友情
私とカイルはこの間、学院の森で死霊の住まう屋敷を発見した。
この屋敷は『聖アレクシオの花園』で『レイスの屋敷』と呼ばれている攻略スポットで、貴重なアイテムを入手できる場所だ。
剣では死霊に対処できないため、聖属性魔法を使えるアリアちゃんに同行してもらって無事攻略し、それぞれ貴重な装備を入手した。
ラピス :次元の指輪(物資を別空間に保管する)
カイル :へルメスのブーツ(素早さx2)
アリア :天空の弓(命中補正)
『次元の指輪』はいわゆるアイテム収納機能があり、地味に実生活にも役立って嬉しい。鞄いらずだ。
これ以外にも、『レイスの手記』というゲーム攻略のヒントが色々書かれた書物も入手できた。あまり『聖アレクシオの花園』の詳細設定を覚えていなかったので助かった。
レイスの屋敷で気付いたのだが、アリアちゃんはまだめちゃくちゃ弱い。
『レイスの屋敷』で入手した『天空の弓』なる装備は、どんなに適当に打っても命中してしまう優れ物だが、私は弓の基本をアリアちゃんに教えることにした。
授業が終わり午後の日差しが降り注ぐ中、私とアリアちゃんの二人は弓の訓練場の一番奥のレーンにて練習を始めた。
ラピスは令嬢時代に弓を練習していたので、基本は体に染み込んでいる。
「このようにですね、体の軸を真っ直ぐに保って」
私が練習用の弓を引き、自然に矢を放つと、矢は的の真ん中に突き刺さった。
「はい」
アリアは真剣な表情で弓を引き、矢を放つ。
が、矢は力なく放たれ、的に届く前に地面にくたっと落ちてしまった。
アリアは残念そうな顔をする。
「今は矢のことは気にしなくていいですよ。体の軸はよくできてました。
もう少し続けて見ましょう」
アリアは一本一本丁寧に矢を放つ。
「右腕の位置を、もう少し高くここら辺で」
アリアちゃんの右肘をそっと移動すると、スズランのような甘い香りがほのかに香る。
その時、弓道場に鋭い声が響いた。
「アリア嬢、ここにいたのですね」
振り返ると、弓の訓練場の入り口に現れたカイルとバチンと目が合った。
『カーン』と闘いのゴングの音が聞こえた気がする。
(え!? 誤解です、殿下!)
「今日は、ローガン先生の研究室に行くのでは?」
カイルがこちらに歩いて来て、アリアに問いかける。
「もうそんな時間!」
アリアが慌てて弓と矢を片す。
「ラピス様、ありがとうございました。
またよろしくお願いします!」
アリアちゃんは丁寧にお辞儀をすると、カイルと共に訓練場を去っていった。
カイルが言うには、ローガン先生の所で行われている聖魔力と植物の成長に関する研究をアリアちゃんが手伝っているらしい。
カイルは農業政策に活かせないか気になる、と真面目な顔をして言っていたが、気になるのは農業ではなくてアリアちゃんだろう。とツッコみたい。
それから私は一人しばらく剣を振い、訓練場を後にした。
寄宿舎へ向かい道を歩いていると、生垣の向こうから声がした。
「ラピス様!」
悪役令嬢エライザ嬢が手を振っている。
オフホワイトの日除けが掛かったカフェテリアの席には、取り巻き令嬢さん二人も座って笑顔でこちらを見ている。
「よかったらご一緒にお茶でもいかがですか?」
エライザ嬢のお誘いのままに、私は午後のお茶をご一緒することとした。
「いらっしゃいませ」
ギャルソンが軽くお辞儀をし、椅子を引く。
私はダージリンを注文し、令嬢達の会話に耳を傾ける。
「今日の経済学の授業でのカイル殿下のご質問、先生も考え込んでいらっしゃいましたね」
エライザ嬢がキラッとした目で話す。
「ああ、ギルド特権の弊害についてご質問されていましたね」
カイルは授業でも、かなり積極的に先生に教えを乞うことが多い。
「さすがカイル殿下ですね!」
取り巻き令嬢さん1が称賛する。
「いつも深く考えていらっしゃいますよね!」
取り巻き令嬢さん2も賛同する。
「確かに、学院にいながらも国政状況の報告などにも目を通されているみたいですし、基本とても真面目な方でいらっしゃいますね」
カイルはなかなかに理想的な文武両道の王子様なのだ。
「だけど、最近アリア様とばっかりご一緒で。
いったいどんな御用でご一緒にいるのかしら」
エライザ嬢はぷりぷりと文句を言う。
「まったく、アリア嬢が羨ましいですね。
私も最近カイル殿下とお話する時間をあまりいただけなくて」
眉をひそめて同意する。
「私は、カイル殿下を授業でお見かけできるだけでも、もう」
取り巻き令嬢さん1がうっとりと宙を見る。
「この間、剣の稽古をされているお姿を拝見しました。剣を振われるお姿もそれは麗しゅうございました」
取り巻き令嬢さん2の目がキラキラと日の光を反射する。
(・・・・)
(ここはもしや・・カイル殿下ファンクラブ!?)
(ま、それもいいか(笑))
私は、エライザ嬢たちと楽しい午後の時間を過ごすのであった。