三話目
村に戻ると、依頼斡旋所へ報酬を受け取りに向かった。ポークカレーが言いにくそうに、分配はどうするか尋ねてきた。二人半々でいいと言うと、驚いたような顔で、それは悪いよ、と言ってきたので、基本二人の時は折半でいいからボレロの方針に従うよう約束させた。
ポークカレーの家で泊まることにして、とりあえず二人で食事をとることにした。ポークカレーは食事もそこそこに、カードを見つめ、どのステータスへポイントを入れるべきか、訊いてきた。ボレロはちょっと待って、と言って、追加で作成したカードのうち一枚を取り出し、ポークカレーに見るよう促した。
「この“タナカ”っていう垢に入った全ポイントを、各ステへ均等に割り当てた。だが、見て分かる通り、均等な筈が実際の強化値はバラついてるだろ。多分他のステに影響与えてるのがある。・・・例えば、速さに入れると回避命中がちょっと上がってる、とかな。」
その辺も考慮して割り当てるんだよ、と言うと、へえ、と相槌とも感心ともとれるような声を出し、食い入るようにそのカードを確認していた。
ボレロはポークカレーのステータスを参照し、
「お前は体力と筋力があるし、特にこだわりが無いなら物理アタッカー目指すのがいいと思うぞ。魔力・MPは殆ど無いけど、SP?を消費して発動するスキルなら問題はなさそうだな。お前のスキルは何消費するんだ?俺のは大体SP消費してるっぽいけど。」
ええと、と言ってポークカレーは自身のスキルを確認し、ああスキルポイント使うのが多いかな、と答えた。それを聞いて、ボレロはSPが何の略語かを知った。
次に、もう一つのカードを取り出し、これは二点全振りしてみる、と言って攻撃と命中にだけポイントを割り当てると、クリティカル率とクリティカルダメージ、筋力も少し上昇し、防御は上昇はしないものの、強化ポイントが少し割り当てられた状態になった。
分かったか、と聞くとポークカレーは元気よく相槌を打った。
「つまり、どこにポイントを割り当てるかが大事っていうことですよね」
と言い、自分のブックとカードのステータスと睨めっこし始めた。ボレロは、タナカのカードを見て、割り当てたポイント分しか上がっていないステータスを確認していた。そして、まだ一ポイントも割り当てていない自身のカードを見て、どうしようかと考えていた。すると、あのう・・・とポークカレーが声を掛けてきて
「物理アタッカーって、どのステータスにポイントを割り当てるといいのかなあ・・・なんて。あと、今回入ったポイントは全部ステータス強化に割り当てた方がいいのかな?スキル習得とか、敢えての換金とか・・・」
そう言いだしたので、
「先ずは、まともに敵と戦える状態になるのが先決じゃあないのか。スキルとか期間限定モノがあるわけでもないんだよな。換金に関してはまあ、お前の経済状況によるけど・・・」
と言うと、そうだけど、と未練がましそうにスキルの項目を見つめている。
ボレロは、ため息をつきつつポークカレーが気にしているスキルを見てみる。広範囲攻撃をするスキルで、SPの消費が大きい。今収得すべきだとは思えず、更に言うともっと低コストでポークカレーにとっても役に立ちそうなスキルは他にいろいろある。ただ、理解させないまま否定するのはな、と思った。彼は昔親から何かを頭ごなしに否定され、怒りに任せて家の壁に穴を開けたことがある。ポークカレーの顔を見ていたら、ふとそんなことを思い出した。
「お前はさっきも言ったように、素で高いのは筋力と体力だから、まあ、攻撃には入れたい。体力は入れてもいいけど、俺と同行するなら素のままでもいい気がする。あとここの制度だと、重い装備付けた時に早さが落ちるっぽいが、筋力があるとそれが軽減するからそこは必要に応じて入れるのは考えてもいいかな。後は、さっきの垢みたいに命中に入れるとか、あと速さを上げるのもアリか。 ・・・とまあ、そんな感じで先にステ上げて、少し余裕ができてきたらスキル取るのがいいぞ。俺が補助するんだから、すぐだし。それにまだ欲しいスキルと必要なスキルがイコールなのか分からないだろ」
と言うと、まだ未練はありそうだったが、そうだね、と承諾してくれた。あ、と思い出してボレロは自身のブックを開いて、そちらのスキルを入れ替えた。自身を守るような構成だったが、ポークカレーにもバフを掛けられるスキルを入れるようにした。
さて、と言って食器を片付け、そういえばお前は家持ちか、と聞くと、暫くは住めるけど、次の納税の際に、一定額支払わないと住めなくなる、と言った。ボレロは少し考え、次の納税までに村を出て問題ない状態になるということを目標にしよう、と持ち掛けると、元よりそのつもりだと、意気込んで答えた。
あと、もっとまともな装備買えるようになってくれ、と一言付け足しておいた。
翌朝、斡旋所へ行き、昨日と同じくらいの依頼を受けた。移動中、ちょっと気になったため、ポイントやステに上限があるか、とポークカレーに尋ねたところ、未使用ポイントの所持上限があるらしく、また強化ポイントはステータス全体の三割が上限であると答えた。
「つまり、カンストできる強化ステの数は限られてるってことか・・・危なっ。全ステカンストできるかと思ってたわ・・・。」
と言うと、ブック側の基本ステータスはレベルに応じて上がっていくので、もしかすると最大まで行けるかも、と言われた。冒険者の強化ステータスは、国の兵隊連中とあまり差が出ないように設定されているらしい。国としては国外の冒険者が自国に定住し、能力のある者が兵士になってくれることを期待しているようだ。
