4-2
嫌な予感がして、急いで家に向かった。
戸を開けると、小刻みに息をしながら肩を上下させている男がいた。男の足元に服や食器が散乱していた。
もう一人男がおり、その男は気が狂ったように部屋のタンスを物色している。「ない! ない!」と叫んでいる。
こんなこと父が許すはずがない。そう思い、「何をやっているんだ!」と声を出そうとした瞬間、立膝のような状態で壁にもたれ掛かった父の顔が目に入ってきた。父の顔は血に汚れている。
「と、父さん……!!」
肩を上下させていた男がこちらに振り向いた。血気迫る顔で手にはナイフを手にして、刃先にはドロッとした血がついていた。
恐怖よりも先に父の異常な事態に動転して、男の横を駆け抜けて父の所にいった。
「と、父さん!!」
「か、母さん、は……?」
えっ――――
俺はあまりの出来事に母を探すことも忘れてしまっていた。急いで母を探す為、家中を探し出すと、奥の部屋に倒れた状態の母を見つけた。
抵抗したのか服が肩から破けていた。腹を刺されて血が滲み出し、床が赤くなっていた。母の眼からは涙が溢れている。
「母さん!!」
「そ、ソーナー……」
まだ母の方が意識はまだはっきりとしていた。でも助かるのかは見当もつかない。
「な、なんでこんなことを!!」
怒りは家の中に入ってきている二人に向かった。当然だ。こいつらが父さんと母さんを刺したんだ。
「母さん! 大丈夫だからね。俺が母さんを助けてやるから! 父さんも絶対助ける」
そう言って、母の傍を離れようとした時、母が俺の腕を力一杯掴んできた。
「恨んじゃいけない、よ……。あ、あの人たちを、うら、恨んじゃいけないよ」
なんでそんなことを言うんだよ。
刺されてまで、良い子ちゃんでいる必要なんてないだろ?
「大丈夫、母さん。俺が奴らに仕返ししてやるから!」
手を振りほどき、男たちの前まで走った。
「ない! アニキ、どこにも無いです!」
「そんな訳ないだろ!? 探せ!」
こいらは何を探しているんだ?
「おい! 餓鬼。お前の親父が隠している手形はどこにあるんだ!」
「な、なんのことだ!?」
「賄賂だよ! 賄賂!!」
父が賄賂? そんなこと絶対にない。あの父に限って。
「調整役なんてのは、貴族の言う通りにしか動けねえんだ。それなのにお前の親父は貴族にも毅然としていた。絶対何か渡しているはずだ!」
何を訳の分からないことを……。
「父さんが何かを渡しているんだったら、家を探しても何か見つかるはずがないだろ!!」
「これだから餓鬼は、何も分かっちゃいねぇ。お前の親父は賄賂を渡しても暮らしが苦しそうじゃなかっただろ。それは俺たち学のねぇ農民どもから不正に搾取していた証拠じゃねぇか!!」
なぜそうなるんだ!
「俺の父さんは立派な人だ! お前たちなんかとは違う! お前たちは父さんの何も分かってなんかない!!」
俺は息を切らしていた男に向かって突っ込んだ。しかし、簡単に殴り倒された。
口から血がでた。口の中を切ったらしい。
――――ありがとう
父の声が聞こえた。
父の方を振り向くと、父が母と俺にしか分からない顔で笑っていた。そして「ありがとう」と言ったのだ。
「父さん!!」
そう言って、父に抱きついたが、もう父はそこにはいなかった。父の形をしたものがあっただけだった。
膝から崩れて、俺は流れ出す涙を拭うこともせず下を向いた。
「なんで……! なんでこんなことを……!!」
笑い声が聞こえた。息を切らしていた男だ。もう息は整っているようで、耳に障る声で笑っている。
「お前の親父が悪いんだからな! 俺たちを騙して自分たちだけ良い思いをしやがって」
「父さんがそんなことをするはずがないだろ!」
俺は父の近くに散らばったガラスの破片から一番大きな破片を手にした。
もう一人の物色していた男が俺を後ろから捕まえようとしたが、ガラスの破片を振り回し、手を振り解いた。
自由になったことで父の悪口を言った息を切らしていた男に向かって突っ込んだ。
ドン
男の腹からドクドクと血が溢れていた。俺がやったらしい。男の腹にガラスは刺さったままだ。耳に障る声で呻いている。
自分の手を見た。知らず知らずの内にガラスを強く握り過ぎたからか掌から血が出ていた。
そうだ。もう一人いる。
辺りを見渡した。物色していた男がいない。ガラスの破片が腹に刺さって呻いている男からナイフを無意識の内に奪い、物色していた男を探した。
男は母の前に下半身を露わにして立っていた。両腕は俺が振り回したガラスで切ったのか血だらけだった。
「ちくしょう。ついてねぇ。何も見つからねぇし、腕も痛い。俺はダイナスティが不正なんかしねぇと思っていたんだ。ちくしょう。このままじゃ俺はもうお終いだ。そうなる前にこの女で」
男が母の膝を蹴って、脚を開かせた。母はグデンとしたまま反応がない。母の反応がないのを見ると、男が醜く笑った。
「時間もそんなに経ってないんだ。まだ温かいだろ」
そう言って、男が膝をついて母の足に手をやった。
「母さんを触るなぁ!!!!」
不意を突かれた男が腰を抜かす。立ち上がれないでいる男の胸に飛び込むようにナイフを胸に突き立てた。
男は絶息していた。
「母さん!!」
母は目を開いたまま何も応えることは無かった。手で目を瞑らせてあげると、眼に溜まっていた涙が一滴流れた。
母さん! 母さん!! 母さん……。母さん……
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「チョウ……、たいちょう。隊長!」
隊長と呼ばれているのが自分だと気付き、慌てて意識を引き戻した。
ブラックウコーン討伐で一緒に闘った一人、トニーだった。
「良かった。隊長さっきから怖い顔をしていたから、どうしたのかと思っちゃいましたよ」
トニーは、腕はあまり立たないが、気が利く奴だった。人見知りもほとんどしないようで、すぐに仲間と打ち解けられるようだ。
「ああ、大丈夫だ。ありがとうな」
そう言ってやるとトニーは肩を上げ、照れながら笑って、後頭部をボリボリと掻いた。
トニーが喜ぶといつもこんな感じの反応をする。
「無理はなされませんように!」
そう言い、前に走って行った。
「部下に心配されるようじゃ、大隊長も終わりだな」
不意に横からそんな言葉が聞こえてきた。
1-1
https://ncode.syosetu.com/n1211ff/1/"
この物語の1話目です。
是非こちらからも見て下さい。
2-1はこちらから!
https://ncode.syosetu.com/n1211ff/12/
3-1はこちらから!
https://ncode.syosetu.com/n1211ff/34/




