4-1
ギルドを発ってから約1時間、駆け足の行軍だった。
皆が必死に駆けている中、偉そうに馬上にいる自分が情けなく感じてしまう。
クライフに馬に乗るよう指示をされた際には驚いた。
自分としては、皆が駆けるのであれば、一緒に駆けたかった。クライフに訴えてはみたものの小隊長以上は、原則として馬に乗ることが決められていると言って譲らなかった。
今まで一緒に頑張ってきた仲間たちを見下ろし、馬上で進むのは申し訳なく、気持ちが落ち着かない。そうクライフに言ったが取り合ってもらえなかった。
「お前が自分の偽善や自己満足の為に兵たちと駆けたいなどとほざくのは勝手だが、もしも兵の中に行軍中に馬に乗ることを夢見て、それだけの為に日々励んでいる者がいたら、お前の行動はその者の夢をぶち壊すことになる」
「きょ、極端な……!!」
「そうか? お前は今までこのギルドが伝統的に守ってきたものを自分の身勝手でぶっ潰そうとしている。その方が傲慢で極端な考えではないか? 俺は間違っているか?」
何も言い返せなかった。
抗議する前から分かっていたことではあるが、クライフに口で勝てるはずもない。言い返せなかった時点で俺の負けなのだ。
俺がどう思おうと馬には乗るしかないのだ。
幸いなことにヒロトやソングさんたちと協力してブラックウコーンを討伐した際の19名の仲間は一緒の仲間は配下に組み入れてもらえた。
まだ行軍開始から1時間ではあるが、俺が初めての隊長職ということで緊張していることを察してかその19名が代わる代わる話しかけに来てくれる。
今は部下ではあるが、共に死線を潜った仲間だ。こんなに心強いことはない。
クライフは40日の行程を10日程度で行軍しようとしていると言っていた。
しかし、今の速さでは到底10日で砂の国には着かないだろう。皆もそれは分かっていながら何も文句を言わない。いや言っても無駄と諦めている所があるのかもしれない。クライフになんとなく納得させられるだけなのだから。
クライフは頭脳明晰で判断も的確ではあるが、人望は皆無に等しい。それはやはり話し方にあるのだろうが、本人はそれに気付いていても治そうという気すらないようだ。
ふとクライフの方を見ると見慣れない男がクライフと並走していた。
ブラウンのテンガロンハットを深く被り、下髭を伸ばしている。帽子のツバ越しに時折見える眼は眼光が鋭く、圧倒するような凄味があった。
クライフがこちらを指差し、テンガロンハットの男と何かを話している。
話しを聞いていたテンガロンハットの男が近付いてきた。
「お前がソーナー・ダイナスティか。俺はギルス・フーガッタという。ブラッド・ステイン・チャイルドという隊商を率いている。俺のことはギルスでも、フーガッタでも呼びやすいように呼んでくれ」
「ブラッド・ステイン・チャイルド……?!」
「それなりに名は通っていると思うんだが」
「知っていますよ。フーガッタさん」
いや、知っているも何もこの国で、いや人間族で最も勢いのあるキャラバンだ。先の魔王との大戦以降勢いを付けてきた。普通は魔王との大戦で活躍した者たちが次の300年まで様々な分野で覇権を取ることが多いのに、このキャラバンは例外的な成長をしており、珍奇な存在とされている。
ブラッド・ステイン・チャイルドが他のキャラバンの違いをあげるとすれば、その手際の良さである。ブラッド・ステイン・チャイルドに依頼すると、通常の半分程の時間で手配が完了するのだ。
手際の良さもさることながら、法外な請求額を要求してくることでも有名だ。
彼らの要求金額の高さから破綻しかけた街も存在するという。
「ブラッド・ステイン・チャイルドのような大きなキャラバンのトップがこのギルドに何の用ですか」
「おいおい。そう訝しんでくれるなよ。そんなことより大隊長に抜擢されたらしいじゃないか。ダイナスティ」
「はあ」
「大変だろうと思うがな、まあ頑張れよ」
