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前編

流石に長くなりすぎたので二つに分けました

 剣王夫婦と呼ばれる両親から生まれた俺は、幼い頃より一心不乱に剣の修行に明け暮れた

幸いな事に素質か訓練法が良かったのだろう、職業剣王の両親からすら天才と呼ばれているようになった

母親譲りの黒髪を伸ばし、鍛え上げられた身体は細マッチョながら岩をも切り裂ける剣技を身に着けた……ただ一つ気に食わないのは顔だ、父さん似で厳ついと言われるのは、思春期には辛い、同世代の女性に怖がられるのは、本気でキツイ


 ……ゴホン、話が逸れたな、兎に角そんな厳つい顔の天才たる俺が、ゲームの世界に転生していると気付いたのは、十五歳になると行われる職業授与の儀式の最中だった

余りにも身に覚えがある場面を目の当たりにした事により、前世の記憶が蘇ったのだ


 ――ここって前世でやり込んでいた『GREAT(グレート)-EARTH(アース)-SURVIVAL(サバイバル)』――通称GES(ゲス)の世界だよな!


 それは所謂(いわゆる)フルダイブ型VRMMOで、常時接続人数が百万人以上という大人気ゲームだった

そして今行われている職業授与の儀式は、新規プレイヤーを作成する場面と同じなのだ!


 確信して、状況を整理して、この世界の常識と俺が持ってる知識を照らし合わせる

……叫んでいいかな?とある事実に思い至って、喜びの余り絶叫しそうになった


 その事実というのは――この世界の奴等は全員無課金勢だと言う事だ!


 説明しよう、無課金勢↑とは!(ナレーション口調)

ゲームに課金しない人々の通称だ、別名エンジョイ勢とも言う

ぶっちゃけるけど、MMORPGは無課金で極めるなんて、無謀と言っていい程に過酷だ!と言うのも、大抵のMMOは一定以上のレベルから、レベルアップに掛かる経験値が半端ないのだ!

課金して経験値アップのアイテムを使い、更に課金装備で格上の魔物を倒しまくっても時間が掛かるのである

それがなければ、膨大な時間をレベリングに費やさなくてはならなくなり、無心でやり続けても普通に心が折れる、リアルで命の危険がある世界なら尚更だ


 ぶっちゃけ、GESの購入者は一億以上いたのに、課金アイテムやログインボーナスを使わずに最大レベルまで上げていた人が居ないくらいの苦行だ

いや、動画配信者がやったかも知れないが、それ何百時間かけてるのだよって言いたくなる所業だ


 そしてこの世界の人間は、課金アイテムを使ってない

いや、そもそもその存在すら知らない可能性が高い、何故なら、課金ショップはプレイヤーにしか使えないのだからだ!


 幼少の頃より、俺にはステータス画面のタブに課金ショップがあった

だけどそれを他の人間見せても見えず、信じて貰えなかった

毎日ログインボーナスを貰っていたけど、誰もそんな物は貰っていないと言われる始末だった


 子供ながらに、不安そうな顔で否定されたので、この話題に触るのは駄目だと思い言わなくなった、貰ったログインボーナスも使うのを躊躇ためらわれ、見せて怖がられるのが嫌でインベントリの肥やしにしていた

今にして思えば英断だったな、なぜなら


 ――これで俺だけはチート出来るのだから!!


 前世の記憶が蘇り全てを悟った俺は、自分の番になった職業選択の儀式でサクサクと職業を選ぶ

よしっ!レベルとステータスは足りていたようだ、望み通りに『剣王』を選べる!

因みに剣王は、剣士カテゴリーで丁度真ん中の職業だ、上にまだ剣聖と剣神の職業があるが、必要レベルやクエストがあるので流石に選択出来なかった


 まぁそれも、レベルを上げてクエストをクリアしたなら選べるので、楽しみに取っておこう

とりあえず今は心配そうに俺を見守る両親に、無事『剣王』になれた事を報告しとくか


 祭壇を駆け下りて、書き換えられたステータスを見せ付ける


「父さん母さん、俺、剣王に成れたよ!」


 満面の笑顔でそう告げると、どちらも二十代にしか見えない、茶髪の色黒覇王と黒髪ロングな美女が俺に抱き着いた

これが俺の両親だ、ゲーム世界が現実になった影響か、身体と筋肉量は比例していないし、どちらも三十代なのに若々しい見た目だ


「まさか最初の職業選択で剣王になれるとは、ブラッドは我がレイ伯爵家の誇りだ!ゆくゆくは剣聖も夢ではないな、流石は我が息子だ!」


「ブラッドの努力が報われたのですね、ああ、神様ありがとうございます」


 なんか涙目で抱き締められているけど、今までの頑張りが認められたみたいで悪い気はしない

それに、今日職業授与を受けた殆どが最下級職だったのに、俺がいきなり中級職に成れたのは、俺を鍛えてくれた両親のお陰でもある、いやあるなんてもんじゃないな、両親が鍛えてくれたからこそ、俺は中級職業を得れたんだ!

