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パンダ桜の木の下で  作者: 稗田阿瑠(先攻)、ガトリングレックス(後攻)
2/10

第二話 色のない世界

作:ガトリングレックス(後攻)

優が目を覚ますと、そこはまるで白黒テレビに映った映像。


空も、草木も、川も、すべてが白黒。


どうやら山に迷い込んだ様だ。


左側には春樹がぐっすり寝ている。


「おい、おい起きろ」


体を揺すり、幼馴染を起こそうとする。


「うーん、どうした優? えっ!? ここどこだよ!?」


「どうやら俺達は異世界転移したみたいだ」


「そんなラノベみたいなことが起きてたまるかよ」


「よく考えてみろ。パンダ桜の手形に手をはめたら、砂埃に飲み込まれて、今ここにいる。つまりあの手形は転移用の装置だったわけだ」


優のくだらない話を聞いて、春樹は激怒する。


「俺はただ佳子に会いたいだけだ! 異世界転移なんて興味ないんだよ!」


「まあまあ落ち着け。もしかしたらここから脱出する手立てがあるかもしれない。入り口があるんだから出口もあるはずだろ」


「そっ、そうだよな。ハハ。よし、そうと分かれば、やってやるか」


そう言って、春樹は調子を取り戻し、優は胸を撫で下ろす。


川を伝って山を降りて行く。


すると黒いオーラに包まれた謎の生物が川の水を飲んでいた。


「なんだよ、あれ?」


「とりあえず、話せる相手じゃないのは分かる。早く逃げるぞ優」


2人は急いで回り道をしようとすると。


「ウッ、ウグ、ウグワー!」


いきなり謎の生物が叫びを上げ、爪を立て、全速力で襲って来た。


「おいおいマジかよ!?」


2人が全力で逃げる姿に再び叫びを上げる。


まるで仲間を呼ぶ様に………。


「こいつ、俺達を食べる気か!?」


「あぁそうだろうよ!?」


山を急いで降りて行くと、石で出来た階段を見つける。


足のバネを限界まで使い、階段を上って行く。


群れで追いかけて来る黒い者達。


「急げ!」


「分かってるよ!」


階段を上り、辿り着いた先は…………。


なんと古びた神社だった。


「あの本堂に隠れよう」


優の指示に従い、本堂に入ると、そこには狐の像が飾ってあった。


よく見ると2本の刀と白き槍を背中に背負っている。


春樹は狐の背負っている白き槍に手を伸ばす。


「なにやってるんだよ、早く隠れろ」


優は春樹の手を引っ張り、狐の像の裏に隠れようとする。


その時だった。


突然2人と同じぐらいの歳の髪の長い少女が襖を開けて来たのだ。


白いワンピースを着用し、麦わら帽子を被っている。


「あなた達、早く帰りなさい! ここはあなた達が居てはいけないところなのよ!」


その姿、その声、佳子そのものだ。


「佳子、佳子なのか?」


「私、誰かと勘違いされてる? 私には未來(みらい)って言う名前があるんだから」


ムッとした表情がまさしく佳子にしか見えない。


「とにかく、ここ危険なの。早く帰って」


「その帰り方が分からないんだよ」


口論をしている間に、叫び声を上げ、本堂に黒い者達が入って来た。


「もうやるしかない!」


春樹は白き槍を狐の像から取り外すと、なにやら声が聞こえてくる。


「よくぞ私の封印を解いてくれました。私は信頼。あなたの敵を穿つ者です」


「やっ、槍が喋った!?」


「さあ、共に敵を始末しましょう。安心してください。敵を倒したい、その気持ちだけで戦えますから」


敵は待ってはくれず、爪が春樹を捉らえる。


「ウッ、ウオー!」


無我夢中で春樹は信頼で黒の者を貫く。


「アァーーーー!?」


悲鳴に近いその雑音が、本堂に響いた。


それでも黒の者達の攻撃は終わらない。


「おい! 優もその刀を取って戦ってくれよ!」


信頼を引き抜くと、黒の者は唸りながら崩れ落ちた。


「なに言ってるんだよこの罰当たりが。勝手に神社の物を使うなんて」


「これは緊急事態なんだ! お願いだから、頼む」


優は唾を飲むと、狐の像の2本の刀を鞘ごと取り外す。


「封印を解いてくれてありがとよ。俺は絶望」


「私は幸福。私達はニ振りで一振りです。決して私達を離ればなれにしないでくださいね」


「お前達も喋るのか。まあいいや。行くぞ絶望、幸福」


鞘から絶望と幸福を引き抜き、敵に向かって行く。


左手に持った絶望を右斜めに振るうと、敵の体が両断され、右手に持った幸福で次の敵も両断して行く。


(この刀、すごく軽い)


まるで綿の様に軽く、その斬れ味は一級品だ。


「残り3体。やってやろうぜ優!」


「よし、行くぞ春樹」


叫びを上げ、2体の黒の者が姿勢を低くし、加速して行く。


もう1体は高く飛び上がり、春樹に向かって牙をチラつかせる。


「オリャー!」


優の渾身の2連撃が、敵の体を分断し、吹っ飛び、ズシャーと廊下に上半身が滑って行き、崩れ落ちる下半身。


「ウァー!」


「この野郎ー!」


春樹の突きが、黒の者の脳天を貫き、ようやく動きが止まった。


「やっ、やった」


安堵の声を上げる春樹に、優は自分達が起こした惨状を見て、自分自身がとんでもない武器を手に入れたことを自覚する。


「分かったでしょ。ここは危険な奴らがウヨウヨいる。部外者が居ていいところじゃないの」


「だから帰る方法を教えてくれよ。じゃないと帰るにも帰れねぇ」


「そうだ。佳子、知ってるなら一緒に帰ろ、なっ」


「だから私は佳子じゃなくて未來だってば」


未來と言い張る少女の言動に困惑する。


「おい、体が消えていってるぞ!」


「春樹こそ! どうなってるんだ!」


2人が動揺していると、下から段々と消えて行く。


完全に消滅する前に、春樹は未來と名乗る佳子に手を伸ばす。


だが…………


意識を取り戻し、立ち上がると、パンダ桜の下にいた。


「戻って来たのか? そもそもあれは現実だったのか?」


「俺は現実だと思う。現に佳子がいたんだからな」


瞳をキラキラさせる春樹を見て、優は呆れてため息を吐く。


「なぁ、今日はこのへんにしておこうぜ」


「なんでだよ! もう一度あの世界に行こうぜ!」


「今日はって言ってるだろ。明日平日なんだから高校行かなきゃダメだろうが。行くんだったら毎週日曜日にしろ、そうじゃなきゃ俺、行かないから」


ふてくされる春樹だったが、納得しなければいけないと感じ、笑みを浮かべ、首を縦に振る。


「分かったよ。じゃあまた来週な」


そう言って2人は徒歩で帰宅するのだった。

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