2-22
また坂を上って待機することにした。
ソングさんに化けていたキツネのモンスターはその場で息絶えていたので、坂の下に転がしておいた。
ブラックウコーンに刺されたモンスターは足を刺されただけだったので、やはり生きていたらしい。
どこかに逃げてしまったらしい。
くそ!胸糞悪いことをしてくるモンスターもいたもんだ。
おっと、俺もこの世界に来て、かなりワイルドになっちまったな。
ブラックウコーン3羽倒した内、1羽が鳴いた。鳴いた1羽は苦しむような素振りもあまりせず死んでいった。鳴いて死んだ方が楽に死ねているのかもしれない。
まだ木の板の音を叩く音は鳴り続けている。
しかし、予め決めていた回数とは違う音も聞こえてきている。かなり複雑な気もした。
もしかしたら、ダイナスティを中心に新しい通信手段を即興で考えたのかもしれない。
まだ来ないのか?!
そんなに距離は遠くないはずなんだが……。
その時、地響きのような音が聞こえてきた。
日本人の俺は瞬時に悟った。これは地震だと。
態勢を低くし、地震に備えた。
これは相当大きい地震かもしれない。
ドドドドドド!!!!!
草も揺れ出した。
草の揺れが大きくなるにつれ、地響きも大きくなる。
ゴゴゴゴゴゴ!!!!!
突然、ダイナスティが飛び出してきた。続いて他のメンバーも出てきた。全速力で走ってきている。
それだけではない。後方から黒い何かが、いや波がうねりを打って近付いてくる。
「ヒロトーー!!! 下に行ってろーーー!!!!」
ダイナスティが絞り出すように叫んだ。
必死に走るダイナスティ達の後ろから来ていたのは、よく見ると黒い波に見えていたものは、全てがブラックウコーンだった。
ドゴドゴドゴドゴドゴドゴ!!!!!!!
――――の、呑まれる……
動こうとしなかった脚を思いっきり叩いた。
自分でも驚くぐらい脚が跳ね上がった。
走れる!!
急いで、坂を駆け下りた。どうせ転がるのは分かっていた。それでも駆けた。
案の定転んだ。そして、跳ね起きた。
ダイナスティ他が坂を駆け下りてきた。皆が中腹程まで来た所で、ブラックウコーンも雪崩れ込んできた。
ガガガガガ!!!!!
倒れていた者に中にはブラックウコーンに重なられた者もいた。
ざっと見て、40羽はいるかもしれない。
20人全員全速力で走り続けたことと、坂を転んだ衝撃から起き上がることができない。
今、朦朧として立てずにいるブラックウコーンの意識がはっきりしてしまうと大変なことになる。
急いで1羽ずつの首を掻っ捌いていった。
――――こいつらには指一本触れさせない……!!
キューン……。
ウコーンは殺す時に可愛く鳴く。こんなに強いモンスターのブラックウコーンでさえ、可愛く鳴く。それがなんとも恐ろしかった。
10羽目にさしかかると、さすがに中には立ち上がろうとする個体が出てきだしていた。
立ち上がろうとする個体から殺していく。
手が真っ赤になっていた。顔も血を浴びたようになっているだろう。
効率だけで考えれば、近い順番に裂いていく方がいい。しかし、起き上がってしまうとブラックウコーンの俊敏さは俺の手には到底負えない。
俺が1度生き返れると言っても、生き返った途端また刺されれば一緒だ。決して不死身ではないんだから。
また起きそうな個体がいた。すぐさま近付いて首元を斬った。
「ひ、ヒロト……。う、後ろ、だ……!」
声がした。振り向くとブラックウコーンが起き上がっていた。だが、まだ朦朧としている様子。
時間は掛けられない……!!