ギルス・フーガッタが意地の悪そうな笑みを見せてきた。
「頑張るって何をですか?」
「何をって、大抜擢なんだろ? そりゃ、さぞかし不満に思う輩もいるだろうさ」
「俺は俺ができることだけをやっていきますよ。フーガッタさん」
「ほおう。自信あり気だねぇ」
フーガッタが下髭を擦る仕草をした。
「いえ。むしろ逆です。あまりにも突然に大隊長に任命された訳です。今さらあれこれやったとしても、意味がないでしょうからね。精一杯頑張りますよ」
「君は真面目だねぇ。誰に似たんだろう。まあ、健闘を祈るよ」
そう言ってフーガッタは背を向けてクライフの方に戻っていく。
父ですね。
離れていくギルスの背中に向かって、俺はそう呟いた。
俺の父は、曲がったことが大嫌いな人だった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ソーナー。胸を張れ。皆が辛い時こそ、胸を張るんだ」
父がよく言っていた言葉だ。
俺の父は真面目をそのまま形にしたような人で、嘘や不正をとても嫌う。
母はそんな父をいつも誇らしいと言っていた。
俺の家は、小さな農村の領主と農民との調整役をしていた。もちろん調整役だけでは喰っていけないので、当然に農耕も続ける。
地主とは別にこういった役割が存在するが、これは村長や地主がしっかりとしていれば、本来必要のない役割である。ほとんどの村で長となる人物は貴族の言いなりで下には辛く辺り、農民は皆疲弊していた。
一揆もよく起きることから当時各地で村長や地主とは別に調整役という役割ができはじめていた。農民たちの代表として父はその調整役に抜擢されてしまった。
貴族からは無理難題を押し付けられ、農民からは日ごろのストレスを好き放題言われるので、普通は調整役なんてのは誰もなりたがらない役割なんだそうだ。
父はそんな役割を率先してやった。調整役をしたって、金なんか雀の涙程しか入って来やしない。損な役回りばかりでやらない方がマシだ。
俺はいつもそんな風に思っていた。
ある時、父に聞いてみた。
「調整役なんてやらない方がマシだよ。みんな父さんに面倒な役割を押し付けているだけじゃないか」
父が顔をしかめた時、頬に衝撃がきた。頬をぶたれていたのだ。頬を叩いたのは父ではなく、母だった。
母は俺もひどく叱責した。父がどれだけ素晴らしいことをしているのかと、こんこんと説教されたのだ。
声を荒げ続けた母の息が整わない内に、父が俺の肩に手を置いた。
「本来調整役は嫌な仕事でもなんでもないんだ。不正が蔓延っているから、そうなってしまう。でもなソーナー、不正に嘆いているだけで今が変わると思うか? 俺は今よりも少しでもよくなった未来をお前に残してやりたい。そう思っているだけだ」
父はずるい。自分が頑張っていることを俺の為だという。でもなぜかそれが悪い気はしなかった。父の温もりが胸のあたりにじわあっと広がる気がした。
「それとソーナー。母さんを困らせるな」
そう言って、父は笑った。いや、苦労してばかりいて、眉間にいつも皺ができていたので、笑ったと感じただけだった。周りの人は父が笑った所を見た事がないと言っていた。
母と俺だけが父の笑顔を知っていた。
俺も9歳になり、農耕の手伝いもすることが増えていた。
その日も雑草取りを一番長い時間やった。きっと母は褒めてくれるだろう。父は頭を撫でてくれると思う。
両親に肯定されることは、人として正しいことをしているのだと思え、とても気分が良いものとして俺は感じ始めていた。
家に近付くと、家の戸が半開きになっているのに気付いた。両親は戸を開いたままにしたりはしない。嫌な気配を感じ、急いで家に俺は戻った。
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この物語の1話目です。
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