3-16
大きな溜息をついて頭を掻いたハンマーフォールさんが言い辛そうにしながら話しかけてきた。
「ヒロト。お前のやる気は大いに結構。だが、お前は留守番だ」
「え??」
「聞こえなかったか? もう一度言ってやるぞ。お前は留守番だ」
「な、なんでなんですか!? 俺が弱いからですか? 半人前だからですか?」
「理由は聞くな」
「納得いきません!!」
必死だ。折れる訳にはいかない。
なぜ俺はいけないんだ。まだ俺は仲間として認められていないのか?
そんな悲しいことあるだろうか。死線を一緒にくぐり抜けてきたと思っていた。
血みどろになりながらも同士としてやってきたんだ。ハンマーフォールさんなら分かってくれると。ハンマーフォールさんがそんな薄情だとは思えない。
ハンマーフォールがクライフとヴァンデン・プラスがいる後方に振り返った。
「ほら、だから言わんこっちゃねぇ。ヒロトが黙って頷くはずがねぇんだよ」
結局面倒なことは俺がやるのか。と、クライフが呆れて溜息をついた。
「ヒロト」
「なんだ、クライフ! 俺は納得できないぞ」
クライフが青い髪をかき上げた。
「ヒロト。そんなに理由が聞きたいか?」
「当たり前だろ!」
「いいんだな?」
なんなんだよ。急に真剣な顔をしやがって。
凄まれた。本当は俺を気遣って理由を伏せていたのかもしれない。
「ああ、どうせ俺が足手まといなんだろ」
「通常のゴブリンの暴動は5,000前後だ」
全く会話が噛み合っていない。俺の話しは聞いていないようだ。クライフが続ける。
「やはりどう考えても70,000は多すぎるのだ。お前もおかしいと思わんか? ヒロト」
「まあ、言われてみればそうだが」
「人間族には5つの国がある。砂、風、森、水、光。知っての通り、俺たちがいるのが光の国だ」
知らなかった。国が5つもあることもここが光の国だということも。
「現在光の国はライトブリンガー家のご令嬢の影響もあって、他の4ヵ国とは友好的な関係を築いている。暴動は砂の国で始まった。砂の国に一番ゴブリンが多いからな。それは分かる。だが、その暴動が一直線に光の国に向かって進行してきている。これが何か分かるか?」
初めて知ったことも多くて、頭が混乱してしまう。何の質問をされたのか。よく分からなくなってきた。
「砂の国は旧ドワーフが居た地域に近い。そこからわざわざ一番遠い光の国へ一直線だ。おかしいと思わないか。普通、暴動というものは、何かを訴える為に行うものだ。こんな国を横断的にしかも長距離をまとまって進むことに意味があるのか」
確かに、暴動であれば要望を聞き入れさせる為にも一箇所に固まっている方がいいように思える。だったら、今回の暴動は何なんだ。何をしたい? ゴブリンたちは何を要求している?
