3-9
俺の顔は形を変えていた。
前の世界じゃ「リンゴ病?」って聞かれても良いレベルに頬が腫れて赤くなっている。
昨日は大変だった。
何度も何度も脂から油を作り出せず、失敗する度にモトコに頬を平手打ちされて。
失敗すること25回。そして同回数の平手打ちを喰らった。
女の子が頬を叩く行為を通常は「ビンタ」って言うと思うんだ。でもな、モトコの頬を叩く行為。あれはもう「ビンタ」なんていう可愛い次元のものじゃない。
分厚い手のひら、鍛え上げられた上腕二頭筋、そして異様な腕橈骨筋のでっぱり。
やはり、モトコは男なんじゃないだろうか。そう思わせる腕と手の平から、風が唸る程の速さで「ビンタ」を放ってくるのである。
あれは、「ビンタ」じゃない。改めて言おう。あれは平手打ちだ。
布に水を浸したものをララーさんが用意してくれて、それを頬に当てていると治ってくるような気がした。なによりもララーさんが渡してくれた布ってのがいい。
くんくん。すはー。
水に濡れて匂いがよく分からないのがホント残念。
今日は、ギルドの一部のメンバーと会議を開くことになっている。
メンバーの中心はダイナスティだ。ハンマーフォールさんとクライフも時間があれば参加すると言っていたな。
会議とは何の会議なんだろうか。
自宅警備しかしてこなかった俺に会議の「いろは」など分かるはずもなく、ただボーっと聞いて終わるんだろうな。と、ただぼんやりと思うだけだった。
ダイナスティが俺の部屋のドアを持ち上げて開いた。
そう、まだソングさんにぶっ壊された扉が直っていないのだ。
こんなことじゃ、一人でオナ……、ゲフンゲフン。危なかった。この世界にはティッシュはなかったんだった。いや、そういう話じゃないだろ。
ダイナスティは開きにくいドアを持ったまま言ってきた。
「おい、ヒロト。そろそろ始めるぞ」
「はいよ」
「お前、モトコのハンカチを大事そうに頬にあてて、変わった奴だな」
「!!!」
うおおお……。
マジか。この布はララーさんから渡されたものでも、ララーさんにあらず……!!
俺の癒されつつあった心が、またズタボロだぜ。
憔悴した俺が部屋を出ようとすると、ダイナスティがドアをキレイに戻そうと、慎重にはめ込もうとしていた。
律儀な男だよ。お前って奴は。
食堂の20名掛けのテーブルにはもうほとんどのメンバーが揃っていた。
今回の会議のメンバーは、前のブラックウコーン討伐戦で一緒に闘った20名だ。
テーブルにダイナスティの他19名が腰をかけていた。
ハンマーフォールさんも自身専用の椅子に深くを腰を降ろし座っている。
クライフは立ったままだったが、「すぐに出て行くかもしれない」との理由で着席を固辞していた。
俺も19名と同じテーブルに腰かけようとしたが、ダイナスティが自分の横に座るようにと指示してきた。
ダイナスティの横に座ると、ハンマーフォールさんが一歩前に出てきた。
「おい、ダイナスティ。回りくどいことは言いっこ無しだ。今日はなんの会議だ?」
「クライフには事前に伝えたんですがね」
ハンマーフォールさんがクライフの方を見た。
クライフは目を瞑り、鼻から息を吐き出し、肩を落とした。
「どうせ事前に伝えたところで、ハンマーフォールさんは忘れるだろ?」
「な……っ!!」
「そうもそうですね……」
「お前らってやつは……」
ハンマーフォールさんは思いの外、堪えたようで落胆の色が隠せない。
落ち込むハンマーフォールさんを他所にクライフが顎でダイナスティに合図した。
「今日の会議だが、ブラックウコーン討伐時にヒロトが倒したキツネのモンスターに関してだ」
ああ、ソングさんに化けていたあのモンスターのことか。
「モンスターの専門家に確認を取ったんだが、この辺りには生息が確認されていない奴らしい」
「では、他の地域には生息が確認されているのか?」
「いや、それが分からんそうなんだ。クライフ。モンスターの専門家といってもこの地域のモンスターを調べているだけらしくてな。他の地域に関しては見当もつかないと言っている」
「とんだ専門家だな。おいダイナスティ」
「俺もそう思ったさ、クライフ。だが、皆も知っての通りモンスター自体は他の動物と違って何百年も前から存在していた訳じゃない。先の大戦の後に湧いて出てきたような奴等だからな。専門家といっても知識が浅い」
ん? この世界にモンスターがいることは異常なのか?
