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転生したら攻略対象(♂)でした  作者: ペンギンスター
8/22

アンニュイ

 この世界でも『聖アレクシオの花園』のストーリー通り、アリアちゃんが二百年に一度のフェニックスの蘇りの神事を行う『イベリスの乙女』に選出され、私とカイルは秋になったらアリアちゃんを神事の行われる『火の神殿』まで護衛することを約束した。


 それまでに実力を上げておこうということで、数日前、私とカイルとアリアちゃん、そしてエライザ嬢で『風の神殿』の魔獣を退治してきた。エライザ嬢はこれまでなんの魔法も使えなかったが、『風の神殿』の魔獣を倒したことにより四大属性魔法が使える様になり、彼女はとても喜んでいた。


 『風の神殿』の帰りに、アリアちゃんが崖から落ちそうになったが、エライザが覚えたての『エアロ』(風魔法)を咄嗟に唱えて、事なきを得た。しかし、その時風魔法で崖上に押し戻されたアリアちゃんをカイルが抱きとめた美しい光景が、私の脳裏に焼きついて、ずっと離れなくなってしまった。






 ベッドから窓の外を見ると、どんよりと立ち込めた雲が空を覆っている。

(今日は授業に行くテンションじゃない・・)

 私はしばらくベッドの上に体を起こしたまま、ぼんやり窓の外を見ていた。


「ラピス、まだ支度していなかったのか? 先にいくぞ」

 カイルがしっかりと身支度を整え、ブックバンドでまとめた本を手に持ってベッド側まで来た。


「あ。先に行っていてください」

 カイルと話すのですらなんだか面倒臭い気分だ。私はいまいち表情筋の動かない顔で答えた。


「体調でも悪いのか?」

 カイルが心配そうな顔をする。

 私はカイルの目線を手で遮り、テンションの低い顔そのままで答えた。

「いえ、なんだか少しやる気が出ないだけです」


「そうか、あまり無理するな」

 カイルは私の背中をポンと叩き、部屋を出て行った。


(今日は授業の後、エライザ嬢と町に買い物にいく約束をしているし、

 面倒だけど、授業出るか・・)

 私は重たい体をベッドから起こした。






『リーン ゴーン』と、授業終了の鐘がなった。

「では本日はここまで。

 来週までに闇属性魔法の取扱の注意点に関して各自レポートにまとめてくること」

 魔法学の先生はレポート課題を黒板に書き、ざわめく講堂を後にした。



 女生徒たちが数名集まり、ヒソヒソと盛り上がっている。

「今日のラピス様、なんだか物憂げな感じで素敵ね」

「いつもは穏やかでお優しい感じなのに、今日は時々ため息をついていらっしゃるわ」

 チラチラと女生徒達の目線がラピスに注がれる。

 イケメンは機嫌が悪くてもそれはそれでプラスポイントを稼げるのである。理不尽な世の中である。


 一人の女生徒が一段声をひそめて報告する。

「聞きまして? ラピス様、カイル殿下に想いの方を取られてしまったそうよ」

「ええー そうなのですの?」

 女生徒達が好奇の眼差しを光らせる。

「そういえば今日はラピス様、カイル殿下のお隣に座っていらっしゃらないですわね」

「ご学友同士で喧嘩だなんて、なんだか素敵♡」


 どうやら、先日アリアちゃんに弓を教えていた所を見かけた女生徒がいたらしい。

 尾ひれはひれの付いた話が、さも真実の如く駆け巡ってしまうのは日本でも異世界でも同じのようである。


「あ。ラピス様がエライザ様と二人で歩いて行かれるわ」

 女生徒たちの目が、笑顔で席を立つ二人に注がれる。

「どういうご関係なのでしょう?」

「ご友人だってことらしいわ」

「きっと今のところは、と言うことなんじゃないかしら」

 女生徒達の話はまだまだ続くのであった。






 私とエライザ嬢は明かりが灯り始めた町の通りを歩いていた。


「今日は本当にありがとうございました。

 ラピス様のおかげで素敵なロッドを買うことができました」

 エライザ嬢が嬉しそうに言う。

 先ほど武器屋で魔術師用のロッドを見繕ってきたのだ。


「エライザ嬢は稀有な魔法の才能を持っていらっしゃる。

 アリア嬢をお助けしたエアロ、初見であそこまでのコントロールで発動できるとは」

 あの時私は全く動くことができなかった。エライザ嬢の魔法の才能と咄嗟の判断力に尊敬の念を覚える。

 そして、またあの時の光景を思い出してしまい、少しやるせない気分になった。


 少し黙った後、エライザ嬢が悲しげな顔で言った。

「・・・・私本当にカイル殿下のことをお慕い申し上げておりますの。

 けれど、カイル殿下があんなにアリア様と仲がおよろしいとは・・」

 

 想いをストレートに表現できるエライザ嬢は、どこか潔くていいなと思った。

 私はトントンとエライザ嬢の肩を叩き、慰める。


「この町に、素朴な味わいですが、とても美味しいデザートがあるレストランがあるのですよ。よかったらこれからご一緒にいかがですか?」

 悲しい時は、美味しい物と友との他愛もない会話が一番である。


「あら、素敵ですね。

 ぜひ行ってみたいですわ」

 エライザ嬢が少し笑顔になってくれた。


 私たちは足を止め、レストランの方に歩き始めた。



 暮れ始めた空に十三夜の月が昇り、また満月の日が近づいてきていた。



次話>やっとラピスが女性の姿でカイルに会います

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