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パンダ桜の木の下で  作者: 稗田阿瑠(先攻)、ガトリングレックス(後攻)
6/10

第六話 感情の勇者

作:ガトリングレックス(後攻)

「あなた達、また来たのね………」


「それ以上言うな」


「もう聞き飽きたんだよ。はっきり言う、もし本気で俺達を追い出したいなら、さっさと佳子の居場所を吐け」


信頼の槍先を春樹は未來の首スレスレで止める。

その行動に未來は恐怖を覚え、青ざめながら一歩、また一歩下がる。


「未來さん、でしたっけ? 主人は本気で幼馴染を探そうとしているんです。あなたはここの住人なんですから、噂やらは聞いているはずですよねぇ」


「答えろ、佳子はどこだ」


信頼と春樹の脅迫、優の焦りが入り混じる恐々とした表情と、絶望と幸福の持ち手を強く握り、今にも引き抜きそうな構え。

それに対して危機感を覚えた未來の足は震えていた。


「分かった! 分かったわよ! 教えてあげるからその槍を退けて!」


その言葉を待っていたかの様に春樹は信頼をクルクルと手回しすると、地面に突き立てる。


「それでいい。さあ、案内してもらおうか」


こんな事をして良いのか。

信頼を持った時には悩みに悩んだ。

未來だってここの住人、つまり人間だ。

本当はこんなことはしたくない。

だが自分達には時間がない。

このゴールデンウィークを佳子の捜索に費やなければならないと言う悪循環(あくじゅんかん)に襲われながら、未來に案内を無理矢理させる。


「彼女がいるのは罪を背負った人間が行く場所で、あなた達で言うところの監獄よ」


風で長い黒髪を(なび)かせながら、佳子のいる場所の説明をする未來。


(罪を背負った………自殺の事か)


自殺した者は地獄に送られる。

そんな考えが現代の日本にはあるが、日本の仏教にはそもそも地獄という概念はない。

そもそも地獄とはインドや中国から派生した物であり、本来は奈落と言うそうだ。


歩いている道中、木の門によって道が塞がれてしまう。


「これ、絶望と幸福なら、1発で壊せるんじゃね?」


「待ってください主人。敵の気配がします」


「チッ、こんな時に」


春樹の苛立ちに優はため息を吐きながら、絶望と幸福をベルトに止めた鞘から引き抜き、膝を曲げ、臨戦態勢をとる。


敵はどこから、いつ襲って来るのか。


(フフ、アナタタチノイノチ)


(コノワタシタチガイタダイタ)


上から狙う黒い弓。

下から狙う黒い顔。


((イマダ!))


上空から放たれる矢は春樹に、地面から猛スピードで飛び出した化け物の顔が口を開け優に噛みつき、引きずり込む。


矢が空を切る音に気がついた信頼は、緑色の結界を春樹と未來に張り、矢を防いだ。


(ナルホド。アノヤリニハソンナコウカガ。ナラバ)


