第八話 炎の中で
(後攻)ガトリングレックス作
ゴールデンウィーク2日目。
優と春樹は未來の案内で、門を抜けた先の森林を歩いていた。
「あのさ、未來」
「なによ」
春樹の申し訳なさそうに呼ぶ声に、未來は呆れた様に返事を返す。
「未來には昨日酷い事したなって。だから謝らせてくれよ。本当にごめん」
「いいわよそんなこと。あなた達だって必死なのは分かるもの。それよりここはブラックにとっての防衛ライン。おそらく守る者は強敵ぞろい。気をつけることね」
予想外の返事が返ってきたことに拍子抜けした春樹は緊張が解け、胸をなでおろす。
それに対し、優は自分が怪物となった恐怖に襲われていた。
軽いノリでこの世界で戦ってきたことに後悔を覚える。
「あれは仕方なかったのです。足を持ってかれたこと主人を救い出すにはあれしか方法は…………」
「怪物になってまで俺は救われたくなかった。佳子を救いたい気持ちは確かにある。だけど怪物になった今、佳子に見せる顔がないんだよ」
「…………」
重々しく、絶望感を漂わせる優に、幸福はなにも言えなくなった。
話を聞いていた春樹は怒りが込み上げてくると、優の裾を引っ張り、顔を近づける。
「おい!」
「なんだよ突然」
驚きで目を丸くし、動揺する優。
「命が救われたんだ。怪物になっても優が生きてればそれで良かった。俺の気持ちも考えろよ」
「春樹、俺は…………」
その続きを言おうした時、プロペラの回転音が騒音として鳴り響く。
「話は後だ。優が感情の勇者なろうと優は優。分かったな!」
激励の言葉をかけ、春樹は信頼をクルクルと回し、槍先を天に向けた状態でピタリと止める。
優も決心を固め、感情の勇者の姿へと変貌する。
逆刃刀を思わせる長い爪を擦り合わせ、「来い!」と叫びを上げる。
「モクヒョウ、ハイジョ」
照準を優に合わせ、射出音と共に砲弾が飛んで行く。
優が射出音に気づいた頃には砲弾は左の腹に命中し、高速回転しながら体を抉っていく。
「グヲーーーー!」
砲弾を爪で引き裂き、目標に向かって膝を折り曲げる。
「俺は撃たれた方に向かう。春樹は未來を頼む」
「分かった。気をつけろよ」
足をバネにし、砲弾が撃ち出されたと思われる方向に走り出す。
「モクヒョウ、セッキン。タダチニ、イチヘンコウヲ…………」
その続きを言おうとした瞬間、感情の勇者は敵に飛びかかり、その分厚い装甲を切り裂いた。
傷口から血が吹き出すが、動揺することもなく、ブラックは目標を目で捉える。
頭に取り付けられた戦車を思わせる砲台、鉄で構成された肉体、ニードルが取り付けられたキャタピラが腕になっており、足も同じくキャタピラで、こちらにはニードルが付いていない。
「お前がここのブラックか」
「ソノトオリ。ワレワレノナハセンシャ。ロウゴクニイキタイノナラワレワレヲタオシテカラダ」
「なんでそのことを」
なぜ佳子のいる牢獄へ行こうとしていることを知っているのか。
その質問に対しセンシャは首を回し、歯をむき出しにする。
「ボスカラジョウホウハキイテイル。ブガイシャヲココニトドマラセルワケニハイカナイ。カンジョウノユウシャ、ハイジョスル」
腕のキャタピラを高速回転し、足のキャタピラで急発進する。
(こいつ!? このまま俺に突っ込むつもりか!?)
優は驚きを隠せないまま、とりあえず高く飛び上がる。
だがジャンプ力を計算することを怠り、急上昇してしまう。
「モクヒョウヲハッケン、ウエカラクウバクヲオコナウ」
もう1人のブラックが優を視線に捉え、空爆を仕掛ける。
「ヤメロ。ワレワレヲコロスキカ」
「モウテオクレダ。ソモソモワレワレトオマエハチームデハナイ。イキタイナラコウゲキハンイニハイルナ」
次々に落ちてくる神の制裁と言う名の爆弾。
地面に激突するや否や、起爆して行き、森林を燃やし尽くす。
引火した辺りから一気に煙が立ち込めて行く。
春樹はハンカチを未來に渡し、煙を吸わないように口を塞がさせるが、炎の暑さで体が悲鳴を上げる。
体が燃える。
体が焦げる。
痛み、苦しみ、容姿なく死へのカウントダウンを進められる。
汗が止まらない。
煙が気管に入ることでの咳き込み。
ついには体に力が入らなくなり、その場で膝から崩れ落ちる。
「主人!?」
突然の主人の危機に、思わず驚きの声を上げる信頼。
「主人! 主人! 起きてください! こんなところで力尽きるなんて、私は認めませんよ!」
信頼の発言に対して春樹はまったく動かない。
「未來さん、でしたっけ。あなたはここで主人を見殺しにできますか?」
「そんなの、赤の他人なんだから関係ないでしょ」
「ウソですね。あなたはウソをついている」
この状況で信頼は未來を見透かすように追求していく。
「あなたはなぜこの世界の真実を教えないんですか?」
「問われなかったから、それだけよ。ていうかあなたが教えてあげればいいじゃない」
「ウソですね。私の名は信頼、信頼を保つにはウソをつくこともまた大切。その逆もまた然り。読めるんですよ。心がねぇ」
意味深なことを言いつつ、死にかけている春樹と信頼は融合し、体が激しい光に包まれる。
あまりの光の強さに、未來は目を閉じた。
光が徐々に消えていき、姿を確認できるようになる。
その変わりように、彼女は疑いの目を向ける。
「春樹、よね?」
未來の言葉にウソがあるとようやく気づかされた。
「俺は佳子を救って未來の未来を変える!」
その姿はまるで灰色の鎧武者を彷彿とさせ、背中には槍状の触手が12本生えている。
「未來。お前がなんで佳子に似てるのか。この世界の真実を」
春樹に心を読まれた。
それに対して未來は口を閉ざす。
「未來が動揺していることは手に取るように分かる。ここのブラックを倒したら自分の口で優に真実を言ってくれよ」
真剣で、償いが混じった声。
彼女が何者か知った以上、やるべきことは1つしかない。
炎の中を駆ける2人。
なぜ未來がこの燃え盛る火に耐えられるのか?
その秘密を春樹は信頼との融合で理解した。
だからこそ…………
(俺は死ねない! 絶対に)