4-11
俺とトニー、そして仲間十数人は広場に着いた。
人はかなり集まっているが、まだタイガーパンチの姿も刑を執行する役人の姿も見えない。
「処刑の予定まで、あとどれぐらいだ?」
「あと、3刻程か」
広場にある影時計を見て、トニーがそう答えた。
「タイガーパンチはどこにいるんだ!!」
「ダイナスティ。そう苛立つな。今探させている」
この状況で焦らないはずがない。あと3刻しかないのだ。噂は着実に広がっているだろうが、それがきっかけでこの処刑が中断されるかどうかは賭けに近い。
もう一つ、大きな何かを仕掛けないとタイガーパンチは助けられないのではないか。
落ち着かない俺を他所にトニーは仲間たちに指示を出し、報告も受けている。
トニーの第一印象はぬぼうとした頼りの無い奴だったが、仲間の為ならこんなにも頭を働かせられるのだ。
知っているつもりだったトニーの新たな一面を見て、少し混乱している自分がいるのに気付かされた。
周囲がざわつき始めた。広場の中央部分に眼をやると、大きな斧を持った屈強な男と鎖を持ったこれまた屈強な男がのっそりと歩いてきた。この二人が処刑執行人だろう。
この二人が実際に処刑を実行するのだろう。
二人が入ってくると背の小さな腕の太い男が数人小走りで歩いてきた。木の板や樽のようなものを担いでいる。
「おい、ダイナスティ。あ、ありゃ、ドワーフだ」
「ど、ドワーフだと……?!」
ドワーフはその昔、砂の国に接する位置に国を築いていた。ドワーフ族として単種族だけで国家を形成し、人間族とは友好関係にあったという。
そのドワーフ族の国家も数十年前に起きた人間族、エルフ族、ドワーフ族の同盟国と魔法使い族、獣人族との連合国との争いで滅亡することとなった。
その滅亡したドワーフ族がここにいるということは、種族自体は途絶えていなかったということだ。しかし、それは生かされているというだけであって、幸せなのかは分からない。
一見、いやどう考えても奴隷として扱われているようだ。
そのドワーフ数人がせっせと処刑台を作成していく。
ドワーフは穴掘りや物作りに長けた種族でこういった作業もなんなくやってのける。
数分で処刑台が完成されるとドワーフたちはいそいそと捌けて行った。
ドワーフたちと交替するように頭に帆布のような布を被せられた少年が現れた。
少年の手足には黒塗りされた鉄の留めが付いて、そこから鎖が延びていた。その鎖を周りで囲む男たちが握っている。
少し遅れて背の小さい役人が出てきた。なんとも下品な笑い方が似合う子悪党顔だ。手には鞭を持っている。
「ヒッヒッヒッ。スラムなんかに住む害虫は油虫と一緒だ。いくら駆除しても、すぐに増えている」
また役人がひき笑いを上げた。頭に布を被せられた少年の背中を持っていた鞭で引っ叩いた。
少年は叩かれても呻き声一つ上げない。
「こいつはスラムでも、そこそこ名が通っていた『タイガーパンチ』という奴だ。いるんだろ?その辺にコイツの仲間らが!」
そう言った役人がひき笑いをした後、自分の唇を舐めた。
「このタイガーパンチを助けて欲しくば、出てくるんだな。お前たちの態度次第では助けてやらんこともない」
役人がそう言った直後、広場に集まった群衆の中から少年が3人駆けだしてきた。
言うまでも無く、その3人はスラムの仲間たちだ。
「お願いします! お願いします! タイガーパンチさんを助けて下さい」
3人は頭を床に擦りつけて懇願する。
それを見ていた役人の口角がもう一段上がった。
「君たちは良い心がけですねぇ。仲間思いの優しい子どもたちです。他にはいませんか? あなたたちの行動次第では、このタイガーパンチ君を助けてあげられちゃうんですよ!?」
何かは分からないが、俺はあの役人を信用しきれない自分がいた。
今度は2人飛び出していった。そう思った途端、群衆の中からスラムの仲間たちが次々と駆け出していた。
全員で20人程か。俺やトニーの傍にいた奴たちも止めるのも聞かず飛び出していった。
「「お願いします!!」」
皆が膝をつき深々と頭を下げる。
それを見ていた役人は、まるで大好物を目の前に出されたかのように頬を赤らめ身体を左右にうねらせた。
「す、素晴らしい!! これぞ子どもたちの絆です。仲間を思うなんとも心打たれる光景ではないでしょうか!!」
そう言って、群衆を見回した役人が鞭で床を一度叩いた。
「解放しておやりなさい」
指示を受けた処刑執行人の男2人の内、大きな斧を持った男がその斧を大きく振り上げた。
