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絶世の血獣  作者: 椿うどん
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森の魔物

ジリジリと音を殺して少しずつラクラクラスのいる木に向かう真守。


そもそも真守は中間部に来たのはこれが初めてであり、ラクラクラスと対峙するのも初めてなのである。


よってラクラクラスに関しての知識は魔物図鑑や芽愛の話からしかない。


それらの情報からするとラクラクラスは中型犬と同じぐらいの大きさのリスのような魔物であること。

とても素早く周囲への警戒も鋭いため討伐する際は気づかれないように近づき先手をとる必要があること。

身の危険を感じると周囲のラクラクラスへ鳴き声を上げることで応援を頼み味方を増やす習性があること。

真守がが知っているラクラクラスについての知識はこの程度のものだ。


ゆっくりと木に近づき、真守の間合いに未だ姿の見えないラクラクラスが入るすんでのところで再度息を整え剣を強く握る。


そして、一足飛びで間合いに入り剣を抜刀しようとしたその瞬間。木の後ろから飛び出し、真守に爪を向けるラクラクラス。


最大限の警戒をしながら接近したのにも関わらず気づかれてしまう程の危険察知能力。


いつから気づかれていたと、飛び出してきたラクラクラスの攻撃をギリギリで体をひねって回避しながら思う。


頬に痛みを感じ手をやると血が付く。恐らく避けきれずにラクラクラスの爪が掠ってしまったのだろう。


木の影から出てきた、ラクラクラスと真守は対峙する。


幸い、自分の攻撃よりも早くに接近に気付かれ、先手をとることが出来なかったにも関わらずまだ仲間を呼んだ様子は無く、ラクラクラスは真守を2つの眼で観察しながらチチチと嗤う。


自分の攻撃を交わしきれなかったことと接近の甘さから真守を敵として、自分の脅威として見なしていないのだ。


「面白い。絶対に倒してやる。」


ラクラクラスになめられたようにわらわれたことに怒るどころか楽しむ様子を見せる真守。


ラクラクラスに向けて剣を構える。


「神坂流剣術 第一剣〈飛閃〉!」


気合いとともに振り下ろされた剣は斬撃を飛ばしラクラクラスへ襲いかかる。円筒の森の外側でのダークウルフとの戦闘の時は技を使うのは禁止されていたが中間部ではまだ禁止されていないから使ってもいいだろうという真守の判断である。


しかし、それを軽く交わしてラクラクラスも真守へと襲いかかる。


真正面からだと真守の第一剣である〈飛閃〉が避けられることを確認すると再び真守も意識をラクラクラスへ移す。


真守の周囲をグルグルと走り移動しながら時折真守へと向かってくるラクラクラスを剣で弾き、いなす。


剣で爪を弾いているにも関わらず爪が斬れないところを見ると爪や牙への攻撃はダメージを与えられないということだろう。


その事を瞬時に判断した真守はラクラクラスの隙を伺うため神経を尖らせる。


そしてラクラクラスが再び木の影から飛び出し、真守に爪を立てようとしたその時、最初の対峙の時のように、攻撃より一瞬早く反応した真守は爪を弾くことなく剣の腹で受け止めて腹部に強烈な蹴りを叩き込む。


腹を蹴りこまれ、ギャンッという悲鳴をあげ、血を吐きながら転がっていくラクラクラスから爪や歯等の硬い部分以外への攻撃は十分有効だと判断するとすぐさま走り、転がっていくラクラクラスに追いつく。


そのままもう一度下からラクラクラスの横っ腹を蹴り空中に蹴りあげると鞘に納めていた剣を一閃。ラクラクラスを斬りつける。


斬ったという確かな感触から討伐完了を確信した真守はどこかで見ているという芽愛の姿を探す。だが、何処にも芽愛の姿は見えない。


「おーい、芽愛! 討伐完了したぞ! さっさと出てこいよ。」


待っていても仕方が無いので真守から声を上げて芽愛を呼ぶ。もちろん魔物が撚ってこないように周囲に魔物が居ないことを確認してからだが。


もちろん芽愛は真守の戦いを割と近くから気配を消して見ていたが、それでも真守の前に出ていかないのにはもちろん理由がある。


しかし、それに真守は気づく様子はない。


それ故に真守は気づくのが遅れてしまった。


「キャイイイイイイイイイ!!!」


その声を聞き直ぐに後ろを振り向いたが既に時遅し。


息の根が止まりきっていなかったラクラクラスは最後の力を振り絞り仲間を呼んだのだ。


驚きながらもラクラクラスの首を撥ねるがラクラクラスの鳴き声は既に広がる。


真守は直ぐに周囲へ警戒しようとした瞬間。

先程のラクラクラスよりも一回り大きい個体が背後から真守を襲う。


その接近に気づかなかった真守は咄嗟に剣で受け止めようとするが、受け止めきれずに吹き飛ばされる。


木に背中から激突し倒れるが、直ぐに起き上がる。しかし、その時にはもう周囲からガサガサという音を立て木をかき分けながらこちらに向かってくる何かがあるのに気づく。


言うまでもなくラクラクラスだ。


ガサガサという音はどんどん大きくなり真守を殴りつけたラクラクラスの近くに何匹ものラクラクラスが飛び出してくる。


その方向に気を取られすぎていた真守は背後から近づいてくる別の個体に気づかなかった。その個体から繰り出される攻撃を剣を構えることも無くくらった真守は吹き飛ばされ、ごろごろと転がる。