現地に到着すると、ボレロはポークカレーに、お前今回敵に一発当てるの目標な、と言った。えっ、と驚くポークカレーを無視して武器を構えた。
ボレロはPT全体に付与できる物防バフを掛け、自身のヘイトを上げた。更にリフレクションで魔法反射を自身に付与した。スキルは心の中でイメージするだけでいいのか、と改めて羞恥心がぶり返してきた。それをかき消すように、
「いいか、今から敵倒して入るポイントは攻撃に全振りしろ。あとお前が攻撃しても俺がヘイト集めてるから殆どそっちに敵は攻撃してこない。普通に考えたら一発なんて簡単な話だ。でも最後の一匹までお前が全くノルマこなさなかった場合には、五歳児でもできるくらいの補助してやるよ。」
五歳児扱いされたくなければ自力で叩けよ、と言うと、ポークカレーは引き攣った顔で刀身をブルブル震わせながら敵を見定めようとしている。先ずは攻撃に入れろよ・・・と少し苛立ちながら言うと、焦ったようにカードを弄り始めた。「あっでもなんで攻撃・・・」と言ってきたので、お前の攻撃は強化ポイントMAXまで入れるから、せめて火力だけでもないともっと実入りの良い依頼受けられないから、さっさと戦力になれ、と羅列するように答えた。
暫く戦い敵が半分くらいに減った頃、それまでカードと脅えた様に敵を見回すのを繰り返していたポークカレーが、突然叫びながら敵を叩こうとした。だが敵のスピードに付いていけておらず、あっさりと攻撃をよけた敵はポークカレーには目もくれず、まっすぐボレロの方に向かってきた。その様を見て、スカかよ、と思いつつ、惜しかったな、パターンを読めれば当たったんじゃないか、と空々しい言葉を吐きながら敵を斬り捨てた。
よし、と言ってポークカレーは武器を構え直し、また敵を見定めるように視線を右往左往している。よく見ると少し震えは収まった様だった。
攻撃しては避けられるのを何度も繰り返し、ボレロが大分敵が少なくなってきたなと思うくらいの頃にようやく一発当てた。敵にどの程度ダメージが入ったかを確認し、片手間にポークカレーのステータスを軽く確認した。一度当てた後は、徐々に攻撃を外さなくなってきた。
一通り討伐し終えると、ポークカレーは敵を一体倒せたとわざわざ報告してきて、飛び上がるほど喜んでいた。
「・・・これからの戦い方だが、しばらくは俺がバフとヘイトアップで敵からの攻撃に対応するから、お前はあまり離れすぎずに、倒せる奴を始末してってくれ。倒せなくてもいいけど。あと離れすぎるとお前にバフ効かなくなるからな。それに、絶対にお前に攻撃が行かないなんてことは無いから、いざって時に助けられない位置には行くなよ。」
と、方針に関して指示をした。ポークカレーは強く頷いて理解を示してきた。
こいつがそこそこ役立つようになったら全体バフから自分だけのに戻してもっと堅くしたかったけど、と考え、そんな日はいつ来るのかとちょっと空を仰いだ。それにボレロもポークカレーも物理系は対応できそうだが、先々魔法系の対応策も考えないとなあと、前途多難な先行きにため息が出た。
村に戻った際に、報酬受け取りをポークカレーに任せ、道具屋で回復アイテムの補充と併せて魔法抵抗のアイテムを少し購入しておいた。
何度か依頼をこなしているうちに、お互いにどう動くかのフローが大体決まり、報酬の高い依頼も受けるようになっていた。またポークカレーの家の納税時期が近付いてきて、最後の依頼の報酬受け取りに行く道すがら、この依頼の報酬受け取りしたら旅支度しよう、と伝えた。ポークカレーは感慨深げに、もうそんな時期なのだなあ、と呟いていた。
お世話になった人たちへ挨拶する時間はあるかと聞かれたため、何十日もかからなければ、と答えた。そして答えた後に、何故そうしたくなったのか、彼自身でも分からなかったが、ボレロはテスト用に作成した“タナカ”のカードをポークカレーに渡し、
「テスト用だったからステのポイント配分中途半端で、俺はいらないから適当な奴に渡していいぞ。一応途中からはお前と同じ物理アタッカーとして強化P入れてある。強化上限の半分くらいは入れてあるから。」
挨拶して回って来いよ、とだけ言い残して一人で斡旋所へ向かった。
報酬を受け取り、半々で配分した後、案内係に物を売る方法を尋ねた。この村から近くて新参でも商いのし易い町の位置と、カードに付属しているチャット機能に関して教わり、チャットには個人間・パーティ・地域内・国内全域の四チャネルあることが分かった。ボレロは先に家へ戻って残ったカードと、その後追加で作成していたカード二枚をそれぞれ確認した。
先に作った攻撃命中全振りの垢はせめてその二つだけはカンストしてからか、と考えた。追加作成した二枚はまだステータスにポイントを入れていなかったので、片方は物理系の壁職として、またもう片方はポイントの割り当て方を変えつつも近接職として、いくつかそれ用のスキルも取っておいた。
今後の方向性は大まかに固まったなと考え、ふと時計を見ると、既に日付が変わっていた。
翌朝起きて、食事を済ませた頃にポークカレーが戻って来たため、村を出た後の行き先について、斡旋所で聞いた町へ向かうことを伝えた。カードでマップを開き、その町までの道順と立ち寄る町村を決めた。
「できればなんだが、この町に着くまでにこのカードの攻撃と命中をカンストさせたい。だから魔物と遭遇しやすいルート取るからな。お前もその分レベル上がるし。」
と伝えた。
何だか抗議の声を上げていたが、ボレロはそれを無視して魔物の分布が表示できるか確認していた。一応はそれらしい表示ができるらしいが、経験値や個体数などの情報は無かったため、もう一度斡旋所か村の人間から情報収集することになった。