プロローグ
一人の青年が、部屋に入って来ました。部屋の外では、彼の母親と思しき女性の張り上げた声が、何かを彼に叫んでいます。
青年の部屋は冷房が効いていて、部屋の奥には一台のデスクトップパソコンと、二台のノートパソコンがありました。デスクトップパソコンは所謂ゲーミングパソコンで、ファンがごうごうと音を立てています。
彼は部屋に入って来るや否や、そのパソコンのスリープを解除し、ブラウザを立ち上げ、更にスマートフォンを二台、机上のホルダーに置き、それぞれアプリを起動しました。
そして、ノートパソコンも一台開きつつ、手早くデスクトップパソコンのブラウザのタブを複数開き、それぞれでブックマークからゲームのサイトを開いていきました。
ところが、その一つ目のタブの画面でログインしようとしたところ、規約に反したためアカウントが無効化されたという通知が表示されました。
青年は「とうとうダメになったかぁ…ということは」と言いながら、その画面で別のアカウント情報を二~三入力してみました。そして、危惧していた通りに、全て同様の通知が表示されてしまいます。
タブを閉じ、ノートパソコンの方でメモ帳に記載された文面をメールに貼り付け、少し修正しBCCに三つの宛先を指定して送信しました。
それとほぼ同時並行で、別のタブのゲームへのログインとスマートフォンのアプリへのログインを行おうとしました。ところが、それらも文面に違いはあれど、同じようにアカウントが無効化されておりました。
青年は驚きの声を漏らしつつ、残りのアプリやブラウザゲームを順に確認していきました。そしてそれらは悉くログインできなくなっていました。
「こんな事があるのか」と呟きながら最後まで確認しようとキーボードを操作していると、突然パソコンが固まり、ぶつりと音を立てて電源が落ちてしまいました。見るとエアコンも止まっています。仕方なさそうにスマートフォンを操作し、ノートパソコンをそちらのネットワークに繋いで確認しようとしましたが、読み込みが遅々として進まず、彼はノートパソコンを閉じました。
部屋の外ではまた女性の声が何かを叫んでいましたが、青年はそれを気にする様子もありません。
「ああ、今日は駄目だな。最後のは俺のだし、明日確認するか…」そう呟いてベッドに潜り込みました。
…そんな男の物語である。