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4-12

 手枷をつけられたタイガーパンチが現れた。

 よく見ると、足枷も付けられていた。悠然と歩いていたのではく、そう歩かざる得ない状況だったのだ。

 しかめた表情のままタイガーパンチが辺りを見渡した。

 そこには自分が子分として可愛がってきた少年たちの無惨な姿があった。

 一瞬、眼を大きくしたタイガーパンチが前にも増してさらに顔をしかめた。


「タイガーパンチ……!!」


 トニーが力無く呟いた。俺たちからすると、死んだかもしれないと思ったタイガーパンチが生きていたことを喜ぶことも与えられないまま、タイガーパンチが処刑される所を見なくてならなくなるのだ。


「ああ……!!」


 トニーが今度は声を上げた。トニーが見つめる先にいるタイガーパンチを見ると、しかめた顔のまま眼から涙が流れている。


 タイガーパンチ……。


「おやおや、お友達の亡骸を見て死ぬのが怖くなったのでちゅか?」


 役人がタイガーパンチを覗き込むように煽ってきた。

 タイガーパンチの涙が恐怖の涙ではないことはここにいる誰もが理解している。先に死んでいった仲間に対する謝罪と無念さが彼の頬を濡らすのだ。そう思えた。


「すまない……」


 か細く小さな声が聞こえてきた。その声はとてつもなく小さな呟き程度だったのに、はっきりと伝わってきた。


「すまない。みんな。痛かったろうなぁ。怖かっただろうなぁ。そして悔しかっただろうなぁ……」


 タイガーパンチが呟き続ける。

 

「大事な時に俺が一緒に居てやれなくてすまない」


 心に響いてくるような彼の呟きに民衆の一部が感化されたのか、鼻を啜るような音が聞こえてきた。

 タイガーパンチの偉大さを感じると同時に民衆の酷薄さに反吐が出そうになった。


「さっきからうるさい小僧だなぁ。すぐに殺されるんだから、最後ぐらい黙ってられないのか? ええ?!」


 ペッ!!


 また煽ってきた役人にタイガーパンチが唾を吐きかけた。

 その唾が頬についた役人が激昂する。鞭で何度も何度もタイガーパンチを引っ叩き始めた。

 2分程それは続き、次第に役人の鞭が止まり肩で息をし出した。タイガーパンチは顔を歪めることもなく、平然と立っているが、鞭でぶたれた背中や肩、顔に胸などには惨たらしい傷が無数にできていた。


「小僧、貴様の地獄はそう容易くないぞ……!!」


 役人が合図をすると死刑執行人がペンチを取り出し、タイガーパンチの爪を一つずつ潰し始めた。

 タイガーパンチは指を潰される度に押し殺した呻き声を上げた。


「頑張るではないか。しかしこれはどうかな?」


 また役人が合図を送る。死刑執行人は大きなノコギリを取り出し、片方ずつを2人で持ち、タイガーパンチのスネに当てて、ゆっくりとノコギリを引き出した。

 ノコギリが挽かれる度に血が吹き出し、タイガーパンチが悲痛の叫びを上げた。


「見ちゃいられない。ダイナスティ行こう!!」

「よし。トニー。両側から回り込むぞ」


 俺とトニーは二手に分かれて、両側から奇襲を掛けようと動いた。

 その間にもタイガーパンチには新たな拷問が準備され始めた。

 タイガーパンチを柱にくくりつけ、槍で腹部を少しだけ突く。一度の突きでは血が滲むぐらいのものだが、それを何度も何度も繰り返すのだ。


「殺してくれ……」


 タイガーパンチが訴える。それを聞いた役人が頷きそして微笑んだ。


 タイガーパンチがやばい!! 急ぎ救い出さなくては……!!

 

