4-9
「オエッーーーーーーー!!!!」
呻くような声で目が覚めた。
跳ね起きるように上半身を起こした。
辺りを見渡すと、口を押え吐くのを必死に我慢する者やもう吐き気を押さえられない者。最後の力を振り絞り、部屋の外で出て行くものなど、その場は惨状と化していた。
また、昔の頃のことを思い出していたようだ。
スラムの頃のことなんかあまり思い出したくもない思い出なのに……。
意識がはっきりしてくると、腐ったような臭いと酸っぱい臭いで部屋の中が充満していることに気が付いた。
なんだこれは……。まさしく、ゲ○のような臭いじゃないか。
「お目覚めですか?」
船酔いなど微塵も感じさせない小気味の良い口調で話しかけてきた男は、テンガロンハットを被ったフーガッタだった。
「よくもまぁ、こんな地獄のような呻きと腐乱した臭いが立ち込める部屋で眠り続けられるもんだ」
「俺は何時間ぐらい寝ていたんだろうか」
「さあねぇ。ダイナスティ、あんたが夜食を喰ってからおよそ12時間は経ってるかな。今は朝というより、もう昼だな」
「え?!」
急いで部屋を飛び出した。
それは、臭いで部屋に居れなくなったというより、自分の隊の状況を把握したかった為だ。
部屋を出ると、眩しい日差しが猛烈な歓迎をしてきた。
眩しさから、手で日差しを避けた。
「あんな所でよく熟睡できるもんだ」
また誰かが話しかけてきた。顔を声の主の方に向けると、それはクライフだった。
クライフは不敵に笑ってみせたが、表情はいつもにも増して乏しかった。
頬がこけ、顔に覇気がない。顔色も髪の毛と同じような真っ青になっていた。
「く、クライフ……」
「自分がこれ程、船酔いをする体質だとはな……。これが一番の想定外だ、ウ!! オエッーーーーー!!!!」
クライフが船から身を乗り出し、船外に向かって吐き始めた。
「泣く子も黙るクライフが船に弱いとはな! 皆、良い弱点を知ったぞ。ガハハハ!!」
この声は聞き覚えがあるなどと生ぬるい言い方ではない。心の芯の芯まで刻みつけられている。
人一倍大きな体躯がのっそりと起きだす。長い間座っていた
「ハンマーフォールさん、ここに居たんですか」
「ああ、あんなゲロか糞か分からんような所におれねぇだろ? 俺のギルドの奴らがこんなに船に弱いとは思わなかったがなぁ」
ハハハと力無く笑うハンマーフォールさん。元気がないというより眠そうにも見える。
「ハンマーフォールさん寝てないんですか?」
「こんなに揺れて寝られるかよ。俺はお前みたいに神経が図太くないんでな」
ハンマーフォールさんがふらつきながら、歩き出した。すれ違う船員からは笑顔で挨拶をされている。
いつの間にこんなに慕われているんだ。
いや、ハンマーフォールさんはどこでも、こうなんだろう。
あの時も……
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
タイガーパンチが役人に攫われた!
処刑台に向かっているとの情報も入ってきた。
俺は急いで処刑台に向かって駆けた。その途中、他の仲間も集まってきた。
皆、考えていることは一緒のようだ。
タイガーパンチを救い出す!!
「良かった、ダイナスティ。お前もいたのか」
トニーが合流してきた。
「トニー。急がないと。タイガーパンチを救わないと!」
「待て待てダイナスティ。俺たちが必死に行ったって、処刑される人数が増えるだけだ。」
「しかし、そうは言ってもだな。タイガーパンチが処刑されてしまったら、元も子もないんだぞ」
「処刑は今から8刻後程度らしい」
「どこでそれを?」
「その辺にいる奴ら皆がそう言っている。もう祭りのようになっている。どんな処刑が行われるのか楽しみにしているような狂った奴ばかりさ」
処刑を楽しむだと……? やはりおかしい。
しかし、どうすれば……?
「トニー。役人といっても軍人もいるんだろ?」
「ああ、軍の奴らが実質動いているようだ。役人はふんぞり返って指図しているだけだ」
「う~~ん」
腕を組んだ所で何か発想が出る訳でもない。
「あいつら余興感覚だから、この街の偉い奴がわざわざ見に来るらしい。それで役人も張り切っているようだぞ」
役人が張り切っている。偉そうに指図している……か。
「トニー、役人が嫌がることって何だろうな……」
「役人が嫌がることかぁ。そりゃ街で犯罪が起きたりすることじゃないか?」
「うむ……」
再び、腕を組んでみた。何か思い浮かびそうな気がするが、浮かびそうになっては消えて無くなっていく。
打ちつけては引いて行く波のようだ。
「今、獣人族が攻めてきたら、とんでもないことになるよなぁ」
ふと、呟いていた。トニーはそれを聞いて、不思議そうに首を傾げた。
「そりゃ、獣人族がこの砂の国を攻めてきたら、大慌てだろうな。でもここ最近戦争らしい戦争は起こってないとも言ってたぜ」
波が大きくなってきた。何かが浮かんできそうだ。
「なぁ、トニー。俺らで戦争を起こさないか?」
「はぁ? 何を言ってやがる。戦争なんて、俺たちろくな武器も持ってないんだぜ?」
来た。閃いた!!
「そうだよトニー。俺たちは何も武器を持っていない。だけど、この街を知り尽くしているのは俺たちだ。噂が発生するエリアなんかも知っている。役人が戦争だと警戒するのはどんな時だ?」
「うん? ああ、戦争なんだから獣人族が攻めてきた時だろ」
「違う違う。国や街の役人や軍人がそんなギリギリまで気付かないはずがないだろ? もっと前だ」
今度はトニーが腕を組んだ。首が折れる程曲げながら考え込んでいる。
「戦争なんだから、徴兵するよな」
「それから?」
「軍の動きが活発になる……と思う」
「具体的には?」
「ダイナスティ、俺がそんな事知るかよ! 兵士の飯の、兵糧か? そんなものを集めなきゃならないんだろ」
「それだ!! トニーさすがだよ!!」
トニーが訝しむような表情をした。
「俺たちが噂を流す。それは戦争が起きそうだとかそんな話じゃない。獣人族の国から来た商人が、軍が兵糧を集め始めていると流すんだ」
「そんな噂信じるか?」
「いや信じないだろう。だけど、その噂を街全体に流す。役人は信じないかもしれないが、街の人が慌てだす。問い合わせが増える。役人はそれを解消するよう動くんじゃないか? そこに隙ができればもしかすれば……。ただ、あと8刻しかない。上手く行くかどうか……」
「いや……」
トニーが眼を輝かせた。
「いや、それしかねぇ。それ以外に案がある訳でもないしな。時間が無いなんて気にするな。そもそも俺たちは指をくわえて、タイガーパンチが処刑されるのを見ていることしかできないと諦めかけていたんだ。この案にかけよう!!」
トニーが集まり始めた仲間に話していく。
皆、諦めて眼が死んだようになっていたが、トニーの話しを聞いて眼を輝かせ始めた。やはり何か希望があるだけで人は気持ちが変わるんだ。
「皆、いいか。ダイナスティが考えた案を実行しよう。俺たちはいつも噂を聞きはするが、流すことなんて、やってことはない。だが、俺たちはこの作戦に賭けてみよう!! タイガーパンチを救うんだ!」
「「おお!!」」
不安がないなんて言えば嘘になる。むしろ不安だらけだ。だが、タイガーパンチを助け出す為に俺たちはできる事なら何でもやっていたかった。
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この物語の1話目です。
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