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パンダ桜の木の下で  作者: 稗田阿瑠(先攻)、ガトリングレックス(後攻)
7/10

第七話 本当の怪物(Hypocrite)

作:稗田阿瑠(先攻)

灰鬼()()()ソレの目には、どこかまだ光があるような気がした。


何故かはわからない、もしかしたら思い込みか幻覚のようなものだったのかもしれない。


でも、佳子の目にはそう見えて。


「............ドウシタンダ?」


気づけば佳子は、ソレの目をじっと見つめていた。


灰鬼と同じ色、灰鬼と同じ目つき。


やはり()()は灰鬼だったんだな、と言うのがよくわかる。


「あっ、んーん!なんでもない、大丈夫.....」


ハッと我に帰った佳子は一生懸命首を横に振ったが、頭の中にはどこかモヤモヤしたものがひっついて離れなかった。


そんな佳子の様子を、”キッちゃん“は少しだけ真剣な表情でじっと見ていた。


視線を感じ続けても、佳子は歩き続ける。


この世界の終わりを目指して、歩き続ける。


いや、終わりなんてないのかもしれない。


でも、それでも信じたいんだ。


いつかこの色も何もない世界から抜け出して、元の生活に戻れると。


「.........一旦休憩にしない?私疲れちゃったなぁ」


ぼんやりと、灰色のような黒色のような空を見上げて佳子はそう呟いた。


「ソウダナ、イッタンキュウケイニシヨウ.....」


“キッちゃん”もどうやら少し疲れていたようで、そこらへんに転がっている瓦礫の上に座った瞬間溜息を吐いていた。


その仕草は人間の頃と変わらず、少しだけオジサンっぽくって。


嗚呼、まだあの中に“灰鬼”がいるんだなぁ、と佳子は改めて実感した。


「.............ねぇ、キッちゃん......いや、灰鬼....先生」

「ン?」


2人一緒に空を見上げては目を閉じ、ボソボソと何かを話し始める佳子。


「なんで、体罰なんてしたの」


そう言った瞬間、佳子は自分の口を塞ぎハッとした。


言ってしまった。


なんてことを言っちゃったんだろう、と溜息を吐く佳子を見ながら、灰鬼は人間味のある表情で笑ってこう言った。


「モシ.........もし、こう言ったら信じるだろうか....」


少しだけ前のような話し方に戻った灰鬼の声を聞いて、佳子は驚くもその話をじっと聞こうと黙り続ける。


「俺はな、体罰なんてしていないんだぞ......」


悲しそうに笑う灰鬼の顔を見ていてもたってもいられなくなり、佳子はガバッと起き上がった。


「どういうこと?」

「俺はなぁ、ただ少し嫌われ役をしたんだな.......本当は、何もしていない。生徒をグラウンド10周なんてさせたこともないし、体罰なんて........だが」


灰鬼は、表情を曇らせ佳子と同様ムクッと起き上がる。


「だが.....?」


佳子は先ほどより真剣な顔で灰鬼と自分の顔を近づける。


すると面白おかしそうに、でもどこか悲しそうに笑った灰鬼が少し後ずさった。


「俺のことをよく思わなかった奴らが居たんだろうよ........デマだのなんだの、ある事ないこといっぱい流されちまったなぁ.......ハハッ」


灰鬼の笑い声は前と変わらず、少し乾いている。


その笑顔を見て佳子は少し切なくなった。


「でもな、俺はそれでもいいと思ったんだ.......」


空を見上げる灰鬼、それにつられて佳子ももう一度空を見上げる。


「だって、俺は教師だから.......どんな嫌われ役でもいい、それでみんなが俺を嫌ったっていい。みんなが成長してくれりゃそれでいいんだ..........」


佳子には、十数分前まで頭にこびりついて離れなかったもやの正体が分かった気がした。


嗚呼、灰鬼先生ってこんなに良い人だったんだ。


それなのに、私はなんでこんなことをしちゃったんだろう。


「.............先生」

「だがな、今となってはもう怪物だ.........先生じゃない、俺は怪物だな........」


灰鬼の潤んだ瞳が、佳子を貫く。


それに耐えかねたのか、佳子は立ち上がって大声で叫んだ。


「違う!違います!先生は、先生は怪物じゃない!」


熱くなっていく喉からなんとか言葉を絞り出し、時に荒い呼吸をしながら灰鬼を睨みつける。


驚き固まる灰鬼を更にギュッと睨むもそこでハッと我に帰った佳子は、「あ.......」と小さく声を漏らしてそっと座った。


「すみません............つい、大声を出してしまって」


しゅんとして俯き、深く溜息を吐く佳子の頭を“キッちゃん“は優しく撫でた。


もう、人間のようなすべすべとした肌ではないけれど、佳子にはわかった。


まだそこには、人間のような温かさがある。


優しい人にしか感じることのできない温もり。


怖い目つきのどこか奥には光があって、怪物達はそれを見ることができないんだな、と佳子は気づいた。


「オレハ、カイブツダカラ.......」


少し悲しそうな声色でそういう“キッちゃん”の目を見ると、涙は出ていなかったものの何故か泣いているように見えた。


怪物(Hypocrite)は、泣くこともできないのかもしれない。


いや、“キッちゃん”は怪物(Hypocrite)なんかじゃない。


でも、でも.........


正義(black)に侵され始めたキッちゃんは、いずれ同じ怪物(Hypocrite)になってしまうのだろうか。


そう考えると、すごく怖い。


「...........ダイジョウブカ?」


キッちゃんの声に、佳子は無理やり微笑む。


「大丈夫よ..........先生」


佳子は、キッちゃんの手()()()ものをギュッと握りしめる。


こうしていると少しだけ安心できる気がして、佳子は表情を緩ませた。


「...........」


“キッちゃん”は、佳子の表情をじっと観察し佳子の心の内を探ってみた。


不安な気持ち、恐怖に怯える気持ち、終わりを恐れる気持ち。


なんとなく、そんなものが浮かんできた気がしたが“キッちゃん”はそれをそっと自分の胸の中に隠して、少し不器用に微笑み返した。


「サァ、ソロソロイコウカ」


”キッちゃん“が決意を決意を固めたように立ち上がる。


それをみて佳子も立ち上がり、2人はまた手を繋ぎ終わりのないこの世界を彷徨っていくのだった.........



「.............計画.......通り..........」


暗闇の中を、何かが這う。


「もう直ぐ.........モウ直グモウスグモウスグ!ワタシハ........フフ............アハハハハハハハハ!」

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