すぐに起きあがり反撃に出ようとするが、反応することも無く攻撃をくらったため恐らく右腕の骨にはヒビくらいは入っているだろう。


そのため上手く剣を持つ手に力が入り切らず、その場でふらつく。


それを完全に勝機と見なしたラクラクラス達は一斉に飛びかかり真守の息の根をとめんと爪を、牙を立てる。


「ちくしょう。」


思わずそんな言葉が口から零れてしまう。そして、後で何を言われるのかも悟ったまま自らの命が狩られかけている場面ではないようにため息をつく。


ラクラクラスにここまで追い詰められておきながら真守は自分の命がここで終わるという思いは一切持っていなかった。その事が心の底から悔しくも感じるのだが――。


芽愛という人物は、自分が死ぬことを絶対に許さないということを知っているからだ。


「神坂流刀術 第四刀〈轟雷の斬雨〉」


その思いに当てはまるように、まさに真守の体にラクラクラスが触れようとした瞬間、静かなつぶやきが聞こえる。そして雷が落ちたかのような激しい轟音と共に全てのラクラクラスが真っ二つに斬られ、倒れる。


ラクラクラスの血を浴び、真っ赤になる視界の中で立つのはもちろん神坂 芽愛だ。


真守の直ぐ後ろの木の上から戦いを観察していた芽愛は真守の敗北を確信すると木の枝をバネのように使い飛び上がり上空から芽愛の第四刀〈轟雷の斬雨〉で眼下のラクラクラスを全て斬り裂いたのだ。


あれほど苦労して真守が1匹すらしとめきれなかったラクラクラス、数十体を一撃。


これが真守と芽愛の確かな実力の差を表していた。


ふうっと息を整えた芽愛は真守の方をジト目で見ながら一言。


「最後の詰めが甘い。」


「絶対に言われると思ってたよ。」


口の中に入ってしまったラクラクラスの血を吐き出しながら悔しそうにする真守。


それを見ながら、やれやれと布切れを手渡す。


ありがとうと口にしながら布を受け取ると顔を拭いていく。


顔に着いた血がだいたい取れたのを確認すると再び芽愛が口を開く。


「君は全然学ばないね。さっきのさっきで詰めの甘さからやられかけたって言うのに。」


「完全に倒したって感覚があったんだよ.......」


「それでも倒しきれてなかったからこうして死にかけてるんでしょ。確実を期すなら私みたいに両断したり、心臓とか首を斬らなきゃ。まあ、それでも死なないようなのもいるけどね。」


「わかってるよ.......」


芽愛言っていることを完全に理解しているのにまた実行できなかった真守はまた落ち込んでブツブツと口元で何かを言う。


「はぁ……とりあえず初戦にしてはまあまあの出来だったんじゃない? あと一歩ってとこだったんだし。」


励ますようにフォローする芽愛。


それを聞いているのかいないのか変わらずブツブツと口の中で呪文を唱え続ける真守を困った子を見るように見下ろし、声をかける。


「ほら、今日はもう帰るよ。そんな格好じゃ帰るのも大変だろうしね。」


そう言うと未だ不貞腐れる真守を立ち上がらせ引っ張って来た道を帰っていくのだった。




―――――――――――――――――――




なんとか円筒の森の外側を出る頃には元気を取り戻した真守と芽愛は街道に出て街へ戻っていた。


「それにしても、中間部のラクラクラスでさえあれだけ強かったら内部の魔物ってどんだけ強いんだよ。」


「今、真守くんが今戦ったら、というか戦う前に殺されるぐらいじゃない?」


そんな恐ろしいことをカラカラと笑いながら言う。


「その魔物も怖いけど俺からしてはそんな魔物を修行始めて半年で内部のヴレイブモンキーの群れを討伐してたっていうどっかの女の方が怖いよ。」


「そんな女の子がいるの? ホントだったら怖いね~。」


「ほんとどこの怪力バカゴリラ女なんだろうなー。」


「そうだよね~。」


あははと笑い合いながら変わらず街道を歩き続ける2人。気のせいかもしれないが芽愛の目が笑っていない気がする。気のせいかもしれないが。

気のせいかもしれないので芽愛が刀の鍔口を指で押し上げて抜刀の構えにはいっているのは恐らく近くに魔物の気配がするかはなんだろう。


いやぁ、魔物に気づかないなんて俺もまだまだda


「すんませんでした。」


「うん、よろしい。」


流石に刀の刀身が見えてきて芽愛が歩く速さを遅くして真守の背後に回りかけていたので冷や汗をかきながら頭を下げる。


謝れば許してくれる師匠で本当によかった。


「それと一応言っておうけど私は力はそんなにないからね。真守くんが斬れなくて私が斬れる物があるのは単に技術の差。君も頑張ればできるようになるよ。」


「うい。」


「返事ははいで。」


「はい。」


そんな他愛ない話をしていると街が近づいてくるのに気づく。


しかし、それと同時に遠くで街道から外れて倒れている馬車も発見する。


かなりの距離があったためすぐに気づくことが出来なかったが、魔力探知に引っかかるものがある。


そしてこの気配は、魔物だ! と気づいたとほぼ同時、既に芽愛は動き出していた。


「魔物に襲われてる! 助けに行くよ!」


直ぐに芽愛の後を追い真守も全速力で馬車への距離を縮めていく。


芽愛が馬車の元へ辿り着き刀を抜こうとしたその時馬車の中から飛び出した2つの影が馬車の周りにいた7体全ての魔物を狩り尽くした。


そして、遅れて芽愛に追いつき横に並んだ真守の前に立っていたのは二人の少年だった。


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