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パンダ桜の木の下で  作者: 稗田阿瑠(先攻)、ガトリングレックス(後攻)
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第四話 妖刀の呪い

作:ガトリングレックス(後攻)

優と春樹が目を覚ますと、前週に来た神社の本堂の内部だった。


「おう、主人よ。また会えて嬉しいぜ」


「突然消えて心配しましたよ」


あいさつをしてくる刀の絶望に、心配をしてくる幸福。

それに対し、優は笑みを浮かべ、2振りを持つ。


「絶望、幸福、今回もよろしくな」


「おうよ!」


「分かっております」


そして槍である信頼を携えた春樹は佳子を取り戻すと言う執念を燃やしていた。


「よし、絶対に佳子を取り戻す!」


「主人、質問なのですが。当てはあるのでしょうか?」


「そんな物はない!」


元気よく信頼を掲げ、クルクルと回す。


「はっきり言いますねぇ」


信頼は春樹の言動に不安になりながら、苦笑する。


「とりあえずこの山を降りて、集落がないか調べてみよう」


「分かった。待ってろよ佳子、絶対に助けてやるからな」


2人は本堂を出ると、未來が後ろを振り返り、迷惑そうに手を腰に当てている。


「あなた達、また来たのね」


「未來だっけ、俺はこの山を降りたいんだ。近くに集落がないか知らないか?」


呆れたように未來はため息を吐くと、優に近づいて行く。


「あのねぇ、前も言ったけどここは危ない場所なの」


「主人達はそれを覚悟で来たと思うが」


「絶望の言う通り。主人達が生半可な覚悟でこの場所にいるわけではないと思います」


(武器の分際で)そう思い、目を細めながら後ろを振り返る。


「分かった。そこまで言うなら道案内してあげる。死んでも知らないけど」


その一言に春樹は決意を固め、拳を強く握った。



ここに来てから長い時間が経つ。

牢屋に入れられ、拘束具で固定され、もう嫌だ。


「時字さん…………時字さん…………」


この声、なにやら聞き慣れた感じがする。


「今出してやるからな…………」


牢屋が壊れて行く音に驚きながら、私は救世主の姿を見て驚く。


灰鬼(はいき)………先生?」


「そう言ってくれると言うことは…………俺はまだ…………姿を保てているみたいだな…………」


拘束具を破壊してもらい、灰鬼先生にお礼のお辞儀をする。


灰鬼先生は私が通っている学校の体育の教師である。

体罰をしたことがあると友達から聞いたことがあり、良い印象を持っていない。


「灰鬼先生、その姿………」


灰鬼先生の体が闇に侵食されている。

右半身がカブトムシの成虫を思わせる漆黒の姿をしていた。


「俺が『怪物』になるのも…………そう近くない…………」


「怪物って、一体なんの事ですか!?」


「とにかく…………ここを出るぞ…………」


苦しそうに言う灰鬼先生に着いて行くと、その黒の怪物が通り過ぎる。


「あれが、怪物」


「そうだ…………いずれ俺も形は違えどそうなる…………君もな…………」


「えっ?」


自分も、あれになる? そんな恐怖が私を襲う。


手を見てみると肌が白くなっている。

まるで昔撮られた白黒写真の様だ。


それを察した灰鬼先生が動揺している私を見て微笑んでくる。


「その現象…………この世界では当たり前の…………こと…………だ…………気にする必要…………ない…………」


段々と片言になり、灰鬼先生が壊れて行く、そんな気がする。


施設を出ると、そこは草原だった。


「灰鬼先生、外に出していただきありが……………」


その続きを言おうとした時、すでに灰鬼先生は。

灰鬼先生は、黒きオーラを纏った怪物と化していた。


その姿はまるでカブトムシとクワガタ、鎧武者を混ぜた様な妖怪を思わせ、実に禍々しい。


「カコ、カコ、カコ」


私の名前を呼び続ける灰鬼先生だった怪物が、ゆっくりと近づいて来る。


「いやー!?」


私は叫んで逃げると、怪物は羽、ではなく黒きオーラを放出し、着いて来る。


「オレ、カコノ、ミカタ。キズツケルコト、シナイ」


「そんなこと、信じられない!」


怪物を確認しながら走る。


「アグッ!?」


すると石につまづき、転びかける。


その時、怪物は地面に降り立ち、私を抱き寄せた。


「ダイ、ジョウ、ブ、カ?」


「あっ、ありがとう」


抱き付く手を離し、なにやらノートの様な物を取り出してくる。


「コレ、ワスレモノ」


怪物が渡してきたのは白い日記帳だった。


「うん? これ私の日記帳だ。ごめんね、2回もお世話になっちゃった」


「ベツニ、キニ、スルナ。コレガ、ハイキノ、ノゾミ」


「灰鬼先生が?」


そもそもこの怪物は灰鬼先生だった。

もしかしたら、もうすでに灰鬼先生の人格は怪物の人格に喰い潰された?