 トニーが石を投げ始めた。

 石の1つが役人に当たり、額から血が滲んだ。


「石を投げた者を探し出せ!!」


 役人が声を荒げ、処刑そっちのけで命令を出す。

 俺はその間にその辺に転がっていた剣を一振り掴み、猛然と役人に迫った。

 剣の柄を脇に挟み、一突きで殺してやろう。そう思い駆けた。


「うわああぁああぁっぁあああ!!!!!」


 自身を鼓舞する為にも叫んで走った。役人に手が届く程の所まで近付いたと思った瞬間、騎馬兵が回り込んできて持っていた槍で剣を跳ねあげた。

 剣が回転しながら空高く飛び、眺めている間も無く騎馬兵が槍で突いてきた。その突きを寸でのところで躱し、逆にその槍の柄を掴んだ。

 脇で挟むように抱え、槍を横に振ると騎馬兵がバランスを崩し落馬した。


 その時、トニーも同じように剣を持ち、民衆の中から飛び出してきた。


「タイガーパンチを殺させないぞ!!」


 トニーに対応した騎馬兵が剣を払い、槍で突いた。と思ったが、トニーが転がりながら避けた。

 さすがはトニーだ。そう思った瞬間、もう一度槍が突かれ、身体を起こしたトニーの胸部を貫いた。


「トニー!!!」


 俺は倒れた騎馬兵から槍を取り上げ、トニーの方へ走り始めた。

 しかし、途中で先程の馬上から落ちた兵が俺を後ろから抑えた。

 大人の力で抑えられ、身動きが取れなくなった。


「離せ! 離せっ!!」


 役人は安堵の表情を浮かべ、俺をタイガーパンチの横に連れてくるよう指示を出した。

 その時、役人に一人の兵士が駆け寄ってきて耳打ちをした。


「な、なにぃ!? それは本当か?!」

「民衆の間で広まっています。真偽の方はまだ確認中です」

「何を悠長なことを抜かしておる!! 仮にそれが真実だとしたらこの街にとっては一大事だぞ!! いつ敵は現れぬだ?!」

「それも詳しいことは分かっておりません。ですから、まずご判断を頂かないことには」

「ええい、小賢しい事ばかり言いおって!」


 役人が鞭を振った。連絡を伝えに来た伝令兵に鞭が当たったかと思った瞬間、兵士が横に避けていた。


「うぬぅぉぉおお!! なぜ避ける!!」

「今はそんな事より、迅速なご判断を!」


 鞭が当たらぬとあって、役人が鞭を両手で持ち、折れるかと思うぐらい曲げて悔しがった。


「州長様がいらっしゃっておるのだぞ! 不様な所などお見せできるものか!! この小僧の処刑を即刻で終わらせ、籠城準備に入る。上の者もそれで認めさせる。分かったらさっさとその小僧たちを処分しろ!!」

「それが、お前の答えか」

 

 伝令兵が笑ったかのように思えた、その瞬間どこからともなく馬蹄の音が響いてきた。

 馬が駆ける音だけが更に大きくなる。

 地響きのような音に役人が慌てふためく。


「な、なんだ?! この馬蹄の音は!?」

「攻めてきたんですよ」


 伝令兵がまた口元だけで笑い、呟いた。


「えーい!! いいからその小僧をさっさと殺……」


 バシュンッ!!


 何か太い植物を刈り取るような音がしたと同時に砂嵐が起きた。

 そう思った直後、役人の首が宙を舞い、砂嵐の正体が数騎の騎馬だということが分かった。


 集まった民衆も突然のことに慌て出す。

 役人の指示で動いていた処刑執行人達もどうすればいいか分からず、キョロキョロとしている。


 役人の首を奪い駆けて行った騎馬の先頭にいる男が大きな斧を掲げた。男の馬は他の馬に比べて2周り程大きく、騎乗の男も見るからに大男である。


 大男の後ろに付いていた騎馬が軍の騎馬兵を次々と倒していく。その差は歴然としているようだ。

 

「殺されたくなければ、黙って見ていろ!!」


 大男の仲間の騎馬兵がそう叫んだ。それで、誰も手出ししなくなった。

 悲鳴を上げていた民衆も一気に静まり静寂がその場を支配した。

 大男が掲げた斧をある方向に向けて突き刺すように差し出した。


「貴公に問う。貴公は未成年に対する一方的な虐殺、処刑を見て楽しむ輩か」

 

 静まり返った広場大男の野太い声だけが響き渡った。大男は続ける。


「貴公に問う。この公開処刑は貴公が用意したものか」


 よく見ると、こめかみに太い青筋が立っていた。怒っているのか、単に元々そういう筋が出やすいの判断はできなかったが、俺はこの男を嫌いではないと感じた。


「貴公に問う。獣人族の襲来よりこのつまらぬ処刑が優先か」


 大男の斧が指す先には、州長がいるようだ。その州長にこの大男は訴えかけているのだ。

 獣人族の襲来という言葉に民衆がざわつき始めた。

自分たちに危険が訪れれば、騒ぐものなのだ。先ほどまで人の死に笑い転げていた連中であっても。


「戦に備えよ!!」


 高い所にある半個室の部屋から見下ろしていた州長らしき人物が大声でそう指示を出した。

 すると、軍の人間たちは、処刑など無かったかのように荷物をまとめ、さがり始めた。俺を拘束していた元騎馬兵もそそくさと去って行った。


「タイガーパンチ!!」


 タイガーパンチを拘束する鎖を外そうとした。しかし、素手では何ともならなかった。


「少し待っていてくれ」


 タイガーパンチにそう言って、今度はトニーの方に駆け寄った。

 トニーは口から泡のような血を吹き出していた。


「トニー、大丈夫か?!」

「タ、タイガー……パンチは……?」

「ああ、大丈夫だよ」

「よ、良かった。これで俺も思い残すことはねぇ」

「お前も助かるよ! ちょっと傷したぐらいだ。唾つけときゃ治るよ」

「ハハハ……。そうだな」


 そう言うと、トニーの目から光がなくなった。胸の上下する動きも同時に止まった。


「トニー! トニー!!」


 何度呼びかけてもトニーは返事をしない。なぜだ。なぜ俺たちがこんな目に遭うんだ!!

 トニーは死んだ。そう思うと、光を失ったまま眼が開いているのがなんだかとても酷な事に思えた。

 トニーを眠らせてやりたい。瞼を瞑らせてやり、ゆっくりとその場に降ろした。


 再びタイガーパンチの元に戻ると、拘束具を全て外されていた。

 心臓が飛び出しそうな程、胸を上下しながらタイガーパンチが俺を見つめ、こう言った。


「ダイナスティ。こ、殺してくれ……!!」

「な、何を言っているんだ。タイガーパンチ、お前は助かるよ」

「自分のこと、は、自分がい、一番わ、分かっている。俺はもう長くない」

「諦めるんじゃねぇよ! お前らしくもない」

「も、もうた、耐え切れないんだ……。頼むよぉ……、ダ、ダイナスティ……」


 タイガーパンチの悲痛の訴えに俺は何と答えていいか、分からなくなった。

1-1

https://ncode.syosetu.com/n1211ff/1/"

この物語の1話目です。

是非こちらからも見て下さい。


2-1はこちらから!

https://ncode.syosetu.com/n1211ff/12/


3-1はこちらから!

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