3-11
「わかったよ。クライフ俺の負けだ。じゃあ、しっかりと詫びてもらおう」
「おう! さすがだ、ヒロト。俺はそんなお前を前から信じていたぞ」
こいつもこんな適当な事を言う奴だったんだな。
まぁ、それは良い。新しいクライフが知れたんだ。
クライフに何を頼もうかな……。
「クライフ。お前はこのギルドの参謀みたいな感じだよな?」
「まあ、そうなるかな。参謀の座をやろうか?」
「いや、そういうのではないんだが、俺に戦術を教えてくれないか?」
「戦術? 戦略ではなくか?」
「恥ずかしい話、戦術と戦略の違いも分からんのだが、俺みたいな軟弱な奴がこれからこのギルドで生きていくのに何ができるのか考えてみたんだ。ハンマーフォールさんやダイナスティのようにリーダーシップも取れそうにない。ソングさんのように腕が立つ訳でもない。ヴァンデン・プラスのように気も利かないしな」
詫びてもらう為に話始めたはずなのに、俺がなんだか恥ずかしくなってきてしまった。告白をしているような気分になってきた。なんでだ?
訳が分からんが、恐らく今は顔が真っ赤だろう。なんで、こんなことを話し始めたんだ俺?
頭をボリボリと掻いて、一度大きく息を吸い込んだ。
「今、最低限闘えるようにソングさんに剣術を教えてもらっている。戦術について、向いているかなんて分かりもしないが、教わっておきたいと思ったんだ」
言ってしまった!! 参謀といえば、日本人が大好きなポジション。諸葛孔明然り、黒田官兵衛や土方歳三なんかも。タイプは違っても日本人が憧れる№2のポジション。そんなモノを教えてくれと。言ってしまった!!
はあ。こういうのって、言った瞬間から後悔が始まるんだな……。
クライフに大笑いされるのなんて目に見えているのに。俺なんかが参謀なんてな……。
「そんなことでいいのか? それが詫びとして成立するのであれば、俺は喜んでお前に教えてやる」
「え?」
クライフが俺の肩に手を乗せてきた。顔を上げるとクライフは笑っていた。しかし、その笑顔に嘲笑の色は無かった。
「ビシビシ行くから覚悟しておけよ」
「あ、ああ」
俺は、眠っていた獅子を起こしてしまったのかもしれないと、また後悔の渦に引き込まれていった。
「ところで、ヒロト。お前の『天賦』の上位2種はなんだ?」
「天賦?」
クライフが突然意味の分からないことを言ってきた。
天賦ってなんだよ。
「天賦の才みたいなことか?」
「天賦の才と天賦も少し解釈が違うのだが……。ヒロト。お前、まさか自分の天賦を知らないのか?」
「……知らないな」
「天賦も知らないなんて、やっぱりおかしい……。あ! いや、すまない。お前の育った地域ではしないのかもしれんな。戦術に長けた者が多い東でもてっきり天賦は知っていると思っていたが」
ううう……。これ以上、東の話をされるとごまかしきれないぞ。天賦の話に戻そう。
「そ、その天賦ってなんだよ」
「歩きながら話そう」
そう言って、クライフがギルドを出て行こうとした。遅れずに付いて行った。
「天賦は誰もが産まれ持ったモノだ。天賦は9つの種類があり、その上位2つが自分にとっての天賦だ。天賦は産まれ持って持ったモノで、それを強く磨き上げていくことで、『天賦の才』として極めることができるんだ」
「天賦って、能力みたいなものか? こうオーラを使って戦う感じの」
俺もこの世界にいれば、『念○力』みたいなものを習得できるのかもしれない!!