だとすると私もいずれこうなったら人格を失うの?

そんな恐怖が体に気怠さ感じさせ、私は頭を抱える。


「アンシン、シロ。ハイキガ、イッテタ。カナラズ、セイトヲ、マモレッテ」


怪物は私の頭を優しく撫でてくる。


「ソシテ、コノセカイカラ、カコヲ、モトノ、セカイニ、カエセ、トモ、イワレタ」


あの厳しい先生がそんなことを言うなんて、私達生徒は勘違いしていた。

体育ではあんなにも怖かった灰鬼先生。

だけど、私を助けるために、自分の身を犠牲にしてくれた。


「私、灰鬼先生を悪い人だって思ってた。でも分かったよ」


「ウン?」


首をかしげる怪物に、私は笑みをこぼす。


「あなたみたいに優しい心を持った、素晴らしい先生だってことが」


「オレハ、ハイキカラ、ウマレタ。ダカラ、カコノ、コトバ、トテモ、ウレシイ」


そう言えば今は何日なんだろう?


「そうだ。今何日なんだっけ?」


その回答に怪物は即答した。


「モウ、イチネン、タッテル。イマハ4ガツ26ニチダ」


その言葉で、私は時の流れを感じ、驚きで「えー!?」と叫んだ。



一方その頃、優と春樹、未來は集落に到着していた。


「ここが山から1番近い集落、まああいつらに襲われることは確実でしょうね」


「それを分かっててここに来たんだ。そうだろ、春樹」


「おう! まずは情報を集めないとな」


優達の発言がとても理解できない未來は身震いをし、無謀なことをしていると感じる。


「あなた達はここをなんだと思ってるのぉ、この世界では色を持つ者はみんな敵として見なされる。つまり口を聞いてくれる奴は私ぐらいしかいない」


「それがどうした。もしかしたら痕跡があるかもしれない」


優が集落を回っていると、風を切る音がした。

しかも2体。


「主人、後ろから敵が」


「えっ」


絶望の忠告も、優は二振りを奪われてしまう。


左の絶望を奪ったカラスを思わせる黒き怪物と、右の幸福を奪ったブラックスワンを思わせる黒き怪物。


「ブラック! 絶望と幸福を返せ!」


「オレタチニハチャントナマエガアル」


「ワタシハコクチョウ」


「オレハヤタガラス」


「アナタヲコロス」


「コノカタナデナァ」


ヤタガラスは絶望を、コクチョウは幸福を鞘から引き抜き、構える。

すると、ヤタガラスの中で絶望感が、コクチョウの中で幸福感が一気に押し寄せてきた。


「グッ、グワァー!!」


ヤタガラスは絶望を持ったまま頭を抱える。


「ナンデショウ、コンナキモチハハジメテデス」


コクチョウはあまりの幸せな感覚に魅了され、涙を流す。


「シッ、シナセテクレー!」


そう叫び上げると、絶望を見て、逆手に持つ。


そしてなんと自分自身の心臓部に突き刺した。

それを見たコクチョウは笑いながら、自分の首を切り落とした。

その光景は敵とはいえあまりにも残酷で、悲惨な物だった。


「主人、分かったろ。これが二振りで一振りの理由だ」


「私達には呪いがある。自殺願望を芽生えさせ、死に追いやると言うね」


「抑制しあっているんだよ、俺達妖刀は」


二本の妖刀を優は目を恐怖で泳がせつつ、素早く掴み取り、鞘に納める。


息を荒げている優の姿と惨状を見て、情報を集めていた春樹と呆れた様子の未來は絶句した。


「ブラックが、出たんだな」


「あぁ、しかも喋れて、感情があった。春樹、俺怖いよ。前週の奴らには本能しかなかった。でも今回の奴らは格が違う」


「いずれ進んで行けば派生型ぐらい出るでしょう」


未來の冷たい言動と共に、優と春樹の体が消えていく。


「もう2度と来ないことをオススメする。死にたくないならね」


「俺達は諦めないぞ! なっ、優!」


「……………」


「優?」


「あー分かってる。幼馴染の佳子を必ず取り戻してやる。絶対になぁ」


2人はそう言い残し、元の世界へ戻って行った。



目を覚ますと、夕暮れに照らされているパンダ桜の下で優と春樹は横になっていた。


ゆっくりと立ち上がり、春樹は提案を持ちかける。


「なぁ優、5月に5連休があるだろう」


「そうなのか?」


「うん。その5連休の間に佳子取り戻さないか?」


「なんでそうなるんだよ」


「俺の経験上、あの世界にはゲームみたいな中間地点がある。つまり連続であの世界に行けば」


「佳子により早く近づける」


「そう言うことだ」


春樹はさらに日記帳を開くと、タイムリミットがあることが書かれている。


「この5連休で佳子を救う」


「分かった。それで佳子と帰ってこれたらパーティーでもひらくか?」


「おっ、ナイスアイディアだな」


2人は話し合いを続けながら、家に向かって歩いて行くのだった。

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