3-5
アンジャッシュのコント好きなんですよね~。
皆が帰ってきて、夕飯を食べていた頃、アットヴァンスのじいさんがやってきた。
俺に相談したいことがあるのだという。
アットヴァンスは神妙な面持ちで、言い難そうにしながら「人のいない所がいい」と言ってきた。
俺の脳裏にはある出来事が過ぎった。
――――また俺の唇が奪われるかもしれない
ブラックウコーンを討伐した後、俺はサラが派遣してきた兵士の男に吹き矢で殺されそうになる。いや、厳密に言うと一度殺される。
吹き矢の針には猛毒が塗ってあり、兵士の男は生き返ることがないと主張をした。
そこで助太刀に入ってくれたのがアットヴァンスだった。アットヴァンスは医者ということもあり、俺の身体が通常の人間とは違うことを薄々と気付いている。
それもあって、一芝居をうってくれたのだ。
最後に人工呼吸という荒業をやってのけてくれた。そのことで俺の事を「アンデッド」かもしれないという憶測の渦からギルドの皆を救い出してくれたのだ。
そのアットヴァンスが神妙な面持ちで、俺と二人っきりになりたいと言ってきている。
これはもう、予測とかなんかを考え込む必要もなく、ある答えが導き出されてしまうのだ。
――――アットヴァンスが男に目覚めた
俺もBLというものが女性の間で流行っている事実は、日本で自主的に自宅警備をしていた身としては知っていた。
ただBLというものは、美男と美男が行ってこそ映えるのだ。
こんなちんちくりんの若者とおそらく還暦を迎えたであろう偏屈なじじいとのラブなんかには興味は持たれない。いや持ってもらいたくない。
そして俺は、朝方に神と約束を交わしている。「ハーレムを作る」と。
男の、それも還暦ぐらいの偏屈なじいさんとのメイクラブなんてものを嗜んでいる時間は俺にはない!
アットヴァンスの気持ちは嬉しいが、ここは変に期待を持たせず断ってあげるのが友情というものだ。
アットヴァンスを俺の部屋に案内した。
アットヴァンスは部屋のレイアウトやベッドの位置なんかを気にすることもなく、ただ俺だけを見ていた。
俺にそういう趣味があれば、あんたは幸せだったんだろうな。
そう思いながら、アットヴァンスの純情を弄びたくないと思い、思い切って言ってしまうことにした。
「アットヴァンス、気持ちは嬉しいのだけど、やはり無理だ」
アットヴァンスは表情を変えることもなく、目を伏せて独白するように呟いた。
「そうか。やはり難しいか……」
俺はベッドに腰を掛けた。
「俺たちはまだ出会って、ほんの数日じゃないか」
「お前の言う通りだな。ヒロト。ワシは踏み込みすぎたのかもしれない」
今、仮にアットヴァンスに襲われることがあれば、今までの彼の献身的な助けに対して、せめて俺の感謝の想いを込めて、唇だけならあげても良いとさえ思えていた。
それぐらい俺はアットヴァンスには感謝している。だが、それだけだ。
彼は今までも苦しんできたのだろう。それ故に人とあまり関わって来なかったのかもしれない……。
彼が唯一関わりを持ったのが、カニの葉を育てていた薬師の男。
――――薬師の男。
はっ! もしや……?
俺は意を決して、アットヴァンスに尋ねてみた。
「薬師の人にも……?」
いつも無表情なアットヴァンスの顔が少し動いた。
「その話は、今はしないでくれ……」
「やはり、それほどに……」
アットヴァンスが天井を見上げた。
「伝えるべきだった。そう思った頃には、もう手遅れだったがな」
やはり俺はアットヴァンスに感謝している。
「アットヴァンス……」
「だから、次は手遅れにだけはしたくなかったんだ」
アットヴァンスが一歩近付いてきた。
アットヴァンス。あなたへは感謝はすれども、その感情が恋愛に昇華することはない。
俺が神と約束した内容を伝えてやるべきだ。「ハーレム」を作ると誓ったことを。
――――よし
「アットヴァンス」
「なんだ?」
気まずい空気が流れている。しかし、これを破らないといけない。彼の為にも。
「俺はある人……、いや、ある者と約束をしたんだ。俺は女性たちと生きていくって」
「うん……。うん?」
「すまない。俺はあんたを性的な目では見れない。初めてのきっかけが人工呼吸というベタベタな展開でも俺はあんたの気持ちに応えることができないんだ!!」
アットヴァンスは俺から目を逸らし、考え込む仕草をした。
「ヒロト。お前さっきから何を言っている。お前は頭が悪いとは思っていたが、まさかここまでとはな」
「あんたの減らず口も、今では可愛く見えてきたよ。照れ隠しなんだもんな」
アットヴァンスは呆れた。といった表情をしている。それもそうだろう。自分の強がりを見抜かれたのだから。
「おい。ヒロト。お前の頭の中が常にお花畑なのは充分分かった。だから、率直に本題に入るぞ。お前、これまで少なくとも3度は生き返りをしているな?」
――――ん?
「アットヴァンス、ちょっと待ってくれ。今日は何の話で俺に会いに来たんだ?」
「お前の生き返りについて、聞こうと思ってだ」
「え? じゃあ、俺に惚れてた訳ではなく……?」
「お前は本当に馬鹿だな。何を持ってそんな発想となるんだ。人工呼吸のことか? では何か。医者は生命の危機を救う為に人工呼吸をする度に誰かに恋し続けなけりゃならんのか? 馬鹿も休み休みに言え」
あれ? 俺が思っていた展開と違うな。え? 俺今、すっごく恥ずかしくない?? すっごく恥ずかしいって!!
「馬鹿なお前だが、お前には特殊な能力がある。そしてお前はそれについて気付いているはずだ」
俺の生き返りについて勘付いている。それを言われれば、人工呼吸の時にも気付いているだろうと思えた。
もっと遡るとノーマルウコーンに殺された時。その前で言うと、カニの葉を採り行って小屋で石に後頭部をぶつけて死んだ時。
先ほど、アットヴァンスが言っていた3度の生き返りについて、アットヴァンスは確かに俺が生き返ったとしか思えない状態になったのを知っている。
俺が何も答えないでいると、アットヴァンスが面倒そうに話し出した。
「まぁ、話したくはないだろう。だが、ワシは医者だ。お前の力になってやれるかもしれん。医者には守秘義務もある。その点は安心しろ」
「力になるってどういうことだよ?」
「お前の症状、いや、能力か。お前はそれがどんなものなのか全て分かっている訳ではあるまい」
「いや分かっているさ」
「ほう、では何回までは死んでも生き返るのだ? 手を切断した出血死の場合、生き返った後、手はどうなる? 心臓が抉られればどうなるのだ? 」
「いや、それは……」
アットヴァンスが肩に手を置いてきた。
「お前の知っていることと、ワシの医療の知識で見えない部分を明らかにしていこうじゃないか」
「なぜ、そこまで……?」
「お前は死なないことを良いことに、危なっかしいことばかりしておるように見える。その内、死んでしまうだろう。何もせず死なすのは医師として寝覚めが悪いんでな」
アットヴァンスがそう言って、ぎこちなく笑った。
アットヴァンスが笑ったのを見たのは2回目だっただろうか。
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この物語の1話目です。
是非こちらからも見て下さい。
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