蝶を思わせる黒き羽、複眼と触覚、阿修羅(あしゅら)を思わせる6本の腕を巧みに使い、弓に矢を装填する。


今度は漆黒の闇で矢を包み込み、狙いを春樹に定め、射ち放とうとする。


「そこかぁ!」


だが春樹に矢の放たれた方向から位置を把握されてしまい、信頼を逆手に持ち変え、投げ放たれる。


まるでミサイルが如く飛んで来る信頼。

信頼を躱すため、急落下を行い、ギリギリのところで避ける。


地面に着地し、鱗粉をばら撒きながら、獲物である春樹を睨み付ける。


手元に飛んで戻って来た信頼を春樹は慣れない手つきで掴み取る。


「お前、ブラックか!」


弓を構え、矢と共に弦を引きしぼる。


「ワタシノナマエハクロアゲハ。アナタタチヲシマツスルタメニキマシタ」


丁寧さと殺意に溢れたクロアゲハの低い声が、春樹を苛立たせる。


「また派生型かよ、俺達の邪魔をしてなにが楽しい!」


「ナニヲイッテルンデスカ? モトハトイエバアナタタチガワルインデスカラネ」


「なんだとー!」


怒りを露わにする春樹に、クロアゲハは闇に包み込まれた矢を放つ。

そのスピードは春樹の肉眼では到底捉えきれない速度。

このままでは心臓を撃ち抜かれ、春樹は死亡する。


そう思い未來は春樹の死に様を見たくないと目を瞑る。


金属音と共に駆け出す足音。

思い切って目を開けると、そこには………


「ナニ!?」


「串刺しにしてやるー!」


春樹がクロアゲハに突進する姿だった。



一方その頃、地中に引きずり込まれ、右足を持ってかれた優はあまりの激痛に泡を吹き、気絶していた。


「フフ、コノママイノチ、イタダク」


少女の声が地中にコダマする。

その声の主はおそらくブラックだろう。


暗闇の状況でしかも優が気絶した状態。

絶望と幸福にとって最悪な状況だ。


「おいおい、幸福、主人の足を再生しろ」


「無茶言わないでください。再生には時間がかかりますし、何より敵が迫って来ているんですよ」


「ブキドウシデサクセンカイギ? ムダナコトシテナイデ、シュジンノシヲミトドケナサイ」


ゆっくりと迫って来るブラック。

まるで暗闇が見えているかの様に。


「主人に死んでもらっては困ります。あれを使いましょう」


「あれって、まだ融合係数が低い主人が使ったらどうなるか分かってて言ってるんだろうなぁ!」


「時間がないんです、やりますよ」


話の決着がつき、2振りは優の体に吸収………いや融合していく。


「………?」


ブラックはその光景を不思議に思いながら、その隙を見逃さず、攻撃を仕掛ける。


だが………


突然、優の体が刃によって侵食され、怪物と化す。


「コイツハ!?」


優の姿に動揺し、ブラックは怯えたようにして声を震わせる。


「主人、目覚めてください。敵がそこまで迫っています」


脳に電気でも流されたかの様な痛みが優を覚醒させる。


「アァー………」


息を漏らしながら、立ち上がる優の姿に、ブラックは恐怖のあまり後ずさりする。


「マサカオマエガ、カンジョウノユウシャ!?」


「感情の勇者?」


「主人は今、俺達と融合し、感情の勇者になった。これで主人は後戻りできないぞ」


「後戻り、できない?」


「とりあえず地上に戻りましょう。敵が開けた穴から抜け出せるはずです」


説明は後でしてくれると信じ、暗闇から抜け出すため、優は地中を駆ける。


「クルナ………クルナーー!」


ブラックはその場から逃げ出すため、新たに出口の穴を掘った。


「待てー!」


穴を駆け登り、優は地中を脱出する。


「クロアゲハ! カンジョウノユウシャガ!」


ようやく見えたブラックの姿。

フードの様な皮の装甲、緑色の長い髪、中学生ほどの少女の表情は黒く、左腕は筋肉が発達し、左手の代わりであるワニガメの顔には血が染み付いている。

右手はワニガメの甲羅の盾になっており、足は亀を感じさせる重々しい物となっている。


「ワニガメ、アナタハナニヲイッテルンデスカ?カンジョウノユウシャナド………」


春樹との戦闘中、優の姿を見るが否や、恐怖で言葉を失い、クロアゲハは羽を()ばたかせ、上空に退避する。


その姿はまるで西洋と和を合わせた騎士とも武者とも言えない黒銀(こくぎん)の姿、頭には刀の刃を思わせる6本角、左側の3本は黒い刃、右側の3本は白い刃になっている。

ポツポツと穴が空いているように見える黒銀(こくぎん)の複眼、両手には短刀の刃の様な、合計10本の爪が伸び、刃の鱗が全身に覆われている。


「お前もブラックか!」


春樹の叫びに、優は「違う違う!」と言いながら両手を横に振る。


「優だよ優!」


「そんな姿で説得力ないぞ!」


春樹は信頼の槍先を優に向けたその時。


「待って、あれは正真正銘、優よ」


未來が春樹の前に立ち、静止させる。


「未來、なんでそんなことが分かるんだよ」


突然の事に動揺する春樹に、未來は目を細め、ため息を吐く。


「あの姿は感情の勇者と言われている。黒い奴らにとって絶望の象徴なの」


「そう、主人は感情の勇者その者になった。俺達を取り込むことによってなぁ」


「取り込む? どう言うことだよ」


「主人は私達によって怪物にさせられたと言えばいいでしょうか」


自分の姿を確認すると確かに怪物、ブラックとも言えるその姿に、優自体の心が壊れかける。


「安心してください。元の姿にも今の姿にもすぐに変化できます。ただし身体能力に関しては人間に戻っても上がったままですが」


幸福のトドメの言葉に優は怒りと悲しみで叫びを上げる。


(俺は怪物のまま、『一生』生きていかなきゃいけない。そんなの、そんなのただの生き地獄だ………)


その光景を見ていたブラックのワニガメは穴を掘り、クロアゲハは空高く飛び上がり、その場を逃走しようとする。


「「逃すかよー!」」


春樹は信頼を再びクロアゲハの方へ投げ放ち、優は一気に加速し、爪による斬殺をするため、ワニガメに襲いかかる。


しかしクロアゲハは信頼をギリギリで急上昇、回避する。


さらに攻撃させることが分かっていたかの様に、ワニガメは後ろを振り返り、盾で優を弾き飛ばした。


地面に転がる優、戻ってきた信頼を掴み取る春樹。

その間に2体には逃げられ、優は地面を右手で叩く。

だが未來はホッとした様に胸を撫で下ろした。


「なに悔しがってるのよ。これで門を安心して壊せるじゃない」


未來のごもっともな言葉に思わず「「あっ」」と2人は口を揃えて声を漏らした。


確かに目的はブラックの絶滅ではなく佳子を救うこと。

なんか恥ずかしくなり、顔を真っ赤にする2人。


ため息を吐きながら、優はその鋭い爪で木の門を切り裂くのだった。



一方その頃、佳子と灰鬼だったブラックは、この歪んだ空気が流れる場所から脱出するため、羽を()ばたかせ、空を飛んでいた。


「ねぇ」


「ナンダ、カコ」


「あなたに名前つけてあげる。なんかあなたじゃ呼びにくいし」


「オー、ウレシイ」


「じゃーあ、灰鬼先生の鬼から取ってキッちゃん。どうかな?」


「キッチャン、イイナマエダ。アリガトウ」


キッちゃんと言われたブラックは嬉しそうに右手を拳にし、先を急ぐのだった。

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