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転生したら攻略対象(♂)でした  作者: ペンギンスター
6/22

水の神殿

『聖アレクシオの花園』には、特定条件で出現する隠れキャラがいる。


 転生前、妹の沙紀に指導されながらゲームをしていたのが懐かしい。

「このゲーム、強い回復魔法が使えるのは『水の巫女』だけなんだよー。

 仲間にしておかなきゃ、ボス戦まじ無理だから。」

 私が交通事故に遭って、家族はどれだけ悲しんだだろうか。

 沙紀、突然死んじゃってごめんね。



『水の巫女』に出会うには、古物商で青い宝石の指輪を手に入れ、満月の夜に水の神殿に行かなければならない。


 私は、胸元から首に掛けた革紐を取り出して、その先に通しておいた指輪を眺めた。

 先日、町の裏通りの古物商に行って手に入れたこの指輪は、海を閉じ込めたような深い青色の宝石がはめ込まれており、銀のリング部には何やら古代文字のような記号が刻まれている。


 

「カイル、数日ラクロア家に行ってきます」

 私は、机で何か書き物をしているカイルに告げた。

「気をつけて」

 カイルが振り返って笑顔で送りだしてくれた。

 私は、簡単な手荷物を持って部屋を後にした。







 学院の馬房は、学院の門そばの木々の中にある。

 最近よく乗せてもらっているのは、額に白い模様のある黒鹿毛のファルツだ。

「ファルツ。今回は少し長旅なります。よろしくね。」

 首筋を撫でてあげると、ファルツはブルルぅと返事をしてくれた。

 私はファルツに跨り、ゆっくりとしたペースで出発した。

 

 ファルツと共に、よく踏みならされた街道をずっと南に下って行く。

 途中一泊宿をとり、次の日の昼ごろにはラクロア家の領地に入った。


 ラクロア家の屋敷の奥には普段人の立ち寄らない湾があり、湾の奥にはニ千年以上前から建つという水の神殿がある。

 ラクロア家は代々この神殿を守ってきた一族なのである。






 ラクロア家の屋敷の玄関に入ると、弟のオスカーが急いでやってきた。

「姉・・兄上。おかえりなさい」

「ただいま戻りました」


「この度はどのようなご用向きでご帰宅されたのですか?」

 オスカーは嬉しそうに問いかける。


「もう一度、私が倒れていた水の神殿に行ってみようと思いまして」

 水の巫女のことはうまく説明できないので、そういう事にしておこう。


「なるほど・・私もお供します」

「いえ、ちょっと見てくるだけですので大丈夫です」

 私が断ると、オスカーは少し不満げな顔で押し黙った。


「お帰りが遅い場合は、迎えに行きますね」

「ありがとう。オスカー」

 姉・・いや兄想いのの優しい弟だ。



 父母に挨拶をした後しばらく自室で休み、私は夕暮れを待って屋敷の裏の森へ向かった。

 手に持ったカンテラで照らすと、森の中に幅一メートル程の道が続いている。

 しばらく森の中を進むと、木々の間から夕焼けに染まる空が見えてきた。

 さざなみの音と微かな磯のにおいがする。


 森を抜けると、幅五百メートルほどの小さな湾が目前に広がった。

 湾の先に薄明かりにそびえ立つ石の神殿が見える。



 私は穏やかに波を打ち返す岸を進み、その先にある石の階段を降りた。

 神殿の入り口は太い四本の柱がそびえ、静謐な空気を漂わせている。


 神殿の中に入ると、そこは柱に囲まれた広い空間になっている。

 私は中央にある石の祭壇まで行き、青い石の指輪を置いた。


 私は祭壇から数歩下り、かつてラクロア家の人々がそうしてきたように、跪き、水の神に祈りを捧げた。



 どれほどの時間祈っていただろうか、日は沈み、満月が湾に昇ってきた。

 満月の光が祭壇に射し込むと、指輪の石は一瞬キラッと水色の光を放った。


 しかし、神殿内は静まりかえったまま、波の音が遠くから聞こえるのみである。

 私は顔をあげ、祭壇の指輪に目をやる。

 指輪はただそのまま、祭壇の上にあるだけだった。


 ふと自分の腕に違和感を感じ、体を見下ろすと、体が女性に戻っていた。


(戻った!? 

 指輪の力? 神殿の力?)

 私は自分の体に触れて元の体であることを確認し、安堵のため息をこぼす。



(『水の巫女』は現れないか・・)

(・・・・)

(・・・・まさか?)


 自分のステータスウィンドウを開いてみる。


  ■ ラピス・ラクロア

  攻撃力 :3

  防御力 :2

  素早さ :2

  魔力  :10

  魔力属性:回復 補助

  スキル :精霊の加護(魔力x2)

  装備  :


  回復魔法:キュア ステータスキュア ライフ  

  補助魔法:スリープ フライ バリア フォース

 

(私が『水の巫女』だったのか・・)



 




 ラクロア家の屋敷では、オスカーが私の帰りを心配そうに待っていた。

 私を一目見ると、

「姉上! 戻ったのですね!」

 オスカーが嬉しそうに駆け寄ってきた。

「戻ったみたいです」

 私は、力の抜けた笑顔で答える。


 なんだかとても疲れた。

 私はそのまま自室に戻り、ばたりとベットに倒れ込んだ。


(これからまた、どうやって生きていけば良いだろう・・)

 答えの出ない問いを頭に巡らせつつ、私は眠りに着いた。







 窓から小鳥の声がし、朝の白い光が漏れている。

 私はベッドに起き上がり、自分の体を確認してみる。


 長い腕…

 筋肉質な胸板…


(だめだったか・・)

 私は( くう)を見つめた。



 




 緑あふれる庭を見渡せるテラス席には、朝食のパンとキッシュが美しく並べられている。

 向かいの席に座るオスカーは、うかない顔でキッシュを口に運んでいる。


 私はため息を一つついて、オスカーに話しかけた。

「一時的なものだったみたいです。」


「残念です。しかし、一時的にでも戻れるのなら、どこかに手立てがあるんだと思います」

 しゅんとした顔でオスカーが答える。


「そうですよね。手がかりは神殿か、月か・・」

 雲を掴むような話に私はもう一つため息をついた。


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