そんな両親の賛辞を受けて嬉しくないはずがない、むしろ俺がありがとうと言いたいくらいだ!


 散々喜びの言葉を浴びせられるのを一身に受けながら、俺はこの両親の子供で良かったと幸せを感じていた

ようやく落ち着いてくれたのは、上級貴族が現れる時間帯になったからだろう、周りに平民が居なくなったのに気付いた母さんが「さあ、今夜はお祝いよ!」と言い、父さんが笑顔で頷いている


 そんな最高の気分のままに、家へと帰ろうとしたのだが……野暮な怒声が響き渡った


「中忍だと!」


 お、俺と同じ中級職じゃないか!

どんな奴がなったのかと目を向けると、一人の高級そうなドレス姿の少女が怯えた顔で父親に怒鳴られていた


「お、お父様、これは…」

「黙れ!ここまでお主には英才教育を与えてやったというのに……寄りにも寄って忍者になるとは何事だ!これではとつがせる事も出来ないではないか!」


「ヒッ」


 あー、システム上、職業選択で中級職業が選べる場合は下級や最下級職業は選べないんだよな

ゲームだとステータスを調整して好きな職業が選べるけど、現実だとそれは無理だからなー


 なんて、他人事だと思いながら聞き流しているのだけど、俺の視線は彼女に釘付けだ!

ぶっちゃけ惚れた!これまで剣の鍛錬だけに使って来たような人生だったけど、始めて女性に心惹かれている


 ……もっとも、俺の家は伯爵とはいえ、領地すら持っていない名誉爵位だから、あんな綺麗な子とは縁を繋げる事は出来ないだろけど

……そう諦め混じりに見詰めてたのだが、怒りに染まった父親は、予想外の言葉を娘に投げつけたのだ


「お主は勘当だ!忍者などという下賤な職業の娘など要らぬ!二度と我が前に姿を見せるな!」


「そんな!お父様待って下さい、私は…」

「寄るな下郎!次に喋りかけたなら切り捨てるぞ!」


 少女を蹴り飛ばし、男は去って行った

だけど泣き崩れる少女に、誰も手を差し伸ばさない

勘当を言い渡した相手は、顔は知らないけど高級感溢れる装いをしていた、ならば侯爵以上の上級貴族なのだろう

そんな相手と下手に関わって、とばっちりを受けたくない、多分みんなそう思っている


 誰しもが遠目に憐憫の眼差しを向けるだけ、人によってはさっさと何処かに行けと迷惑そうに見ている

だけど俺は両親の元を早足で離れると、絶望に泣いている少女へと歩み寄り、手を差し伸ばした


「来い、俺が拾ってやる、今日からお前は俺の物だ!」


「え?」


 腕を掴んだ俺を一瞬驚いて見て、すぐに振り払おうとするが俺は手を離さない

改めて見ると本当に綺麗な少女だ、長いエメラルドグリーンの髪にサファイアの瞳、ドレスで隠されているのに分かる鍛えられた身体と優しげな顔立ちも好みだ

無理矢理立たせて腕に抱くと、突然の物扱いに少女は恐怖の顔色をするが、そのまま強引に両親の前へと連れて行く


 父さんも母さんも怪訝そうな顔で俺を見ていた

そりゃそうだ、明らかに面倒事を連れて来たんだから……でも、この少女を手放したくたい

だって最高の気分だったのを、こんな理不尽な理由でぶち壊されてたまるかよ!一昨日おとといやれや!俺の視界で誰かを不幸にするんじゃねーよ!


