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一話目

麗らかな陽気の中、男は夢現の狭間でウトウトと微睡んでいたが、ふとそれ自体に違和感を抱き、目を覚ました。


見るとそこは森の中で、眼前にある自身の両の手は、人間のそれとは違う形をしていた。

彼は驚き、自身の体をよく見ると、甲冑のようなものを身に付けている。状況がよく呑み込めず、せめて何か全身を映せるものは無いかと辺りを見回しながら歩き出した。

しばらく進むと、せせらぎのような音が聞こえてきた。匂いもどことなく水場を連想させるような感じがして、その方向へと向かっていくと、川が流れていた。その水面を覗き込むと、歪んではいるものの人ではない生き物の顔をしていることが分かった。

はじめはショックを受けていたが、どことなく見覚えのあるような気がする。上流の方へ歩いていくと、滝壺があり、先ほどよりはっきりと自分の姿を確認することができた。

そしてそれが、自分が眠る前に唯一確認できなかったアカウントのキャラクターの一つ、オークの「ボレロ」であることに気が付いた。


男は自身の状況を分かっている範囲で整理しようと、

「俺はまず、寝る前は家にいて、起きたら森で、ゲームキャラの姿をしている・・・。待て待て、そしてなぜオークなんだ?この垢は他にもエルフとか使ってたのに、メインで使ってたからか?でもアバター装備はそのままっぽいな。」

など繰り返し呟きながら、とにかくまずは森を出てみないと、とまた歩き出した。そして、何か自身のステータスが分からないかと思いつく限りの言葉を叫ぶが何の反応も表示もなく、なんとなく恥ずかしい気持ちになり断念した。

しばらく進むと壁が見え、近くまで行くとかなりの高さがある。少し考えていたが、迷路には左手法なんてものがあったな、と右に向かって歩き出した。

そして、やがて門のようなものが見えてきた。


門は開いていたため、そのままそこを通ろうとすると突然全身に、雷に打たれたような痺れが走った。後退り蹲って呻いていると、門番らしき男達が現れ、何やってるんだ、ここは国の関所だぞ、と言った。少し顔を上げて見てみると、認証エラーという文字と、シールドのようなものが目の前に展開されていた。

門番達は彼の姿を見ると「何だオークか」「オークはおつむがな…」と口々に嘲笑するような言葉をひそひそ語り合う。何故かとても恥ずかしい気持ちになり、体の痺れは大分治まっていたが、蹲ったまま体を動かすことができなかった。門番達は仕方なさそうに顔を見合わせ、その内の一人が、犯罪者もいるからな・・・ちょっと痺れが強いだろ、大丈夫か、と声を掛けてきた。男は少し沈黙していたが、大丈夫です、と言葉を返し、自身の状態を確かめるようにゆっくりと起き上がった。


声を掛けてきた門番は、ここを通ると国内なんだと言い、続けて入国するならと、アカウント登録手続きで規約への同意を意味することと、基本的な規則の説明をしてきた。

「まず、国外の者が入国するにはアカウント登録必須だ。今他の者が行っている。・・・名前は」

と尋ねられ、彼は“ボレロ”と答えた。門番は他の門番からカードを受け取り、

「ではボレロ、このカードを見るとアカウント情報が確認できる。つまりこのカードがアカウント保持者の証ということになり、国内の魔物や賊徒を討伐しに行くことができる。まあ、無いからできないという訳でも無いが。

それと、討伐するとポイントが付与される。そのポイントは獲得者の基本ステータス値に強化ポイントとして付与できる。一定量貯まるとステータスに強化値が入るということだ。また、ステータス強化以外にも使い道がある。スキルの習得や強化、ポイントを金銭に還元する等、詳細は自身で確かめてほしい。ちなみにこのポイントでの強化やその他の一部アイテムはこの国内でのみ有効だ。

・・・ああ、作った後に言うのもなんだが、一応ゲスト入国というのもある。ただしこれは日数やポイント仕様に制限がある上、再入国時にそれらは保持されていない。大まかな説明は以上だが、何か質問はあるか」

と言われる。恐る恐る、自分の基本ステータスの確認方法を聞くと、案の定、門番達は見下すような視線を送り、腰に下げてるブックを開けば確認できると思うが、と答える。戦闘を繰り返すとアカウントのポイント以外にも基本ステータスに経験値が入り、レベルが上がるはずだ、と説明された。


「次に金銭に関してだが、各町村に依頼斡旋所があるので、何所かで冒険者登録をすると、依頼の受注ができるようになる。住民や他の冒険者から直接依頼を受けることも可能だ。達成すると報酬でもらうことができる。また、討伐した魔物の残すアイテムを売却することもできる。」

この辺りが主な方法だな、と言われた。

とにかく早くその場を離れたかったので、礼もほとんど聞き取れないような声でもごもごとしゃべり、ボレロという名前で登録した男は門を通っていった。

門の中は森ではなく、荒野が広がっていた。

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