冒険者登録
アルトスは無事国境を越えてルーンに入った訳だが、流石にあの時間に冒険者協会に登録に行けば少しは怪しまれてしまうかもしれない、と考えた。そこで近くの宿で仮眠を取り、現在朝の8時過ぎ。ここルーンは「冒険」で有名な国であるため、世界各国から冒険者たちが集まる。もう街は活発になっている頃だった。
荷物をまとめて部屋を後にし、受付で支払いを済ませたアルトスは冒険者協会へと向かった。これから冒険者として登録をしに行くのだ。
アルトスが冒険者になるのが良しと判断した理由は二つ。
一つは自身の身の安全のため。冒険者協会はどこの国にも属さない独立した組織であるため、国との協力関係などは取ることもあるが、国からの政治的関与などは無い。アルトスの実家であるルメストロ家はクルストの中でも大きな権力を持つ部類の家だ。そのために身寄りが無ければ連れ戻される可能性もある。しかし冒険者協会に所属していればその可能性は限りなく0に近くなるはずだろう。
そしてもう一つは自身の夢のため。冒険者は日々舞い込む依頼をこなすことが主な仕事である。その依頼は国内外問わずあり、さらにどの国にも冒険者協会はあるためかなり自由に旅することが出来る。また依頼の報酬によって資金にも困らない。アルトスの世界を旅するという夢には最適な手段だった。
アルトスは宿を出て冒険者協会支部に向かってしばらく街中を歩いた。ルーンの街には冒険者らしき格好をした人々が盛んに話をしている。また武器や防具、薬草などといったものを売っている店も多く並んでいた。正しく「冒険」の国と呼ばれるに相応しい様子だった。
そしてアルトスは冒険者協会の建物に着いた。少し緊張する気持ちもあったが彼は気持ちを落ち着かせるとドアを開け建物の中へと入っていった。
○○○
「おはようございます、冒険者協会へようこそ。私は受付嬢のカーナです。今日はどんなご用ですか?」
受付のカウンターにアルトスが近づくと、受付の女性、カーナは元気よくそう言った。
「ああ、えっと俺はアルトス。新しく冒険者協会に登録したいんですけど…」
「はい、新規登録の方ですね。では最初に簡単な審査を行いますので奥までどうぞ」
そう言ってカーナはアルトスを奥の部屋へと案内する。その部屋には一人の男性がいた。
「こちらがアルトス様の審査を担当させて頂くガランです」
「ガランだ、よろしく頼むよ」
「アルトスです。こちらこそよろしくお願いします」
ガランと名乗った男性は背が高く、だいたい190cm程ではないだろうか。そしてがっしりとした体型で逞しい筋肉が全身についていた。
「あの、審査って何するんですか?」
アルトスが単純な疑問を投げる。
「ああ、そういえば言っていなかったね。今から俺が君の経歴とかを見る。俺は人に対して有効な【鑑定】スキル持ちでね。まあ犯罪者とかに協会に入られたらたまったものじゃないだろう?」
「あー、なるほど。そういう事ですか。確かにそれもそうですね」
(やっべえええ。どうしよ俺、経歴なんて見られたらクルストでルメストロ家に追われたことバレるやんけ…。いやでもここで断れば怪しまれるし冒険者にはまずなれないだろうな。ここは素直に受けるべきだろう)
「では、早速お願いします」
アルトス内心ビクビクしながらもなんとか平静を装った。
「うむ、では失礼するよ」
ガランが自分の右手に魔力を込めてそのままアルトスにかざす。そして何かを探るように少しづつ手を動かしていく。
1、2分ほど経過して、ガランが口を開いた。
「ふむ、君は…まあ色々大変だったようだね。この国に来たのは正解だ。ここは「冒険」の国、冒険者になるにはうってつけの場所だからね。それに君のような強い人材はこちらとしても是非欲しいところだ。審査は合格だ。カーナ、彼に冒険者証明を発行してあげなさい」
「分かりました、では受付までついて来てください」
「良かった…分かりました」
アルトスはホッと一安心するとカーナに連れられて再び受付まで戻る。
「ではこちらの書類に必要事項を記入してください」
「分かりました」
カーナに手渡された書類を見るとそこには、名前や年齢、出身国などといった冒険者として登録するために必要な情報、主に身分証明のためのものを記入する欄があった。
「これで大丈夫ですか?」
アルトスは一通り書き終えるとカーナに紙を渡す。
「ええ、これで結構です。証明の発行までには少し時間がかかりますので、その間に私の方から冒険者についていくつか説明をしますね」
「あ、はい」
そしてカーナが冒険者の説明を始める。
「まず、この冒険者協会は世界各国に存在しています。どの国にも支部がありますのでご安心を。依頼を受けたり、報酬を受け取ったりする時には受付までお願いします。話しかけて冒険者証明を見せれば大丈夫ですので」
「それから次は冒険者ランクについての説明をしますね。冒険者は依頼を達成していくことでランクが上がります。最初はEランクからスタートします。そこからD、C、B、Aと上がっていき、そして依頼達成による最高到達点であるSランクにまで登り詰める方もまれにいます。」
「えっと『依頼達成による』って他のことで上がる場合もあるんですか?」
「……ほぼ居ません。ですが世界でも数名のみ特別な事情で特殊なランクに上がった方がいます。まあその場合は「上がる」と言うよりは「認定」の方が近いですが……。何千何万といる冒険者の中でたった数名ですのでそのようなケースは限りなく0に近いでしょう。あまり気にすることはありません。基本Sランクが最高だと思っていてください」
「なるほど…」
「あ、アルトス様の冒険者証明ができたようですよ、これをどうぞ」
そしてアルトスは薄い板のようなものを貰った。
「その板に魔力を流してみてください」
言われた通りに魔力を流すと、空中に光の文字が浮かんだ。
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冒険者協会
名前 アルトス
ランク E
この者が冒険者協会の
冒険者であることを証明する。
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「その板は文字通り冒険者としての証明をするもの、できる限り失くさないでください。まあ失くした場合は少し面倒ですが再発行もできますので」
「分かりました」
「あ、あと職業が少し変化しておりますので。試しにステータスを見てみてください」
「あ、はい」
アルトスが自分のステータスを見ると、
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名前:アルトス(15)
職業:冒険者、旅人
レベル:32
HP:5230/5230
MP:1450/1450
スキル一覧
なし
固有スキル
模倣Lv10
・消費MP50
・見たことある技を放つことが出来る
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と言った具合になっていた。職業欄に脱出した時についた「旅人」の他に「冒険者」があった。
タイトルが変わりました。自分自身文章みたいな長ったらしいタイトルが嫌いなのでこの物語を一言で表しました。深い意味はございます。