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3-3

 目を閉じた瞼の向こうに眩しさを感じ、目を開けた。

 そこには、寝ていたはずのベッドもなく、木で作られた壁、そして机もない。床もあるのかさえ疑わしい。

 一面、白に包まれた空間にいた。


 なんだ、ここは……?

 あれ? なんか見憶えがあるような……。


「ワシじゃよ」


 どこかからか声がした。

 周囲をキョロキョロと見渡した。何も見えない。


「ここじゃ」

 

 声のする方を見た。


「もうちと、右じゃ」


 右?


「ああ、違う違う。ワシから見て右じゃ。お主にとっては左じゃ。分からんかのぉ」


 面倒臭えな。こいつ。左?


「そんな怒らんでもよかろ?」


 何か漂うようなものが見えた。


「神じゃよ」


 白髪に白髭。白いローブを纏った老人がそう言った。

 あれ? こんなじいさんだったけな?


「お主、せっかく会えたというのに神の顔も忘れてしもうたのか??」

「まさか2度目の転生ですか? 今度はまた別の神でも怒らせてしまいましたか?」


 神ことファンタジー神が嘆くように溜息をつきながら、首を横に振る。


「お主、今すごい達成感じゃろ?」


 俺は胸を張った。未だかつてここまで胸を張って人と話せたか怪しくなるぐらいに胸を張った。


「今までにおれ、いや、私はここまでの達成感を味わってきたことがないですね」

「それじゃよ。少しお主が心配でお主を観察しておったのじゃ。ワシらは少し未来も見ることができる。お主に関してはRPG神もなぜか熱心での。未来も含めて、まるで人間が育成系のスマホアプリをするぐらいの感覚でチェックしておっての」


未来が見える?

 いや、それよりだ。育成系のスマホアプリぐらい……?

 おいそれって、むちゃくちゃ監視されているってことなんじゃないのか。


「そうじゃの、監視じゃの」

「だから人の心を読むなっつうの!」


 あ!! またやってしまった。曲がりなりにも神に対して。

 俺の後悔の念には構うことなく、神はが何かに手を(かざ)した。

 すると、頭の中で情景が浮かんできた。思念か何かを送ってきているのかもしれない。


「お主の明日以降の動画じゃ」


 映し出された映像は、天井の隅に監視カメラを仕掛けているかのような角度から定点映像だった。

 部屋は俺がいつも寝起きしている部屋のようだ。窓の外の明るさを見る限り、朝のようだ。

 

「あ、あのぉ、これ動画って言いましたよね?」

「神を疑うか。罰当たりな奴め。そうじゃよそれは動画じゃ」

「待ってください。これは動画のはずなのに、なぜ私はずっと止まっているんですか? 全く動いてないように見えるんですが」

「こっちが聞きたいたいわい。では早送りするぞ」


 動画にこれと言って変化はない。俺が寝返りをうっているぐらいなもんだ。

 ずーっと早送りのままで日が暮れた。


「この動画はいったい……」

「じゃから、明日のお前さんじゃと言っておろうが」

「なぜ私は部屋から出ようとしないんですか?」

「お主、先ほど達成感があったと言っておったな」

「確かに。確かに言いました。しかし、それとこれとが何の関係があるというんですか?」

「お主、燃え尽きたんじゃよ」

「え?」

「そう、本当の廃人じゃ。圧倒的達成感が虚無感に変化したのじゃ」


 そうか、俺はRPGでもいつも大きな達成感を味わった直後、毎日していたそのゲームに急に関心を無くすことが多かった。


 達成感からの虚無感……。


 皆の信頼も得られて、ララーさんやシルファとも仲良くなれて、巨額の富を手に入れて……。

 それで俺は満たされて、何も感じなくなってしまうのかもしれない。

ゲームの山場を迎えただけで満足してしまう俺にとっては、今回の達成感は今までに感じたことのないものだった。


「う~んとね。要するに早い! すんごく早いのよ。燃え尽きるの早いわー。ワシなんか何年、神してると思ってんの? 若者特有の飽き性? クリアは? ねえ、クリアするって約束したよね?」


 そういえばクリアするとか、適当に言っちゃったなー。

 こっちの世界に来て、10日ぐらいか。自分でも早いと思っちゃうな……。


「やっと思い出した? クリアするんだよね? まだ10日程しか経っておらんのじゃぞ。いくらなんでも早すぎるわい! ワシも驚いたぞ。RPG神なんか怒り狂っての。お主を自ら殺しに行くと。こちらの世界に強行突破してきそうじゃったんじゃ。それをワシらは総出で抑えにいったんじゃ」

