脱出・1
時間の流れというのは不思議なもので、あっという間に4年の歳月が経ち、アルトスは15歳になっていた。もちろん、この4年間でアルトスはできる限り詳しい情報の収集と、それを元にした計画を立てた。
アルトスの得た情報は、大きなものでルメストロ家の屋敷内外の巡回兵の時間ごとの巡回人数やいつどこが少なくなるのか、屋敷を出たあとどこの国境に向かえばいいのかなどだった。
そしてアルトスは計画を練りに練った結果、ついに完成させたのだった。そしてその計画には家を出る以外にももうひとつ、幼い頃からの彼の夢を叶えるためのものでもあった。それ故に彼はこの計画が立った時、歓喜していたのだった。
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ステータス発表の日から5年、家出を思い立ってから4年、長いようで一瞬だった。今日、俺、アルトス・ルメストロはただのアルトスになるつもりだ。全ては俺が生きるため、そして何よりも俺の夢を叶えるためだ。長年家では虐げられてきた。そしてもうすぐ殺される。あんなクズ達に殺されてやるなんて御免だ。絶対に嫌だね。
現在時刻は深夜の1時50分、決行は2時だからあと10分だ。そろそろ最後の準備をしなくては。
と言っても見た目は手ぶらだ。【模倣】の訓練過程で基礎魔法は一通りコピーしたため、【アイテムボックス】が使えるようになった。だから必要そうなものは片っ端からボックスの中に放り込んだ。物持ってたら逃げるのに邪魔だしね。まあ多分準備万端だ。
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2時来たあああ!!ついに来たよこの時が。俺が待ちに待ったこの瞬間。よし、作戦決行だ。
まずは作戦その1、ルメストロ家屋敷からの脱出だ。
現在俺は屋敷の3階にいる。このまま下の階へと降りていき裏口から屋敷の外に出る。窓を開けて外に出ることも考えたがもし失敗した時に無防備になることを考えるとやっぱり監視を避けながら下に降りていくことの方が安定すると思った。
この時間なら3階には巡回はいない。だが万が一に備えて音を鳴らさないように意識してゆっくりと歩く。時間はまだまだあるから全く問題ない。
2階に降りる階段まで到着した。周囲を確認したあと下の階にも人が居ないかを確認する。やはり誰も居ないようだった。音を立てないようにゆーっくりと一段一段降りていく。そして2階に降り立つ。
廊下に出る前に周りをもう一度確認する。この作戦はバレれば終わり、多分、というか確実にこれからは監視がキツくなるだろう。そうなればもう脱走の機会なんて無くなってしまう。生か死かのどちらかだ。全神経を研ぎ澄まして細心の注意を払いつつ、俺は屋敷内を進んでいく。
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いやね、ほんと笑っちゃいますよこれは。
無事2階を突破し、1階に降りた俺が目にしたのは監視たちが休憩室で酔い潰れて寝ているところだった。下調べの時よりもかなり静かだと思っていたらこいつら寝てやがったのか。仕事する気あるのかな。
まあこのルメストロ家の関係者は揃いも揃ってクズ共。というかこの国の貴族等の権力者はそんな輩が他の国よりも多い傾向にある。そんな奴らだからこそ目先の快楽に溺れてしまったらしい。
まあ今の俺からすればこの状況は断然好都合。それにこの国とはもうすぐおさらばする。別にもう関係はない。
……一応これが罠だという可能性もあるよな。
監視達に演技をさせるor他にも監視を残してこいつらだけ囮に使う、こんな可能性も考えられなくもない。流石に完全に油断は出来ない。何度も言うが捕まればそこで人生終了、残念ながらゲームオーバーだ。
そうならない為にもやはり注意すべきだろう。怪しいし、1回スキルを使っておこう。
「(【模倣】、【気配探知】)」
心の中でそう唱えれば自分の周囲のあらゆる気配が詳細にわかる。今回はそんなに分かりすぎてもダメなので屋敷の敷地内に限定して発動した。
ちなみにこの4年で【模倣】とステータスはレベル上げしまくった。よってステータス発表時とは比べ物にならないくらいには成長してるがもちろんシル以外には誰にも言っていない。バレれば当主の座を狙ってるクルドが俺を殺しにくる。
あ、特に誰もいねえ。俺の考えは外れ、もう家の中に監視は居ないようだった。あとは門の外にいる兵2人組だが……寝てるな?あいつら。この家はまじでどうなってんだ…。ろくな奴雇ってないじゃん…。
まあきっと夜勤で疲れているんだろう。まあこれからは監視対象いなくなるし仕事減るよね!
まあもう監視がいないことがわかったのでこちらとしても少しは気を抜ける。
俺は起こさないように気をつけながら、かつ早く走って門の外に出る。よし、久しぶりの家の外だ。待たせたなこちらアルトス、これで晴れて自由の身や!
さて、あまりここで時間を食っても仕方ない。次の早いところ次の目的地へと向かおう。
今日すごいことに気づいたんですよね。アルトスの叔父の名前ってクルドじゃなくてクリドじゃん。まあ紛らわしいから今日からあいつはクルドにしましょう。