3-8
「なんだい。ひよっこヒロトかい」
「ああ、そうだよ。ひよっこだよ」
「へぇ~、偉そうに口を利くようになったじゃないか。金を持つと人は変わっちまうんだね」
「モトコ。そんな言い方はしないでくれよ。今日はあんたに相談したいことがあって来たんだ」
「金ができたら、飲食にも手を出そうってか? あんたみたいな半端者が大金を持っちまうとロクなことにならないねぇ」
「ああ、違いねぇ」
モトコは、こんな口の利き方をしてくるが、意外とギルドの皆には慕われている。妙に気配りができるらしい。
俺みたいな下っ端にはそういった場面は全くもって見せて来ない訳だが。
モトコがその引き締まった太い腕を組んだ。そしてまた見下ろしてくる。
「あんたの相談って何だい?」
「俺は、料理はできない」
「何を分かりきったことを。つまらないことを言っていると大なべで黒焦げにしちまうよ」
「まぁ、最後まで話は聞けって。俺には料理は作れないが、俺のいた東の国では料理のレパートリーが数多くあった。この国の品数の100倍はあったんじゃないかな」
「100倍?! ヒロト。あんた身体も鍛えずに、ほら吹きばかり覚えたんじゃないだろうね」
「嘘は言っていない。100倍でも少ないぐらいだ。だが、俺にはそれを作り出す技術はない。俺の料理作りに手伝ってくれないか?」
モトコが台の上に拳を叩きつけた。どデカい音で、その場にいた者全員が肩を上げ、驚いてしまった。
「なにかい? 私をあんたの召使いにでもしようってのかい? ふざけた野郎だよ。この場で切り刻んで殺してしまいたい程だよ」
「モトコはおしゃれが好きだ。美しいものが好きなんだろうな」
「なんだよ。急に」
叩きつけた拳のやり場を考えながら、とりあえずモトコが包丁を研ぎ始めた。
「俺が知っている料理はおしゃれな料理や、美しい料理も数多くある。それを一緒に作ってみないか?」
研ぐモトコの手が止まった。なんとも言えない読めない表情をしている。
「私の料理がキレイじゃないって言うのかい?」
「そうじゃない。あんたならもっとキレイでおしゃれで美しい料理が作れるって言っているんだ」
モトコがまた腕を組み、考え込んだ。いつも即決をするモトコが悩むこと自体が珍しい。それ程、彼女にとって、「キレイ」、「おしゃれ」、「美しい」というキーワードはパワーワードだったということだ。
「いいだろう。あんたの話乗ってやるよ」
「ありがとう。モト……」
「その代わり、全く私の心に響かないものばかり作らせたら、あんたのその首ひん曲げてやるからね。分かったか?」
「あ、ああ……」
この角度から凄まれると腰が抜けそうになる。
俺はやはりこの女性が苦手だ。
理想としては守ってあげたくなるようにか細くて、それでいて母性を振り撒いて優しさに満ち溢れた女性。
もう誰かって言わなくても、分かるだろ?
ララーさんが俺の理想の女性だ! 最後まで言わせるな。馬鹿野郎。
俺が妄想に耽っていたら、冷たい視線を感じた。
殺意すら感じるその視線の主は隠しても隠しきれないオーラの持ち主。モトコ・ゴソウだ。
「あんたさっきから見ていたら、ますます気持ち悪いね。ブツブツと独り言を呟きながら笑ったり泣きそうになったりさ。料理の前にその根性を叩き直してやろうかね」
「根性の方はソングさんに叩き直してもらうよ」
「やはり口が減らないね。あの馬鹿ソングにそんな事ができるのかね」
モトコと唯一かもしれない共通点が見つかった。
ソングさんを馬鹿だと認識している点だ。共通点が見つかれば、人は相手に関心を持ち、親しみを抱く。
モトコをもっと知ってやろうと思えた。
「さっそくだけどね、ヒロト。あんたはこれまでにどんな料理を食べてきたんだい?」
「まずは揚げてみるか」
「揚げる……?」
「油はあるか? モトコ」
「ああ、あるよ」
そう言って放り投げてきたものは牛脂のようなものだった。
動物系の脂のみを使用しているらしい。どうりでステーキが飽きない訳だ。
この国には飢饉なんかは無いのかもしれない。
その為、この国の人々は肉を、魚をどれだけ上手く焼けるか。その1点に固執している。ホルモンなんてものは食べたがらない。せっかく美味しいのに。
食の幅を広げる為にも脂で揚げてみよう。
ただこの牛脂でどう油にするかだ。
残念ながら、俺は料理なんてのは素人だ。
唯一活かせる知識として、「3分クック」と「下沼笑子のべしゃりクッキング」ならほぼ毎日見ていた。暇だったしな。
俺のクッキング知識がこの世界での料理の幅を広げる……。
なんてクレイジーなんだ。
「なんだい? ブツブツ言ってたかと思ったら、一人で笑って。気持ち悪い」
「ああ、いやいや。こっちの話だ」
「それはどっちの話だよ」
俺は人差し指を舐めて、風向きを探し、風の吹く方を指差した。
「こっち?」
「分かったよ。あんたが馬鹿だってことが」
そう言って、モトコは肩を落とした。
「あんたの言うアブラはこの脂じゃダメなのかい?」
「この脂は塗る脂だろ。俺の言っている油は液体なんだ」
「液体ねぇ。それがあった所で、変わりゃしないとアタシには思えてならないがね」
モトコの諦めに似た眼差しを他所に、俺はない頭とない知識をフル活用して脂を油に変える方法を考えた。
この牛脂みたいな脂って、たしか焼き肉とかで使ったよな。
この脂をプレートの隅に置きっぱなしにすると、脂から液体の油が出てきて母親が嫌ったなぁ。
――――脂を焼く
こんな簡単なことに気付かなかったのか。俺は!
とりあえず、脂を炒めるか。
モトコが常時絶やさず残している種火から火をつけてもらい、フライパンに牛脂のような背脂を置いた。これで、油ができるはずだ。
とりあえずフライパンを眺めていた。だが、することがない。
モトコも夜飯の仕込みで忙しそうだ。仕込みと言っても、肉や魚への下味付けや、米とパンの準備がメインのようだ。
焼き肉をしている時だって、牛脂は適当に端に追いやっていたら勝手に油を出していた。だから、このまま放置しておこう。
することがないと改めて自覚すると睡魔が襲ってきた。
大きな欠伸を2つ。
ちょっとだけ、ちょっとだけ……。
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「こらーー!!!起きやがれ!!」
怒声とともに跳ね起きた。
視界を定まらず、口から流れた涎を拭っていると、頬を平手打ちされた。
バチン!!
「ヒロト! どうしてくれるんだい! あんたが火の加減を見ていないから、フライパンが焦げちまったじゃないか!」
「へ?」
「あんたみないな素人を厨房に立たせたアタシが馬鹿だったよ。仕事を増やしただけじゃないか!」
よく分かっていない内に、もう1発平手打ちが飛んできた。
バチン!!
1-1
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この物語の1話目です。
是非こちらからも見て下さい。
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