 こんな最高な日に気分を害されたくない、ただそれだけを考えて、俺は今までの人生でも一番の真剣な顔をすると、両親へと訴えた


「父さん母さん、この子を俺の従者として雇う事を許して下さい」


「……、公爵家から勘当された娘を雇うというのが、どういう事か分かって言っているのか?もし可哀想等という浅はかな考えで言っているのなら、私はお前に再教育しなければならない」


 父さんは静かに怒るような顔で、まるで試すかのように聞いて来た

ここで間違った答えを言おうものなら、父さんはこの少女を引き剥がし、俺に貴族としての在り方を再度教えこむだろう

その場限りの感情で他者を救っていても、それは誰の為にもならない、そう説教されるだろう

だけど、それを分かっていても、俺はこの少女を見捨てる気にはならなかった


「この少女は俺と同じ中級職業である中忍です、それだけでも素晴らしいのに、彼女は公爵令嬢としての教育も受けています」


「忍者を雇うという事は、誰かを暗殺しようとしていると思われかねない、それを分かって言っているのか?公爵家に目を付けられるのを合わせても、デメリットの方が大きい」


「それも上級職になれば評価が変わるでしょう、俺はこの少女とパーティーを組み、誰も成し得なかった剣聖と上忍に成ってみせます」


 父さんと母さんは俺の言葉に目を見開いた

それというのも、この世界で上級職になった者は一人しか居ないのだ、確かテイマーだけだったはず

そのテイマーも、テイムした魔物に狩りをさせまくって上級職になったが、余りにも酷使した代償に、最後にはテイムした魔物に食い殺されている


 そんな上級職に俺はこの少女と成ると言ったのだ、そりゃ驚くだろう

普通に考えたなら、こんな戯言は聞き入れてもらえないだろう、自分でも失敗したかと思ったのだが……

父さんは俺の真剣な顔を見ながら考え込み


「一年以内だ、一年以内にレベル三十に至らなかったら、その子を捨てる」


 想像していた以上に容易い課題を課した

え?半年以内には上級職になるつもりだったのに、そんな簡単な条件でいいの?

……って、ゲームの感覚で考えてたけど、経験値アップのアイテムが無かったら、かなり厳しい条件か


 正直経験値アップのアイテムがあるからあっという間にクリア出来るけど、ここは演技して応えておこう

変に「そんな簡単な事でいいの?」と言ったら、条件を変更されそうだから


「っ!……分かりました、必ず期待に応えてみせます!」


「!!」


 少女が驚いているけど無視して、さも、それは厳しいでしょ!って顔で応えると、父さんは鷹揚に頷いた


「もちろん学園の授業を疎かにするのも許さないからな、ちゃんと勉学にも励めよ」


「はい父さん!ありがとうございます!」


 お礼を言いながら頭を下げるけど、本気で嬉しい

だって、公爵から何か言われるデメリットよりも、息子である俺の言葉を信じてくれたんだぞ!

これは期待に応えなければならないでしょ!見といてくれよ父さん母さん、絶対に最上級職まで駆け上がって、驚かせてやるからな!


「さあさあ、難しい話はここまでにして、お家に帰ってご馳走を食べましょ、新しい家族も増えたのですからね」


 母さんが俺から少女を取り上げると、微笑みかけた

そこで始めて自己紹介もしてなかったのに気付いたのだろう、真っ赤に腫れた目で、彼女は慌てて優雅に礼をした


「あ、ありがとうございます、私はノガシター公爵……いえ、今はただのサーカナです……不束者ですがよろしくお願いします」


「カナちゃんね、これからは公爵家の暮らしと違って戸惑うでしょうけど、頑張ってね」


「はい、救ってもらえた御恩に報いる為にも、一命を賭してでもお仕えする所存です」


「あー駄目駄目、死ぬのは無しよ、ブラッドも私達もそんなの望んでないから」


「え、でも、私は廃嫡された忍者で……」


「その前に可愛い女の子でしょ、大丈夫よ、きっと上手くいくから、あなたは何も心配しなくていいわ」


 母さんがカナを引き寄せると、そっと抱き締めて、その顔を胸に抱いた

カナの目からポロポロ、ポロポロと涙が落ちる 


「あ、ありがとうございます……グスッ……私……私……いきなり捨てられて、どうしたらいいか……もう、父を暗殺して死ぬしかないと……」 


「大丈夫、大丈夫よ、ブラッドが私達の期待を裏切った事は一度もないの、きっと貴方を幸せにしてくれるから」


 母さんの言葉に、カナは嗚咽を漏らしながら泣き始めた

それを見守る俺は……上がったハードルに頭を抱えたくなっていた!

ちょっと待って欲しい、俺は確かに上級職になるとは誓ったけど、幸せにするとは言っていない!

え?女の子を幸せにするって、どうすればいいの?こちとら前世含めて彼女無しなんだから、女の子の幸せとか言われても分からないよ!


