえばその分その魔物から取れる素材は価値が下がり売値も低下するため収入を得るための討伐には向いていないからだ。


しかし、あの子供たちはナイフでいとも簡単にありえないほど綺麗にラインホッパーを討伐してみせた。しかも、素材を持っていくこともしなかった。


つまり、ラインホッパー程度の魔物の素材は必要がなくお金にも困っていないほどの見た目とは合わずにかなり高位の冒険者だったのかもしれないという考えが頭の中をよぎる。


いや、まさかとその考えを巡らせる真守を払拭するように芽愛はパンっと手を合わせる。


「今そんなこと考えても仕方が無いし、とりあえず今はモルトさんを無事にマナルスの街に送り届けることだけを考えましょう。」


「まあ、そうだな。さっきも言ってたようにギルドとかで会えるかもしれないしな。」


「うん、そういうこと。」


真守と芽愛の住むマナルスの街は決して小さな街ではないけれど、王都のように大きな都市と言う訳でもないので恐らく見つかるだろうと気持ちを切り替える。


実際、この2人は街の中では顔が広いので街の門番の人などに特徴を言っておけばあの少年たちの街への出入りを確認することぐらい出来るだろうという考えもあった。


「ほとんどの商品は無事でしたよ。いやー本当に助かりました。」


二人が話しているあいだに馬車の中から商品の確認を終えたモルトが出てくる。


「ほとんどって言うと少しはダメになってしまったのもあるんですか?」


「ええ、残念なことにいくつか売り物にならないものもありますが、それらはどうにかしますよ。」


「そうですか。それなら良かったです。」


「いや、しかし妙なのが私が護身用に常に馬車の中に入れていた短刀と解体用ナイフがどこかへ行ってしまったようなのです。まあ、どちらも高価なものでは無いので命が助かったことを思えばなんて事ない損害ですがね、どこかで落としてしまったのでしょう。」


はっはっはっとご機嫌に笑うモルトであったが、その発言を聞いた真守と芽愛が気にかかることがあったのは言うまでもなかったが上機嫌なモルトの気を害する必要も無いかと考え直しマナルスの街へ出発するのだった。


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