4-5
夜も更けてきた。いくら夜目が利くスターキルさんの仲間でもあまり斥候の効果は期待できないだろう。
そして、こんなに暗い中でもまで行軍を続けるのか。
自分の隊に戻って、少しジャッカルさんと離れた所で駆けていると、トニーが近付いてきた。走り続けていることで、息が乱れている。
「ダイナスティ大隊長!」
「すまないな。お前たちが徒で俺は馬上で駆けている」
「そんなことは気になさらずに。それよりそろそろ止まるようです。小休止でしょうか?」
「いや、野営だろう。敵地を駆けている訳ではないからな。夜は普通に休んでもいいはずだ」
「やっと休めるんですね」
トニーが安堵の表情をした。駆け始めてすぐに小休止を取って以降、行軍速度を落とすことはあっても、小休止が与えられることはなかった。歩兵は疲弊しているだろう。
ギルドの皆は軍の兵士のように長距離の行軍の訓練などはしていない。
「あ! 伝令が来ましたよ」
トニーが指を差しながら言った。伝令はクライフ直下の者のようだ。
「4刻の仮眠の後、出発します」
「4刻?! たったの4刻だと?」
「私はクライフさんの指示を伝えたまでです。では」
伝令が去って行った。
※時間は刻で数え、当世界では30分1刻で計算しています。
クライフは何を考えているんだ……。
「たったの4刻の睡眠だけなんですね……」
トニーの表情が明らかに曇っている。それもそうだろう。やっと休めると思った矢先、4刻のみの仮眠なのだから。
「トニー。とりあえず、隊内に伝えてくれるか?」
「ああ、はい!」
我に返ったように背筋を伸ばしたトニーが駆けて行った。
トニーが駆けて行ってすぐ、ジャッカルさんが入れ違うかのようにやってきた。
「ダイナスティ!! なぜ4刻なのだ?!」
「さぁ、俺も知らないですよ。ジャッカルさんはどう思われますか?」
「それはお前が考えることだろ。大隊長さんよ」
「自分でも判断がつかなかったので、部下に意見を求めているんですよ」
「俺が自分の考えを言ったら、お前はどうする?」
「ジャッカルさんの考えに妥当性があれば、それを採用し……」
「馬鹿野郎!! 憶測で判断する奴があるか! 今は敵と戦闘状態にある訳じゃない。その状態で、お前は上官に意図を聞きもせず、部下の憶測を妥当性が認められるかという曖昧な判断で採用するのか?!」
「い、いえ……」
「お前がやるべきことは事実を確認することだろ! 今までのように下っ端が愚痴を言い合っているのとは訳が違うんだぞ。ダイナスティ。お前は100人近い兵の命を預かっているのを忘れるな!!」
「はい……」
どっちが上なんだろ。全く。
渋々、クライフの方に歩いて行った。
クライフは相変わらず、フーガッタと談笑している。
まだ眠りにはついておらず、火を囲むようにして腰を降ろし、その他数人クライフの部下やフーガッタの部下のような者もいた。
「クライフ」
俺に気付いたクライフが軽く手を挙げた。
「そろそろまた文句を言いに来る頃かと思っていた」
「文句を言われるようなことをしている自覚をあるんだな」
「自覚というよりも、ジャッカルに吠えられて、ダイナスティが渋々来ると今話していた所だ」
「なっ……」
俺は、そんなにも行動が読まれやすいのか?
「どうせ、この4刻の仮眠の理由だろ? ダイナスティ」
「ああ、そうだ。クライフ。川のほとりってのも気になるな。川の近くでの野営ってのは本来襲われる可能性もあるので、避けることが多い。それにわざわざ4刻という短い時間だけの仮眠に何の意味がある?」
クライフが何かを言おうとしたが、フーガッタが制止して立ち上がった。
「フーガッタだ」
「ああ、覚えているよ。あんたが代わりに説明してくれるのか?」
ジャッカルさんにあんなに酷い物言いをされたので、少し気が立っていた。クライフに説明を求めたのにフーガッタという余所者がなぜ割り込んでくる?
「そういきり立つなよ。俺から説明する。まず、川のほとりを選んだのは、俺からの要望だ。こちらが守りやすい位置なのが理由と言っておこう。理由としてはもう一つあってな、次の行動に移しやすんだ。川のほとりってのは」
何を言っているのかさっぱり分からなかったが、フーガッタには何やら考えがあり、クライフもそれに同意をしているようだ。
「あと、4刻の仮眠についてだが、ここで取っておかないと眠れない者が出てくるかもしれないというクライフからの優しさだ」
「それはどういう……?」
「まぁ、すぐわかる。今は寝ていろ。部下にもそう伝えるんだ」
クライフが最後だけ割り込んできた。
結局何も分からなかった。
食い下がろうとすると、クライフが手だけを「もう戻れ」と動かした。
自分の隊に戻ると、ジャッカルさんが回答を求めてきたが、「この4刻を無駄にせず寝る事」とだけ伝えて、目を閉じた。
■ ■ ■ ■ ■ ■
周りが騒然としていることに気付き、眼を醒ました。
まだ眠っている者もいるが、数人起きているのが薄らと分かった。
起きている数人が同じを方向を見上げている。
何があるんだ……?
皆が見上げる方を俺も見上げてみた。
川に大きな家が建っていた。こんな家、寝る前にあっただろうか。
眼を擦り、もう一度見ると、家に見えていたものが違うと分かった。
大型の船だ。
フーガッタが近付いてきた。
「お? ダイナスティ、起きたか。デカいだろ?」
「こんな船どこから用意したんだ?」
「用意も何も俺たちが日頃使っている商船なんだがな。クライフとヴァンデン・プラスから話があって手配をすることとなった」
「クライフ、それにヴァンデン・プラスが……」
始めから徒歩での行軍なんか考えていなかったんだ。船に全員を載せて運ぶ。そこまで大がかりな構想を練っていたのか。
「ダイナスティ。お前の所のギルド、急に金が潤いだしただろ? ブラックウコーンを大量に討伐したんだってな。その噂が俺たちの所に届くと同時にヴァンデン・プラスが交渉に来たよ」
「そんなに前から、あの二人は今回の暴動を察知していたのか?!」
「いや、今回の暴動の為というより、獣人族とのきな臭さに対応したかったようだ。今回のこの暴動は奴らからしたら、ちょうどいい時期に起きたデモ的なものなんだろうよ」
ゴブリンの大暴動がデモ……?
クライフとヴァンデン・プラスはどこまで先を見て動いているんだ……?
「話しを聞いた所によると、ブラックウコーンも今後狩ることができるようギルド内でノウハウの共有も行っているようじゃないか。ギルドと言えば、自由奔放にやっているイメージだったが、君たちは素晴らしいよ。ハンマーフォールのギルドは面白い存在だ」
ハンマーフォールさんにヒロトやクライフたちに集まってもらった会議の事を思い出した。
あの会議で継続的で莫大な資金源の確保が成功に繋がったのだと今にしてみると、そう思う。
フーガッタがテンガロンハットを深く被り直した。
「金額としても申し分のない額を提示してもらった。しかし俺はこれからのお前たちギルドを見ていたい。その価値は報酬金額以上だと確信している」
少し、ほんの少しだけフーガッタのことを見直した気になった。
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この物語の1話目です。
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