「そ、それはお気の毒でしたね……」

「はんっ! 気楽なもんじゃな。お主のせいで、天界も大変じゃ」


 まぁ、俺には関係ないが。


「関係あるよぉぉぉ~!! 関係あるじゃろぉぉおお!!」

「人の心を読まないでもらえますか?」


 素っ気なく、流し目で神を手で制した。

 神なんて偉そうにいっても、こいつらも結局は自分のことしか考えていない人達なんだな。

 俺がそんな人達のの言うことをなんで聞かないとならないのか。そう思ってしまうよ。

 RPG神に殺される? 死を恐れて縛られながら生きることに何の意味があるのかと。


「人とは身勝手じゃの……」

「悪く思わないで頂きたいのですが、私も一人の人間として生きていきたいと思っています」


 肩を落としたファンタジー神。ペラペラと本を(めく)る。

 そして、フムフムと頷いて、時に「なるほどのぉ」と呟く。


 何を読んでいるんだろう?


「人間とは惨いことをしてきたのじゃのぉ。首を斬ったり、吊ったりするならまだしも。楽しんでいるかのような刑罰もしてきたようじゃ」


 この人、何の話をしているんだ?


「例えば、『鋸挽(のこぎりび)き』なんてものがある。逆さ吊りの状態で股から鋸を挽いていくのじゃ。惨いのう。鋸じゃから、痛さ倍増じゃ。簡単には殺してもらえん。それと『串刺し』というのも胸糞悪いの。肛門から口に槍を刺し貫いて、槍を地面に立てるそうなんじゃ。お~怖い。『皮剥ぎの刑』はもう、言葉そのままじゃな」


 そう言って、ペラペラと本を捲り続ける神。

 口から出てくる単語は刺激的なものばかりなのに、神は陽気にそして暢気に居酒屋でメニューでも選ぶかのように喋っている。

 その不釣り合いな雰囲気からか額に嫌な汗がじわりと出た。背中を汗が(つた)った。


「あ、あのぉ……。何の話ですか?!」

「まぁ、待て。皮剥ぎに近いもので『凌遅(りょうち)刑』なんてものもあるのう。小刀で身体のあらゆる所の肉という肉を少しずつ、少しずつ削ぎ落とすんじゃそうじゃ。人間は恐ろしいのう」

 

 そこまで言って、神は本を()じた。本に目を落としたまま、本を皺だらけの手で大事そうに(さす)る。

 目を伏せたまま、訥々(とつとつ)と話し始めた。


「RPG神は本気でお主に怒っておる。遊びではない。お主ら人間にとってRPGは遊びかもしれんが、奴にとってはRPGこそ全てじゃ。RPGを侮辱されることは己自身を否定されるも同一じゃ。禁忌とされる自ら手を下すことも(いと)わぬ。といった様子じゃ」


 顔を上げ、俺の目を見てくる神。今までに見たことがないような真剣な表情だ。


 このじじいは、神の権限を使って俺を脅している……。


「人間は惨いことをする。その反対に神は慈愛の心を持って接するとお主は思っておるのかもしれん。しかし、神が心の底から怒る神罰を舐めてはならん。人間が考えもつかぬ恐ろしい罰をお主は受けるやもしれぬ」

「…………」

「お主は、ワシがお主を脅していると思っておるが、これは脅しではない。警告じゃ。次にRPG神が怒り狂うと、もうワシらでは奴を止めることはできぬ」






――――分かりました……。


「承諾してくれて、助かったわい。ワシもRPG神が、たかが人一人に対して怒り狂う所など見とうなかったからの」


 納得しないまま、了承をしてしまった。

 釈然とせず、首を傾げた。


 神の怒りが恐ろしいということは理解したが、もう決まってしまっている未来をどう変えるんだ?


「お主が目指すのはクリアじゃ。それはもう変えられん」


 神との約束……、ということか。


「そうじゃな。神との約束じゃ。良いことを言うの。じゃが、クリアとは長い長い道のりじゃ。友もカネも手に入れた。そして、家族以外の女性と初めて仲良く話せたお前じゃ。達成感で満たされているじゃろうが、何か別の目標を考えてみてはどうかの」


 腕を組んだ。やはり首を傾げた。

 

 目標……?


「やはりお主は成行きに人生を任せた、日本という国によくいる若者の一人じゃったんじゃな」


 ああ、そうですよ。


「何かないかのう? なんでもいいんじゃが。異世界でやりたいことがあったじゃろ?」

「……。じゃあ、ハーレムですかね……」

1-1

https://ncode.syosetu.com/n1211ff/1/"

この物語の1話目です。

是非こちらからも見て下さい。


2-1はこちらから!

https://ncode.syosetu.com/n1211ff/12/


3-1はこちらから!

https://ncode.syosetu.com/n1211ff/34/


参考URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%88%91%E7%BD%B0%E3%81%AE%E4%B8%80%E8%A6%A7

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