3-4
今回、ヒロトは脈々と語り継がれる日本伝統の舞を披露する!
「何かないかのう? なんでもいいんじゃが。異世界でやりたいことがあったじゃろ?」
「……。じゃあ、ハーレムかな……」
なんか照れてしまった。自分でハーレムが良いなんて普通言わないだろうし。
「これまで女の子と無縁だった私が、この世界では平然と会話までしています。これは自分でいうのもなんですが、驚くべきことなんです。こうなれば、驚きついでに私が異世界系で好きなハーレムを味わいたいという欲望が湧いてきました。もう文字や画の中だけで満足するのは無理なんです!」
神が感嘆の声をあげ、拍手し出した。
そして、笑顔で何度も頷く。
「そうじゃ、その意気じゃ! 日本という国とは違って、ワシのファンタジー世界では一夫多妻もその反対の多夫一妻も普通じゃ。ワシの理念に反するからの。じゃから、ハーレムも容易じゃぞ!」
「よし! よしよし!! 私はハーレムを作ります!!」
「クリアすることも忘れるでないぞ……」
妄想が妄想を呼び、決めたガッツポーズを上下に動かした。
自分でも計り知れない程に興奮している。
うおおおおーーーー!!!
ハーレム王に俺はなる!!!!
■ ■ ■ ■ ■ ■
気付くと、ベッドの上で上半身だけ起こして、両拳を振り上げていた。
今のは、夢、か……?
振り上げていた手のひらを見ると、なにか書かれている。
≪クソア と ハレム≫
クソア? ハレム?
手のひらには意味不明な単語2つが恐らくマジックのようなもので、しかも汚い字で書かれていた。擦っても消えない。
これってまさか。あの神が「クリア」と「ハーレム」と書きたかったんじゃないのか?
日本語も習ってないからとりあえず、頑張って書いたのかもしれない。
ということは……、あれだ。俺はあれをやらねばならん。
本来ありえないことが実際に起きたんだ。
一人で恥ずかしいが、俺も日本人だ。小さい頃からアニメ漬けで育った日本人だ。
その誇りを忘れてはならない。幸いなことにこの部屋には俺以外誰もいない。
一人なら恥ずかしさなんかとは無縁でいられる。
俺はベッドから颯爽に跳ね起きて、部屋の隅まで歩いていった。
両手を胸の前で合わせ、のそりのそりとガニ股で歩き出す。
合わせた両手をゆっくりと、しかし力強く上へ上へと押し上げていく。
大きく息を吸った。
「夢だけど夢じゃなかったー!! 夢だけど夢じゃなかったぁあぁぁぁぁ!!!」
絶叫しながらも部屋2周ぐらいは続ける覚悟だ。
大丈夫。この空間には俺しかいない。真っ黒で、かわいいアレもたぶんいない。
一心不乱だった。日本の誇り。俺が崩してはならない!
一段と大きく息を吸った。まだ吸った。吸うことだけに囚われず、踊りにも集中しながら……
「夢だけどぉぉおお、夢じゃぁああ、なかったぁぁぁぁあああぁぁぁ!!!! 夢だけどぉぉぉおおおお、夢じゃなかったーーーーー!!!!」
バン! ドタン!!