タイガーパンチの鎖を壊そうとしてくれているんだろう。
「……馬鹿は死なきゃ治らないんです」
役人が何かを呟いた。そう思った瞬間、床に頭を擦りつけていた仲間の頭が4つ胴体から切り離された。
何も見えなかったが、斧を掲げた男の斧の位置が左から右へ移動しているので、こいつがスラムの仲間4人の首を落としたのだと理解した。しかし理解するまでには数秒かかった。
首が飛んだ途端、静まり返っていた群衆は悲鳴と歓声が織り交ざった声を上げた。
次々と仲間たちの首が飛んでいく。異変に気付いた仲間たちが起き上がり逃げだそうとした。そこに騎馬が数機現れ、長い槍で逃げ惑う子どもたちを突き刺していく。
必死に逃げ惑う仲間たちを見ていた群衆からは悲鳴が無くなり、歓声と笑い声が響くようになった。
「ほら、逃げなきゃ刺されちまうぞ!」
「死にたくないなら戦えよ! この根性無し~」
なんなんだ。これは……。今、目の前で人が殺されている。しかも10歳前後の子どもたちが甲冑を着て大きな馬に跨った大人達に追われ、遊ばれ、突かれている。
必死に逃げていた一人が足をもつれさせて、転んでしまった。尻を突きだしたように倒れていたその子の尻目がけて騎兵が槍をぶっ刺した。
その子を刺した槍は尻から口に抜けていた。槍が重くなって担ぐことも出来なくなった騎兵は、喜劇のワンシーンのように肩を竦め、子どもが刺さったままの槍を放り投げた。
それを見ていた群衆はこれまで以上に大笑いした。
「油虫は1匹殺した所で、意味がないんです。こうやって餌を撒いてやれば、一網打尽なんですよ」
群衆を満足させられたと上機嫌になった役人が続けて話す。
「スラムで意味の無い生を送るぐらいなら、人に笑ってもらえる意味のある死をこの油虫どもに迎えさせてやったことに私は私自身を褒めてやりたいですよ!!」
群衆の笑い声と役人の引き笑い、馬の嘶き。それらに子どもたちの悲痛の叫びはかき消されていく。
「おい、トニー。俺は何を見せられているんだ……?」
「ダイナスティ。頼む! 頼むから堪えてくれ。俺たちまで出て行ったら、タイガーパンチは誰が救ってやれるんだ」
「こんな時にまで、なんでお前はそんな冷静でいられ……」
肩を掴んできたトニーの手は痛い程力が入り、震えていた。
顔を真っ赤にして、眼には涙が今にも零れてしまいそうな程溜めて、鼻水がだらだらと流れていた。必死に怒りの感情を抑えている。
役人を睨みつけながら、トニーは懸命にべ耐えていた。
「お願だ、ダイナスティ。堪えてくれ。俺たちがタイガーパンチを救えなかったら、アイツ等の死が本当に無駄なものになっちまう……!!」
引き笑いを続ける役人が処刑執行人に顎で何か合図をした。
今度は鎖を持った男がタイガーパンチの頭に被った布を脱がせた。
広場に若干の動揺が走った。俺たちがタイガーパンチだと思っていた少年は、タイガーパンチではなかった。
「おや、タイガーパンチ君ではありませんねぇ。ああ、そうか。タイガーパンチ君は処刑する前に処分しちゃったんでしたっけ」
腹と抱えて役人の男が笑う。少年は顔が涙と汗と鼻水でべちゃべちゃになりながらも殺さないでくれと懇願していた。
「皆さん安心しなさい。この少年も牢屋で捕まっていた子なのですから。余興としては大変楽しめたでしょ。では処分しちゃいなさい」
少年は首を横に振り、「嫌だ、嫌だ!」と必死に懇願する。そんな少年をまじまじと見つめ、役人の何かを満足したのか処刑執行人に合図を出した。
合図が出された途端、俺たちがタイガーパンチだと思い込んでいた少年の頭が宙を飛んで、地面に転がった。
悲鳴と笑い声が混ざって聞こえた。
「こいつら、なんで笑っていやがるんだ……。人が……。しかも子どもが死んでいるんだぞ……!!」
「ダイナスティ。今回ばかりは俺も止めねぇ。二人で行こう。このままじゃ悔しすぎるよ!!」
トニーと顔を見合わせ頷いた。
その時、奥からまた一人囚人が連れられて歩いてきた。
今度は間違うはずがない。タイガーパンチだ。
いつもは逆立った髪の毛が萎びてはいるが、まさしくタイガーパンチだった。
いつもは悪そうにしか見えない眼をが勇ましく見える。
しかめた顔をして悠然と歩いてきた。手は前で拘束されていた。
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この物語の1話目です。
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