「ヒロト。お前は何を訳の分からんことを言っているんだ。魔法使い族が炎を操ることはあっても、人間族がそんなことはできんぞ。夢でも見ているのか?」
ええ。違うの~? せっかく念能○みたいなものが使えるバトルの世界かと思ったのにさ。
「じゃあ、なんなんだよ。天賦ってのは」
「着いたぞ」
クライフが指差したのは、今にも潰れそうなボロい小屋だった。
慣れた感じでクライフが小屋をノックした。ノックをするだけで柱や屋根が崩れてしまいそうだ。
少し待ったが、何も反応がない。
舌打ちをしたクライフが服の下から水筒のようなものを取り出した。よく見ると、陶器でできたペットボトル状の容器を、皮を編んで作った袋で覆っている。
それをボロ小屋の小窓に突っ込んだ。
突っ込んだ途端に水筒は向こう側から奪われた。
「な、何を渡したんだ?」
「酒だ。近頃、アイツは酒をやらないと働こうとせん。それとアイツに関心を持つな。ただの道具として見るぐらいにしておけ。分かったな?」
何のことだか分からないが、頷いてみせた。
酒を確認したのか、中から引き笑いをする男性の声がする。なんとも気持ちが悪い。
ボロ小屋の扉がひっそりと開いた。
「入れ」
用心深く、頭の一部だけを出した小さい人間のような物体が偉そうに指図してきた。
え~……。このボロ小屋に入るのぉ……。
クライフは躊躇うことなく、扉を開けて入っていく。
「おい、行くぞ」
クライフが表情も無く、そう言った。
「分かったよ」
仕方がない。ここはクライフを信じて入ってみよう。
小屋に入ると、湿気がすごかった。1年中、太陽の日を浴びない内側だからなのか、コケが至る所に生えていた。
部屋の奥には頂点が禿げ、細く薄い髪を伸ばしている白髪の老人がいた。
椅子に座り、器一杯にクライフが渡した酒を注いでいた。
手はしきりに震えている。
「あのじいさんがお前の天賦を見てくれる」
「え?! やっぱり?」
一旦驚いては見せたものの、俺の予想は的中しており、あの老人がそうらしい。
「また老人かよ!」とツッコみそうになりながらも、それはグッと堪えた。
俺のハーレムはいつ訪れるんだよ。こんなキャラ絶対重要じゃ無さそうだし、出てくるのも一回限りなんだろうしさ、可愛い女の子でも良かったじゃないか。
「不服そうな顔をしておるのう。少年。小汚いじじいですまんな」
うわ、顔に出ちまったてか。それよりも、また少年って言われた。こっちの世界じゃ俺は童顔に見えるのか?
「ファイアウインドのじいさん。こいつの天賦を見てもらえないか」
「お主、その年にもなって、自分の天賦も知らぬのか。呆れたもんじゃ。最近の若いモンときたら……」
じいさんがなにやらブツブツと言い続けている。その間も酒を呑んでいた。手の震えはほぼほぼ止まったようだ。
じいさんの名前は「ファイアウインド」と言うらしい。
「じいさん、コイツは東から来ていてな……」
クライフが今日の経緯を話した。
「そんなこと、お主らが来る前から分かっておったわい。ワシの力でな」
「力って、やっぱり天賦ってのは占いかなんかか」
ファイアウインドのじいさんが酒を持つ左手とは反対の右手で杖を持ち、突き出してきた。突き出した杖は俺の目の前でピタリと止まった。
「馬鹿モン!! 天賦を単なる占いなどと一緒にするでない。ごく一部の魔法使いにしか使うことが許されていない魔法なんじゃぞ」
「魔法使いってたしか人間族とは一緒に暮らしていなんじゃ……」
「おい! ヒロト。それはここでは関係ない。何も不思議に思うな! このじいさんを刺激するな!!」
「え、だって……」
ファイアウインドのじいさんを見ると、顔がみるみると赤くなっていく。
酒が苦手な俺でもよく分かる。これは酔いではなく怒りだ。
「小僧。ワシを愚弄するか……?」
「いや~、そんなつもりで言ったんじゃなく、なんで魔法使いが人間と一緒にいるのかなあって、自然と疑問に思ってしまって……」
「ヒロト! 喋り過ぎだ!!」
クライフが俺の胸倉を掴んできた。ボロい小屋を引きづり出された。
「ゆ、許せん……!! ワシを愚弄するお前を許せん……。許せんぞぉ……!!」
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この物語の1話目です。
是非こちらからも見て下さい。
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