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パンダ桜の木の下で  作者: 稗田阿瑠(先攻)、ガトリングレックス(後攻)
8/10

第八話 炎の中で

(後攻)ガトリングレックス作

ゴールデンウィーク2日目。

優と春樹は未來の案内で、門を抜けた先の森林を歩いていた。


「あのさ、未來」


「なによ」


春樹の申し訳なさそうに呼ぶ声に、未來は呆れた様に返事を返す。


「未來には昨日酷い事したなって。だから謝らせてくれよ。本当にごめん」


「いいわよそんなこと。あなた達だって必死なのは分かるもの。それよりここはブラックにとっての防衛ライン。おそらく守る者は強敵ぞろい。気をつけることね」


予想外の返事が返ってきたことに拍子抜けした春樹は緊張が解け、胸をなでおろす。

それに対し、優は自分が怪物となった恐怖に襲われていた。

軽いノリでこの世界で戦ってきたことに後悔を覚える。


「あれは仕方なかったのです。足を持ってかれたこと主人を救い出すにはあれしか方法は…………」


「怪物になってまで俺は救われたくなかった。佳子を救いたい気持ちは確かにある。だけど怪物になった今、佳子に見せる顔がないんだよ」


「…………」


重々しく、絶望感を漂わせる優に、幸福はなにも言えなくなった。


話を聞いていた春樹は怒りが込み上げてくると、優の裾を引っ張り、顔を近づける。


「おい!」


「なんだよ突然」


驚きで目を丸くし、動揺する優。


「命が救われたんだ。怪物になっても優が生きてればそれで良かった。俺の気持ちも考えろよ」


「春樹、俺は…………」


その続きを言おうした時、プロペラの回転音が騒音として鳴り響く。


「話は後だ。優が感情の勇者なろうと優は優。分かったな!」


激励の言葉をかけ、春樹は信頼をクルクルと回し、槍先を天に向けた状態でピタリと止める。


優も決心を固め、感情の勇者の姿へと変貌する。

逆刃刀を思わせる長い爪を擦り合わせ、「来い!」と叫びを上げる。


「モクヒョウ、ハイジョ」


照準を優に合わせ、射出音と共に砲弾が飛んで行く。


優が射出音に気づいた頃には砲弾は左の腹に命中し、高速回転しながら体を抉っていく。


「グヲーーーー!」


砲弾を爪で引き裂き、目標に向かって膝を折り曲げる。


「俺は撃たれた方に向かう。春樹は未來を頼む」


「分かった。気をつけろよ」


足をバネにし、砲弾が撃ち出されたと思われる方向に走り出す。


「モクヒョウ、セッキン。タダチニ、イチヘンコウヲ…………」


その続きを言おうとした瞬間、感情の勇者は敵に飛びかかり、その分厚い装甲を切り裂いた。


傷口から血が吹き出すが、動揺することもなく、ブラックは目標を目で捉える。


頭に取り付けられた戦車を思わせる砲台、鉄で構成された肉体、ニードルが取り付けられたキャタピラが腕になっており、足も同じくキャタピラで、こちらにはニードルが付いていない。


「お前がここのブラックか」


「ソノトオリ。ワレワレノナハセンシャ。ロウゴクニイキタイノナラワレワレヲタオシテカラダ」


「なんでそのことを」


なぜ佳子のいる牢獄へ行こうとしていることを知っているのか。

その質問に対しセンシャは首を回し、歯をむき出しにする。


「ボスカラジョウホウハキイテイル。ブガイシャヲココニトドマラセルワケニハイカナイ。カンジョウノユウシャ、ハイジョスル」


腕のキャタピラを高速回転し、足のキャタピラで急発進する。


(こいつ!? このまま俺に突っ込むつもりか!?)


優は驚きを隠せないまま、とりあえず高く飛び上がる。

だがジャンプ力を計算することを怠り、急上昇してしまう。


「モクヒョウヲハッケン、ウエカラクウバクヲオコナウ」


もう1人のブラックが優を視線に捉え、空爆を仕掛ける。


「ヤメロ。ワレワレヲコロスキカ」


「モウテオクレダ。ソモソモワレワレトオマエハチームデハナイ。イキタイナラコウゲキハンイニハイルナ」


次々に落ちてくる神の制裁と言う名の爆弾。

地面に激突するや否や、起爆して行き、森林を燃やし尽くす。

引火した辺りから一気に煙が立ち込めて行く。


春樹はハンカチを未來に渡し、煙を吸わないように口を塞がさせるが、炎の暑さで体が悲鳴を上げる。

体が燃える。

体が焦げる。

痛み、苦しみ、容姿なく死へのカウントダウンを進められる。

汗が止まらない。

煙が気管に入ることでの咳き込み。


ついには体に力が入らなくなり、その場で膝から崩れ落ちる。


「主人!?」


突然の主人の危機に、思わず驚きの声を上げる信頼。


「主人! 主人! 起きてください! こんなところで力尽きるなんて、私は認めませんよ!」


信頼の発言に対して春樹はまったく動かない。


「未來さん、でしたっけ。あなたはここで主人を見殺しにできますか?」


「そんなの、赤の他人なんだから関係ないでしょ」


「ウソですね。あなたはウソをついている」


この状況で信頼は未來を見透かすように追求していく。


「あなたはなぜこの世界の真実を教えないんですか?」


「問われなかったから、それだけよ。ていうかあなたが教えてあげればいいじゃない」


「ウソですね。私の名は信頼、信頼を保つにはウソをつくこともまた大切。その逆もまた然り。読めるんですよ。心がねぇ」


意味深なことを言いつつ、死にかけている春樹と信頼は融合し、体が激しい光に包まれる。

あまりの光の強さに、未來は目を閉じた。


光が徐々に消えていき、姿を確認できるようになる。

その変わりように、彼女は疑いの目を向ける。


「春樹、よね?」


未來の言葉にウソがあるとようやく気づかされた。


「俺は佳子を救って未來の未来を変える!」


その姿はまるで灰色の鎧武者を彷彿とさせ、背中には槍状の触手が12本生えている。


「未來。お前がなんで佳子に似てるのか。この世界の真実を」



春樹に心を読まれた。

それに対して未來は口を閉ざす。


「未來が動揺していることは手に取るように分かる。ここのブラックを倒したら自分の口で優に真実を言ってくれよ」


真剣で、償いが混じった声。

彼女が何者か知った以上、やるべきことは1つしかない。

炎の中を駆ける2人。

なぜ未來がこの燃え盛る火に耐えられるのか?

その秘密を春樹は信頼との融合で理解した。

だからこそ…………


(俺は死ねない! 絶対に)

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