聖アレクシオ学院
私は、日本で立石渚として生きていたのに、突如異世界に飛ばされてしまった。
転生先は、ラクロア家の令嬢ラピスだった。
しかし、転生と同時になぜが姿が男性化してしまった。
ラクロア家の人々は初め戸惑ったが、信心深いラクロア家の人々は神の思し召しとして受け止めることとしたようだ。
私には、日本で渚であったという記憶と、この世界でラピス令嬢であったという記憶の両方が残っている。その両方は少し霞がかった過去のもののようで、今の自分の魂が渚なのかラピスなのかと言われると、その両方でもあるような、そのどちらでもないような不思議な感覚であった。
転生したばかりではあるが、かねてから予定されていた聖アレクシオ学院への入学が二週間後に迫っていた。
私は入学情報の修正、服の新調、男性としての礼儀作法の習得に忙しく、あっという間に入学の日を迎えてしまった。
ラクロア家の屋敷を出てからまる二日馬車で揺られる。
王侯貴族たちが集う聖アレクシオ学院の重厚な門が見えてきた。
馬車は門をくぐると、寄宿舎前の車寄せで停められた。
馬車を降りると、黒の燕尾服の男性が
「ラクロア家のラピス様ですね。お待ちしておりました。」
と恭しく頭を下げる。
寄宿舎の入り口ホールから左右円形に渡された階段を登り、左奥の部屋まで案内される。
「ラピス様のお部屋はこちらでございます。
カイル王太子殿下と御同室となります」
重そうなドアを入ると、オフホワイトの生地に上品なブルーグレーの刺繍がほどこされたソファーと大理石のローテーブルが目に入った。
部屋左奥には、華美な飾りはないが上質なアンティークの机と椅子。きちんと整えられたベッド。クローゼットにはすでに私の衣類が数着掛けられている。
そして、簡単な間仕切りを挟んで部屋の右奥にはもう一対の机、椅子、ベッドが設置されている。
「何かお飲み物でもお召し上がりになりますか?」
「ありがとうございます。では紅茶をお願いします」
執事は礼をして部屋を出ていく。
手荷物をクローゼットに置いていると、
「コンコン」とドアがノックされた。
「どうぞ」と声をかける。
ドアから黒地にシルバーモールをあしらった立襟の服に、青いタンザナイトの宝石をはめ込んだ銀の剣を帯剣した青年が入ってきた。
私は跪き、最敬礼で挨拶をする。
「カイル殿下にご挨拶申し上げます。
ラクロア家のラピスと申します。
王太子殿下とのご同室という名誉に授かり、恐悦至極に存じます」
「ラピスか。顔を上げてくれ」
(うわっ。いい声)ストライクゾーンど真ん中の声色が脊髄に響く。
敬礼を解き顔を上げると、そこには黒髪に藍色の瞳のカイル王子が立っていた。
「これからは学友としてよろしく頼む。カイルと呼んでくれ」
カイル王子が爽やかに微笑む。
私は、(リアル王子様!!)とノックアウトされてしまった。
入学式、オリエンテーションを経て、今日からは授業が始まる。
寄宿舎の部屋の窓からは爽やかな朝の風が入り込み、小鳥のさえずりが聞こえる。
私はクローゼット横の鏡で身支度を確認する。
鏡に映るのは、白地に金モールの立襟の服に身をつつみ、長いプラチナブロンドを首の横で一つに結んだ超絶イケメンだ。
(長髪はイケメンにしか許されない・・ふぅ)
私は、腕を組み、軽く左手を顎にあて、自分の姿に見惚れる。
横からカイル王子が呆れた顔で話かけてきた。
「ラピスには水仙が似合うな」
ギリシャ神話で自分に見惚れて水仙になってしまったというナルキッソスのあれですね。
「美しい私にはピッタリですね」
と返しておく。
(ナルシストでいいんじゃないかと思う。だって私、壮絶カッコいいし)
寄宿舎から授業のある講堂までは、白い石畳の廊下が続いている。
私はカイル王子にラクロア家の事などを話しながら歩いていた。
さすが男性の足は速いのか、前を行く令嬢に追いついた。
「ミッシェル嬢、おはようございます」
私は追いついた令嬢に優しく声をかけた。
ミッシェル令嬢が振り返って、
「ラピス様、おはようございます!
カイル殿下、おはようございます!」
と笑顔で挨拶をしてくれる。
昨日知り合ったミッシェル令嬢は、オレンジがかった明るい髪色の令嬢で、今日は銅の細工にシトリンの宝石をあしらった髪留めをつけていた。
「素敵な髪留めですね。ミッシェル嬢の美しい髪色にピッタリです」
「ありがとうございます!」
ミッシェル令嬢ははにかんだ笑顔を見せると、友人の元へ小走りに走って行った。
「よくもまぁ、スラスラと・・」
カイル王子からの評価が下がってきている気がする・・
しかし、心のままに答えよう。
「美しいと感じた時に言葉にしないと、もったいないですから」