3-10
これからもよろしくお願い致します。
「無罪の者を処断しようとした罪、その罪を断ずる為に俺が俺自身を裁くこと。そうすることで、このギルドの秩序が保たれるんだ」
再び、クライフが剣に手をかけた。
バツン!!
クライフの前に筋肉隆々とした人物が立っていた。右手でクライフを叩いたようだ。
ハンマーフォールさん……? いや、ハンマーフォールさんは一歩として動いてもいない。
そのデカさと筋肉の凄味から一瞬誰か分からかったが、クライフをブッたのはモトコ・ゴソウだった。
「何が示しだい。アンタは自分が恥ずかしいだけだろ? 本当は死ぬ気なんてないくせにさ」
「なんだと……? モトコ……! 言わせておけば」
バツン!!
モトコがまたクライフを引っ叩いた。今度左手だ。クライフが少しよろける。
「あんたがやったことは正しいよ。このヒロトっていうひよっこは何にもできやしない。それなのになぜか変なことだけ知っていたり、簡単なことを知らなかったりする」
皆が頷いている。
俺、そんなにこれまで変な発言をしていたのか?
「あそこでアンタがヒロトを詰めなければ、また皆の中に変なわだかまりだけが残っていたはずさ。アンタの行為はいけ好かない部分はあっても正しいことをしたんだ。胸を張ってな!」
バツン!!
そう言って、モトコがクライフの背中を叩いた。
クライフは手の届かない所を叩かれて、痛痒いような素振りをした。
「モトコ! 助かったぜ。こういうのを諌めるのはお前が適任だな」
「伊達にあんたらの胃袋を牛耳ってないわさ。ハンマーフォール」
「ガハハハ。そりゃそうだ」
デカいのと、デカいのが豪快に笑いながらお互いの肩に手を置いている。
な、なんだこれ? ここだけを見たら、ゴ○ラとメカゴ○ラが取っ組み合っているみたいじゃないか。
「皆、話を戻したいんだが、良いか?」
ダイナスティ再び会議の議題に戻そうとする。表情を見るに苛立ちもあるようだ。
ダイナスティは予定が乱れることをひどく嫌うのかもしれない。
「あのキツネは新種なのかもしれない。という情報も入ってきている」
「新種か……?」
「新種だと何かいけないことがあるのか? クライフ」
「ヒロト。お前はそんなことも知らないのか」
クライフの表情が険しくなったが、何かを思い出したように穏やかなものに変わった。
「元々魔王アーチエネミーを倒して数年は魔王眷属のモンスター(魔物)はいなかったんだ。それが数年すると突如としてノーマルウコーンが現れた。弱いモンスターだから皆そこまで気にしてなかったんだが、他の種類が発見されるようになった」
魔王は倒したと言っていたよな。じゃあ、なぜ魔物が現れるんだ……。
「やはり、この兆候は先の大戦前と似た状況なのか?!」
クライフがそう尋ねた時、ヴァンデン・プラスが一抱えある大きな本を肩に担いで持ってきた。
「ダイナスティさん、あなたが言っていた本ですが、ありましたよ……。それにしても重いですね」
ヴァンデン・プラスが20人掛けの卓にその大きな本を落とすように置いた。
ドスン
額から汗が滲んでいるように見える。
ダイナスティが両手で本を開くと、大きな音がして、埃が舞った。
「さて、今日の本題に入る。ヒロトが不死者で無かった以上、不死者はまだ現れていないことになる。今回の新種のモンスターは魔王出現に向けた予兆である不死者が現れる予兆なんじゃないかと思うんだ」
ダイナスティがページを捲った。指で文字をなぞりながら読み上げる。
「えーと……」
≪魔王が眼醒めるは、ソドム(滅びの地)が現れ、ディム(魔の)・ボルギル(城)が建つ時。愛獣ベヒモスを従えて300年の眠りから眼を醒ます≫
「とある」
「ダイナスティそれだけじゃ、新種のモンスターが関係しているかどうかは分からんぞ」
「待ってくれ。クライフ。あ、ここだ」