「うわああぁぁぁっぁぁあああ!!!」
ブラックウコーンが首から血を吹き出し倒れた。
それより誰が声を掛けてくれたのか。
顔を振り、辺りを見回すと一人笑っていた。ダイナスティだ。
胸が上下させ、まだ仰向けに寝転んでいる。息が整わない中、振り絞って危険を告げてくれた。
「へへへ、ヒロト。お前真っ赤じゃねぇか。まるで赤鬼だな……」
他にも喋れはしなくても顔をこちらに向けている者が数人いた。皆俺を応援してくれている。
俺が仕留め損ねると皆の死に繋がる。
無駄話をしている暇はない。こいつらを救う為なら鬼と呼ばれようと甘んじて受けよう。
キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。キューン……。
頭がおかしくなりそうだった。可愛い鳴き声が聞こえる度に俺は生き物の命を奪っている。こんなの狩りなんかじゃない。虐殺だ。
殺すことに慣れるとそんなことを考えてしまう。
ソングさんとアットヴァンスもなかなか現れない。もしかしたら……。
「ヒロト!来るぞ!!」
左後ろからブラックウコーンが跳んできた。左腕に肉を一部持って行かれた。
「う゛ぅぅぅ……!!!」
まだだ!!突っ込んできたブラックウコーンは足元がふらいついていた。まだ混乱しているんだ。
右腕一本で首に剣を刺した。
キューン……。
ブラックウコーンが倒れる。
俺も膝をついてしまった。今まで味わったことのない、死への恐怖、緊張、責任、憎悪、焦り、罪悪、慣れ……。そして疲労。
鉄っぽいすっぱいようなツンとした臭いがあたりに充満していた。嗅覚が麻痺して、いや、慣れて、いや、鼻と脳が臭いを判断するのを拒否しているのかもしれない。
本来は吐き気がする程の臭いのはずだ。
全てが重くのしかかり、膝をついた。剣に抱き込むように立膝の状態でいるのが必死だった。
ダイナスティがふらつきながらも立ち上がった。
「続きは俺がしてやる。お前は休んでろ……!!」
そうは言っても、ダイナスティは千鳥足のようにおぼつかない。大丈夫だろうか……。
急に空が暗くなった。
「う、嘘だろ……!!」
誰かがそう言った。言われて見上げると、何かが覆う被さるようにしていた。
5mはありそうな熊。獅子の鬣がついた熊みたいなモンスターがいた。身体中は、虎の模様だ。
鋭い爪に大きな口。涎を垂らしながらが見下ろしていた。
この熊からしたら、ここは絶好の狩場だろう……。
グオオオオオオオオオオ!!!!!!!!
熊が吠えた。もしかしたら、喜びの雄叫びを上げたのかもしれない。
なぜか、そんなことを考えてしまった。
熊が反り返る。反動をつけて顔を突っ込んでくるんだろう。
まるで蜂蜜を食べるのかのように俺たちの臓器や筋や骨は食べられるのかもしれない。
熊と目があった。熊に表情筋があるのかは分からないが、笑っているように見えた。
「ガハハハハ!!!!」
ああ、この熊は嗤うのか。まぁモンスターだからな。熊のようで熊じゃない。
その熊の顔を変形した。いや、上に何かが乗っている。
ハンマーのようだ。だが、人が持つには大きすぎる。いや、俺はアレを持つ人を知っている。
――――ハンマーフォールさん!!!
「ガハハハ!!!!」
ハンマーフォールさんが熊に載せたハンマーに力を入れると、5mはあった熊が瞬時に打ちに縮んでしまった。まるで金槌で釘を一発で打ち込むように、文字通り『ぺしゃんこ』になった。
俺は気を張って立膝で踏ん張っていたが、安堵からか尻を地についた。
尻に恐らく血が浸みてきたが、それも気にならなかった。
よろつきながらもブラックウコーンを仕留め続けていたダイナスティも振り向いた。
「「「ハ、ハンマーフォールさん!!!」」」
一瞬の油断だった。仕留め損ねていたブラックウコーンがダイナスティに突っ込んでいった。
キューン……。
ブラックウコーンの情けない鳴き声がした。
クライフがダイナスティの前に立っていた。
見ると、ブラックウコーンを両断している。分厚い装甲ともいうべき、あの皮ごと斬ったのだ。
「「「クライフ!!!」」」
皆が立ち上がりつつあった。もう仕留め損ねたブラックウコーンが見当たらなかった。
「クライフ、お前は小さいのが相手で良かったな」
「その熊、トラベリオンは結構良い値がするんですよ。それをハンマーフォールさん。あなたは、あんなにぺしゃんこにして」
「力加減が難しいもんでな。ガハハハ」
そう言って、ハンマーフォールさんがトラベリオンと言う熊のモンスターだったもの、今は黒いフリスビーにしか見えないが……。
それをクライフに投げつけた。
クライフは避けて、ダイナスティにぶつかった。イテ!
「おいおい良い所を取られちまったようだな」
「護衛の時点で損な役回りですよ」
この声は……。
1-1
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この物語の1話目です。
是非こちらからも見て下さい。
2-1はこちらから!
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