 すがるように父さんを見たら、まるで諦めろとでも言うような顔をされた


「ブラッド、条件を増やす……彼女を幸せにしてやりなさい、これには期限を設けない」


「っ!……わ、分かりました」


 今度こそ俺は本心から、それは厳しいでしょ!って顔で応えた



―――

――



 職業授与の儀式から一ヶ月後、俺とカナは王立貴族学園へと入学した

これから三年間は、この学園で貴族としての知識を学ぶ事になる……国内貴族全ての十五歳になった子息女が集められるので、国に対する忠誠を教え込む施設でもあるけど


 そんな学園に、俺はカナを男爵令嬢として通わせる事にした

男爵令嬢だ、どうやってその身分を手に入れたかというと、辺境で金のない男爵と渡りをつけて、その娘の代理として通わせているのだ


 簡単に説明すると、この学園は国内全ての貴族が通う事になるのだが、辺境の貧乏貴族は金がなくて借金しなければ行かせる事が出来ない

それも王家が貴族の力を削ぐ為にやっているのだが、貧乏貴族にとっては死活問題なのである

だからその寄親……所謂上司が立て替えるのだが、少しでも負担を減らす為に、代役を立てる事があるのだ

この世界では、都市間の移動には護衛の冒険者や騎士を雇うのが普通だ、そして移動中の宿代も馬鹿にならない

だからド田舎の貧乏貴族は、王都に住む寄親に移動費とお小遣いが掛からない代役を立ててもらい学費だけ収める、その代わりに代役が卒業したら家庭教師として雇うというのがグレーゾーンであるが一般化したのだ


 それを知っていた俺は利用した

今までのレベル上げで稼いだ金を全て使い、困窮している王都に寄親がいない辺境貧乏貴族に、俺は無償での家庭教師の斡旋と共に代役を立てる事を頼み込んだのだ

王都で剣術指南をしている父さんと母さんの名前が効いたのだろう、二つ返事で娘の名前を使うのを了承された

いや、危ういとは思ったけど、カナは変化の術を使えるのを知っていたので決行したのだ

流石は忍者というしかない、送られてきた肖像画と瓜二つな小麦色の肌の健康そうな令嬢へと化けたのだから


 その思惑は、結果論でいうと大成功だった

カナを勘当……いや廃嫡か、をした公爵なのだが、もしもカナが他家で雇われていた場合は、それをメイドとして学園へ送れと、自分より下位の貴族へ命令していたのだ!


 そうなればどうなるかなんて容易く予想出来る、公爵令嬢がメイドへと身をやつしたのだ……きっと、まともな教育を受けていない貴族アホから、俺の理性が吹き飛ぶような扱いをされただろう


 ふぅー、軽く想像しただけで、そこら辺にいる馬鹿貴族を殺しそうになっていた

カナには変化の術で男爵令嬢へと化けてもらって良かった、じゃなかったら俺は、剣王のスキルを全開で暴れていただろうからな



―――

――



 学園の敷地にはダンジョンがある

これは管理された適正レベル十の初心者向けダンジョンで、本来なら幼少の頃よりレベル上げをしている俺やカナには物足りないダンジョンだ

だけど前世のゲーム知識を持っている俺は、カナを連れ添い地下二階へと歩いている


 本来なら学園の新入生は護衛付きでないと入れないのだが、俺とカナはレベル二十五なので、特例として自由に入れるようにしてもらえたのだ


 さて、父さんが言った「一年以内にレベル三十」を覚えているだろうか?

あとたったレベルを五上げればクリアする課題なのだが、このレベル帯から必要経験値がべらぼうに高くなるのだ

世間一般の常識ならレベリングに励んでも半年は掛かる、学園に通いながらだとかなり無茶しないと不可能だ


 だがそれは自分と同等以下の魔物を倒した場合で、自分より高レベルの魔物を倒すならそうでもない


 とは言ってもこの世界の住人にとって戦いはゲームではなく実際に死ぬかもしれないリアルだ、だからレベル上げに格上と戦う人は殆どいない、蘇生手段が限られているし高価だからな……因みに死んだらデスペナで経験値を大量に失くすので、金とツテを持ってる人達でも慎重になる


 だがしかし!俺には課金ショップとログインボーナスで得た様々なアイテムと装備がある!

特に十五年分のログインボーナスの中には、大量のガチャチケットも入っていたのだ、流石にSR確定チケットは少なかったが、どうせ課金ショップで買えるので全て使った

銀貨一枚で千円分相当の課金が出来るのだ、出し惜しみなんか出来る状況じゃないしな、重課金してやったわ!