「奴らの狙いが分からない以上、本当はここを離れたくはない。しかし、今回の招集は砂の国からの支援要求があったことと、それに応じた光の国。光の国からヒブリア家に依頼があり、俺たちに落ちてきている」
ヒブリア家はグティの家のことだ。光の国の王にも信頼を得ているのであろう。グティの領地にはゴブリンの奴隷は全く存在しない。奴隷に頼らなくても労働力が確保できるぐらい豊かなのだ。
「こっちを留守にはしたくない。そこでお前だ。ヒロト。闘いとなれば使い物にならんかもしれんが、発想を元に何かが起きれば、上手く立ち回って欲しい」
「そ、そんな無茶だ」
「いや、やってもらわねばならん。その代わりだ。ソングを置いていく」
「え? ソングさんがなんでまた」
クライフがくすりと一笑した。釣られるようにヴァンデン・プラスも吹き出した。
「アイツ、自分が朝飯喰ったことを忘れて、2回朝飯を喰っちまったんだ。他の奴の分をな。それで罰として今回は連れていかねぇという訳だ」
ハンマーフォールさんが吹き出すのを堪えながら教えてくれた。
「馬鹿だよ。ホント。飯喰った後、腹いっぱいになって二度寝しちまったんだとよ。じゃあ、次起きたらまた朝と勘違いして飯を喰ったという訳だ」
ホントだ。ホントに馬鹿だ。ソングさんってやっぱり思っていた以上に想像以上の馬鹿だ。
「以上の理由からお前とソング。後、怪我人を含めた本調子じゃない者を5人。計7人を残していく。分かったな。砂の国の国境のほとんどは、昔ドワーフが棲んでいた地域ではあるが、現在は獣人族の領土となっている。獣人族もしくは魔法使い族が何か関わっているかもしれない。この暴動には何か裏があるような気がするんだ。だから頼むぞ」
クライフの言っていることは理解できたつもりだ。だが、なぜ俺なんだという気持ちは捨て切れなかった。
「とりあえず、ヒロト。お前はソングに剣術でも教わりながらこっちにいるんだな」
そういうと3人は早々と出て行った。
何かやり切れない気がした。机に腰かけて浮いた足をブラつかせていた。
そこへ俺よりも何倍、いや何十倍も肩を落としたソングさんが入ってきた。
「…………はぁ」
溜息をついた後、椅子に座った。背を丸めたソングさんは、いつもよりも小さく見えた。
こんなに落ち込んだソングさんを見るのは初めてだった。
何か話しかけなくては。
「そ、ソングさん」
ソングさんが一瞥をくれた。
「ああ、ヒロトか……」
ソングさんが言葉を続けると思って待っていたが、何も言わなかった。やはりいつものソングさんではない。
「ソングさん、災難でしたね」
何と声を掛けていいのか分からなくなって、どうでもいいことを言ってしまっていた。
俯いたままソングさんが聞こえるか聞こえないかぐらいの声で話した。
「まったくだ。起きたら、飯喰うだろ? 普通」
やっべー。吹き出しそうになった。
起きたら飯喰うだろ? って、やっぱこの人馬鹿だ。
ヤバい。堪えろ。堪えろ俺。今吹き出したらぶっ殺されるぞ。堪えるんだ!!
「起きたら、勝手に腹なんて減っているだろ。たとえそれが二度寝でもよ」
駄目だ。もうそれ以上喋らないでくれ。頼む。頼むからソングさん大人しくしていてくれ……!!
口を両手で塞いだ。吹き出してしまう。プルプル震えているのが自分でも分かった。
「俺もおかしいとは思ったんだ。なんで昨日と同じ料理なんだってな。モトコは献立を気にする奴だから2日続けて同じものは出さない。みんなそれを美味い美味いって喰ってやがるんだ。こいつらおかしくなったのかなって思ったがな。おかしいとは思ったが俺も喰ったよ。起きたら腹減るしな」
ソング!! オイ。狙っているだろ。その「起きたら腹が減る」ってやつ。
もう喋るな。絶対喋るなよ!!
「もう俺決めたんだよ。起きても腹減らせねぇって。な? だったら朝飯2回も喰わないだろ?」
「生理現象だから、腹減らさないとか無理だと思いますよ」
「そ、そうなのか? だったら、どうすれば……」
ソングさんはソングさんで本気で悩んでいるようだ。吹き出しそうなのは忘れて、力になってあげないと。
「二度寝ってどれぐらいやってたんですか?」
「他の奴に聞いたらトイレに行くぐらいの時間だったようだ」
短っ!! そんなの15分ぐらいだよ。たった。15分で腹いっぱいになった胃袋が空になるはずがないだろ。もっと脳を働かせろよソング!!
「結局吐いちまったしな」
「吐いたのかよ!!」
思わずツッコんでしまった。
慌てて口を両手で塞いだが、手遅れの様子。
ソングさんがのそりと立ち上がった。
や、やばい殺される!!!!! マジで。
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この物語の1話目です。
是非こちらからも見て下さい。
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