ダンジョン荒らし
「ほんとだ、冒険者か増えてますね」
「はい、これで冒険者になったということです」
ステータスを見て確認したアルトス。しかしここである疑問が浮かぶ。
「冒険者になりたての人ってまず何からするのがいいですかね?」
「あー、なるほど。Eランクですと依頼もあまり受けられませんし、仮に受けたとしても報酬は正直少ないですからね…。あ、でもほとんどの方は「ダンジョン」に行かれますよ。そこで魔物を倒したりアイテムの収集をしたりしてランクを上げるんです」
「なるほど、ダンジョンってどこら辺にあります?」
「ふふ、ここは「冒険」の国ですよ?街を出て東に行けば『蛇精の洞窟』という所があります。あそこなら広いですし、上層は比較的簡単なので初心者の方にもオススメです。下の層へ行くほど魔物は強くなるので気をつけてくださいね」
「あ、あとドロップアイテムとかは協会で買取ったりもできますので、ぜひご活用ください」
「はい、分かりましたー」
かくしてアルトスは『蛇精の洞窟』に向かうことになった。
○○○
燃え盛る紅い業火、広がる焦土、辺り一面焼け野原、積み上がった魔物たちのドロップアイテムの上に立つ一人の少年。人が見れば地獄かと思う光景がそこにはあった。まだまだ比較的平和なはずの『蛇精の洞窟』第10階層がこうなった経緯は数十分に遡る。
カーナに言われた『蛇精の洞窟』に無事に到着したアルトスは早速中へと入った。
これもカーナの言っていた通り、上層はかなり難易度が低かった。アルトスは襲いかかってくる魔物達を次々とコピーしてある魔法で叩いて行った。
これを数分繰り返した訳だが、この層の魔物は一切手応えがなく、もはや作業だった。流石にアルトスも飽きてきたので戦闘を切り上げ、下の層へと向かうことにした。この判断が後に魔物にとって地獄を呼ぶことになる。
○○○
下の層へ向かう途中ももちろん魔物は襲ってくるのだが、アルトスは何食わぬ顔で反撃…もはや反撃とも言えないのかもしれない。途中、アルトスは思いついたのだ。自分が戦わなくてもいい方法を。
MPの消費を抑えるため(建前)とわざわざ対応するのが面倒くさい(本音)という理由で、自分の周りに【風刃壁】という風魔法を展開していた。アルトスの周りを吹き荒れる風の刃によって近づいてくる魔物は問答無用でアイテムとなっていった。もちろん、アイテム回収も【吸風】という魔法によって引き寄せた後、そのまま展開しっぱなしのアイテムボックスに入れるという全自動にしてあった。
そのため、アルトスは洞窟内を歩くだけでアイテムが増えていくという、なんとも冒険者とは言い難い状況だった。
そんなアルトスだが10階層まで降りてくるとその方法を辞めざるを得なくなった。
10階層は一言で表すなら「数」。魔物自体は今までと変わらず、或いは少し弱くなったかもしれないが、その数が異常だった。他の層よりも圧倒的に広い空間を埋め尽くすかと思うほどの大量の魔物が襲いかかって来るため、【風刃壁】などの簡単な魔法では処理しきれなくなり始めたのだ。もちろん、こういった層の正攻法は魔法や剣術などで連続攻撃によって一体一体処理していくことなのだが、アルトスがそんなことをするはずもない。
【風刃壁】の出力を強めつつ、突破手段を考えるアルトス。そしてまたもや思いついてしまったのだ。
ーー高火力広範囲の魔法をぶっ放して一撃で全てを葬ってしまえばいいのでは?
と。なんて頭の悪そうな方法なのだろう。
だが、これは本来それほど強くない魔物に対してはしないような手段だ。魔法の出力や効果が大きくなればなるほどそれに消費する魔力も多くなる。ましてやこの量を一撃で倒せる魔法など並の人間ならば魔力切れで倒れてしまうだろう。
しかし、アルトスの固有スキル【模倣】は特殊である。『魔術回路を組み上げ、魔力を流し、魔法を放つ』という過程自体をコピーするため、いくら規模が大きくなろうと使うMPは【模倣】を発動する分だけである。つまり、コピーさえすれば50MPでどんな魔法も打ててしまうのだ。
アルトスは発動中の【風刃壁】を解くと同時に、空中に飛び上がり、ある魔法を発動する。
「【模倣】、【獄炎閉】」
するとアルトスを中心に魔物を覆い込むように魔力が迸る。そして全ての魔物を覆った瞬間、紅い業火が一切に発生しだした。体力に対して高すぎる火力の魔法をくらったため、魔物たちはグギャアアアアという悲鳴と共に一瞬で骨も残さず焼かれ、全てアイテムへと化す。
かくして『蛇精の洞窟』第10階層に文字通り地獄が形成されたのだった。
やっぱりコピーできる能力っていいっすね。昔コピーしたってことにすればいくらで技が増やせる。