≪魔王が300年の眠りに入る時、それは次の眼醒めの準備が始まったことに等しい。モンスター(魔族)が現れ、新たなモンスターが次々と発見される。人間族は欲深さからか、頻繁に嫉妬や疑心暗鬼に駆られる。これも魔王の仕業である。種族同士の諍いも魔王の撒いた種である。≫
「種族同士が争っても意味なんかないんだよ。それなのに、俺たちは争ってばかりだ」
ダイナスティが読み終えるとそう言った。俺がいた世界でも人は争い続けていた。
「要するに、新種のモンスターが出てきたってことは、魔王復活の準備が進んでしまっているということだ」
「では、どうしようと言うんだ? ダイナスティ」
「モンスターを特に新種を中心に狩り尽くす。魔王が眼醒め易い環境にしないことが俺たちにできることじゃないのか? クライフ」
クライフが曲げた人差し指を口に当て、考え出した。彼が考え込む時、こういったポーズをするとソングさんが言っていたのを思い出した。
「なるほど。それで、今日の集まりにヒロトが入っているのだな。あの新種のキツネの倒し方を教わる為に」
「そこまで読まれちゃ仕方がねぇ。クライフそれで合っているよ」
そう言ったダイナスティが俺の方に向きなおした。
「ヒロト。そういう訳だ。キツネのモンスターをどう倒したのか。改めて教えてくれねぇか?」
「教えるのは構わんが、アイツは厄介だぞ。人に化ける。しかも知っている人に化けるんだ。見た目じゃ区別付かない程にな」
「「なに?! それじゃどうやって見分けが付いたんだ?」」
皆が喰いついてきた。しかし、ここは冷静に話をしよう。恐らく、あのキツネとタヌキはペアで行動をしているはずだ。
「待ってくれ。キツネの他にタヌキもいる。こっちは恐らく化けるのがキツネより下手だ。タヌキを見つければ、キツネも倒せるかもしれない」
「なるほど、それは良い情報だ。もっと詳しく教えてもらおう」
そうして、俺はダイナスティを含めた20人にキツネとタヌキとの遭遇時の状況をできるだけ詳細に説明をした。
途中で出て行くと言っていたクライフもなぜか残って、メモを取っているようだった。
会議は質疑の段階となり、俺は分かる範囲で全員の問いに答えた。
昼になり、モトコとララーさんが昼飯を用意してくれたので、会議はそこで終了となった。
ダイナスティが再び立ち上がった。
「ではまとめだが、一度ヒロト同行の元、もう一度山に入ることとする。日時は追って連絡をすることとする。以上!」
そう、ダイナスティがまとめたと同時に、大皿に乗った昼飯が20人の座る卓に並んだ。
それが合図で、闘争のような昼飯が始まった。
食事が終わると、俺だけクライフに呼ばれた。
「どうした? クライフ」
「その……、なんだ」
何かとてつもなく言い難そうにし、クライフは眼を合わせて来ない。
「だから、どうしたんだ? はっきり言えよ。お前らしくない」
「そうだな。では、言うぞ。やはり、俺はヒロト。お前に対して詫びたい」
「は?」
「いや、これまでのことも含めてだ。ブラックウコーン攻略を経て俺は俺なりにお前を理解できたつもりだった。しかし、またやらかしてしまった。何か詫びさせてくれないか。どんなことでも命じてくれ。俺は甘んじて受け入れる」
「そんなこと言われてもなぁ……」
正直困ってしまった。死にたいと言っている訳でもないし、俺はあんまり気にしていない。むしろ不死者に敏感なこの世界に、不死者まがいの人間が現れれば俺だって嫌悪するし、疑うだろう。
クライフをもう一度見た。詫びたいと言っている割には高圧的にこちらを見ている。俺が断れば、今以上に拗れるのはおおよそ予測がつく。
「わかったよ。クライフ俺の負けだ。じゃあ、しっかりと詫びてもらおう」
「おう! さすがだ、ヒロト。俺はそんなお前を前から信じていたぞ」
調子の良いヤツだ。
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この物語の1話目です。
是非こちらからも見て下さい。
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