 先ずは俺とカナは初心者優遇装備で身を固めた、もちろん課金装備でだ

これは見た目こそ安物にしか見えないが、初心者の兜と鎧と武器を装備するとレベル七十五まで経験値が倍になる

更に初心者の指輪を装備すると倍になり、アイテムの超ヤル気玉を使用すると一日倍になる


 即ち八倍だ!ついでにレベル七十五までは安全に魔物が狩れるくらい高性能さだ

それに加えてガチャで手に入れたSRのネックレスや靴等の装備も身に着けている、もうこの時点で無課金勢に勝てる奴は居ないだろう


 そんな装備に身を包み、俺とカナは学園ダンジョン二階の隠し部屋から転移した

ぱっと見は草原だが、ここは初心者御用達のダンジョンで俺もよく利用した場所だ、学園ダンジョンはそこに行けるゲートの一つだった

推奨レベルは五十だが、転移した一階はレベル三十の魔物しか出ず、奥に降りる度に現れる魔物のレベルが上がっていく

まさに初心者用のレベリングダンジョンである


 突然洞窟から草原へ転移したのにビックリしたのか、カナの目が点になっているが、構わず進む


 ……進もうとしたら、カナに俺の服を掴まれ止められた


「ま、待って下さいブラッド様!」


「ん?どうした」


「あの、色々と驚き過ぎて、何処から質問したらいいか分からないのですが、とりあえず説明してくれないなら刺します」


 あー、初心者装備と指輪を渡した時も、経験値が四倍になると聞いて「ファーーーー!」と叫んでいたし、キャパオーバーしたのかな?

説明するのは容易い……容易いのだが……俺は今まで女の子と二人っきりになった事がない!即ち俺も一杯一杯なのだ!


 だからスルーする事にした


「話は後だ、超ヤル気玉を使用するから魔物をバンバン倒してくれ」


「え、そのアイテムはいったい」


「これを使えば一定時間経験値が倍になる、だから喋ってる暇なんて勿体ないから無いぞ」


 本当は効果時間一日だけどな


「合わせて経験値八倍じゃないですか!」


「おっ魔物発見……よし、次だ」


「今のレベル三十のアサシンラビットですよね!なんで一撃で倒せてるんですか!」


 光の粒子になって消えていくウサギに驚きながら言っているけど

そんなの、レベル七十五まで使える武器だからに決まっているだろ

レベル三十くらいの魔物なら一撃で倒せて当たり前だ……あれ、そういえば説明してなかったような


 まっいいか!説明は今度しよう(説明するとは言っていない)どんどん進んで今日でレベル三十までは行きたいからな

MMORPGは、レベルが上がる程必要経験値が爆発的に増えてレベリングに時間が掛かるけど、半年を目安にレベル五十なら無理なくイケるはずだ……ゲームで掛かった時間は覚えてないけど、結構サクサク上った記憶がある


 とりあえずは驚いて動きが止まった美少女に、一喝しとくか


「つべこべ言わずに戦え!おっ、経験値ボーナス発見」


「コカトリスはレベル四十の災厄です!経験値ボーナスじゃありませんから逃げてって……なんで斬りかかってるんですかぁぁぁぁぁぁーー!」


「ふぅー……ん?何か言ったか?」


「だから瞬殺しないで下さい!お願いですから説明を、説明を求めます!」


「分かった分かった、帰ったら説明するよ」気が向いたらだけど 


「今、気が向いたらって言いましたか」


「んーん、言ってないよ」すっとぼけ


「私の目を見て言って下さい、監禁しますよ」


 ズズズイっと、カナが顔を至近距離まで寄せて来たので、バックステップで距離を取って逆ギレする


「無茶言うな!俺は今まで訓練訓練訓練で、まともに女の子と喋った事もないのだぞ!それなのにカナみたいな美少女と二人っきりで、マトモな受け答えが出来ると思っているのか!」


「び、美少女って、私はそんな」


「カナは美少女だ、自覚持て!少なくとも俺の美的感覚では絶世の美女なんだから、半径一メートル以内には近付かないでくれ、ドキドキして夜も眠れなくなるだろ!」


「え、あの……はい」(赤面)


「分かってくれたなら、それでいい……ったく、ちょっと顔が良くて性格が好みだからって調子に乗るなよ、お前を助けたのだって、一目惚れしたから衝動的にやっただけなんだからな!」


「あ、あの……もう許して下さい、私の心臓が持ちません」(真っ赤)


 何故かカナがモジモジしながら心臓に手を当てて苦しそうにしているが、俺は本心を言ったまでだ

テンパってかなり危うい言葉を言ったような気もするが、ギリギリセーフだろう





戦闘描写さんはチート武器の犠牲になったのだ

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― 新着の感想 ―
[良い点] カナもテンパってるが、ブラッド……素直か!?!www
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