首を傾げていたら、ダイナスティが声をかけてきた。
「ヒロト、どうした?」
「モンスターってどこから出てきたんだよ」
周囲がザワついた。ダイナスティも掛ける言葉がないのか、こちらを見ているだけだ。
やばい。モンスターが昔はいなかったというのが、この世界では常識なんだ。
そして、なぜモンスターが出てきたか。というのもこの世界では当然のように知れ渡っている。
「お前何を言っている?」
クライフが近付いてきた。表情は決して穏やかではない。
「世間知らずというだけでは済まされんぞ……!!」
クライフが剣に手をかけた。一歩ずつ踏みしめるように向かってくる。
訝しむように眉間が寄る。
え? そ、そんなにやばいこと口走ったの? 俺、殺される……?
「改めて問う。ヒロト。貴様は何者だ……?!」
考えろ! 考えろ俺! この窮地から抜け出せる妙案を……!!
よし、一か八かだ!!
「お、俺がいた東の国では、モ、モンスターはいて当たり前だった」
クライフの眉がピクリと動いた。しかし、その反応がどういう意味を持つのかは分からない。
一度斬られても俺は生き返れる。だが、生き返ることで再びアンデッド疑惑が浮上する。
どうすればいいか。そんなことは分からん。
だが、俺の答えが間違っていたとしても抗おう。
俺はコイツ等のことを仲間だと思っている。もっと一緒にいたい。
嘘をついて、つきまくって上塗りを重ねているけど……、それでも俺はコイツ等の仲間で、俺はコイツ等が好きだ。その気持ちだけは嘘はつきたくないんだ!
「東の国にいた俺からしたら、一時でもモンスターのいない世の中があったことに不思議さを感じるだけだ」
昨今の異世界モノではだいたい東に何かある。黒が邪悪とされたり、黒髪、黒い瞳が忌み嫌われたり。
東は未開の地……。
それは異世界モノの常套句だろ?
ダイナスティがクライフと俺の間に割って入ってきた。
「クライフ。ヒロトの言っていることは、あながち間違いでもないかもしれん。魔王アーチエネミーは東の国より現れたと文献にもある。魔王アーチエネミーの眷属であるモンスター(魔物)が東の国では跋扈していたとして、なんら不思議もない。俺たちが東の国についてあまり知らないように、ヒロトもこっちの国を知らないのは当たり前じゃないのか?」
クライフが俯き、剣の柄から手を離した。
「ヒロト。すまなかった。俺はお前を信じていたつもりだったが、どこかでまだ疑ってかかっていたのかもしれない。それはどんだけ詫びようが許されることではない」
「おいおい、そこまで難しく考える必要はないんじゃないのか?! 俺だって間違うことはある。クライフ、お前がそこまで責任に感じることはないはずだ」
「いや、それでは他に示しもつかない。罪なき者を疑った罪は重い」
おい、コイツ何を言っているんだ……?
「無罪の者を処断しようとした罪、その罪を断ずる為に俺が俺自身を裁くこと。そうすることで、このギルドの秩序が保たれるんだ」
再び、クライフが剣に手をかけた。
殺気は俺ではなく、クライフ自身に向いている。
バツン!!
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この物語の1話目です。
是非こちらからも見て下さい。
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