「ヒロトーー!!」
「死なないでーーー!!!」
血相を変えたソングさんがドアを蹴破って入ってきた。
ワンテンポ遅れて、シルファも部屋へ飛び込んできた。
俺はちょうどその時、合わせた手のひらを高く高く、上へ上へと伸ばしていた所だった。ガニ股で。
顔だけを二人に向けた。変な汗が噴き出してきた。
ガニ股の脚もプルプルと震えだした。この態勢は意外と辛い。維持が難しい。
「ど、どうしたんですか? 二人とも……」
「どうしたもこうしたもねえよ!! ヒロト、お前の部屋から急に『カーレム』って叫ぶ声が聞こえて皆飛び起きたんだ。カーレムっていえば、麻薬草の一種だからよ。そしたら、お前が今度は『夢だけど夢じゃなかった』って叫びまくるじゃねぇか。これはヤッてるなと」
ソングさんが鼻から何か怪しいものを吸うような仕草をした。
「そんで手遅れになる前にお前を助け出そうと思ってよ、鍵の掛ったドアを蹴破ったんだ」
「そ、そうでしたか……」
ゆっくりと、高々と掲げていた両手を下ろしていった。
ガニ股も踵と爪先を交互に浮かせて、できるだけバレないように自然な状態に戻した。
まだ脚が震えている。
ガニ股は思った以上に身体を苛めるのだ。
「心配してくれてありがとうございます。いや、これはですね。その、なんだ。えーと……。俺たちの…………。はっ! そう! 俺たちの国で神に感謝をする時にやる踊りなんですよ」
シルファがホッとした顔をし、胸を撫で下ろした。
髪が一部はねている。急いでやって来たのかもしれない。白のワンピースのような寝間着を着ている。 とても暖かそうだ。
「良かったです。私ヒロトさんが『ハーレム』と叫んでいたのかと思って、この方はとうとう頭がおかしくなったのかと思ってしまいました。すみませんでした」
「はははは……。そ、そんなこと言う訳ないじゃないか。ハハハハ……?」
もうこれは、笑ってごまかすしかない……。
「でも良かった。お前が麻薬もやってなくて、頭もおかしくなってなくてよ。信心深く、神に感謝していただけなんだ。と、俺からみんなには言っておいてやるかよ。そのヘンテコな踊り、まだ続くんならやっていてもいいからな!」
ソングさんの何も疑っていない。眩しすぎる笑顔。
こういう時、馬鹿は信じ込ませやすいけど、跳ね返ってくる罪悪感がすごい。
「私もヒロトさんがいい気になって、奴隷を買い漁ってハーレムでも作る気なのかと思いましたよ」
「ハ、ハーレム? そ、そんな訳ないだろ?! あの、そのあれだ。あの時言っていたのはハーレムじゃなくて、そう、ターレムだ!! 俺たちの国では感謝の時は神をターレムと呼ぶんだ」
嘘に嘘を重ねている……。その自覚はあるけど、もう止められない……!!
自己防衛の為の、誰も傷つかない嘘はいいんだ。だって、本当のことは話すと長い。
ト○ロの説明からしないとならなくなる。
「ターレムですか。ヒロトさんそれって、どういう意味なんですか?」
「え? シルファそれ聞く?」
「ええ。だって気になりますし」
「ん~と、なんだったかな~。わっしょい、わっしょいっていう掛け声のようなものかな」
「わっしょい? それも掛け声なんですか?」
「そうだよ。俺たちの国では、神は数多くいると信じられている。何にでも神が宿るんだ」
「そ、そんな奇天烈な」
「ターレムもそんなもんなんだ。シルファ、君が気にする必要はないよ」
着替えるから、部屋を出て。と二人の背中を押して、部屋から追い出した。
ソングさんが蹴破った扉を申し訳無さそうに、とりあえず雑にはめた。グラグラしているままだが、俺もプライバシーはそれなりに守られることになった。
1つ息を吐いた。ベッドの上に座る。
危なかった~……!! ハーレムを作るって叫んでいたなんてことが知られたら、あの感じじゃシルファは俺を軽蔑するだろうな。
そそくさと着替えて、部屋を出た。ドアごと動かして、部屋は開けっ放しの状態になった。
とりあえず今日は疎かになっていたララーさんの手伝いを目一杯することにした。
シルファも手伝うと言ってくれたので、3人で他愛のない話をしながら食器を洗ったり、部屋を掃除したり、ドアを付けたりした。
こんな日もあっていいんだ。と、久しぶりの平和な日を噛みしめて過ごすことができた。
だが、それも長くは続かなかった。
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この物語の1話目です。
是非こちらからも見て下さい。
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