2-21
皆で鹿のようなモンスターを食べる準備を始めた。
吊るしてから捌き始める者。火を起こす者。香草を探しに行く者。
腹を捌くと内臓がドロリと出てきた。湯気も立っている。ピンクに近い色をしているのは、新鮮な証拠らしい
「ソングさん。内臓どうするんですか?」
「ヒロト。お前は内臓なんてモン食べるのか?こんなのは捨てるに決まってるだろ?喰えたもんじゃねぇ」
前から思っていた。この国いや、村ならではなのかもしれないが、魚や獣の内臓などは一切食べない。それだけ食糧が豊かってことなのだろうか。
味付けもシンプルなものが多く、焼いた料理以外見たことが無い。米や麦は食べるようでパンのような物も食べたことはある。
ただ、食べ物はいつも単調だ。美味しいからまだ飽きてはいないが、これも考え物だな。
切り分けた肉に先端を削った木の棒を刺して、火の傍に突き立てていく。
「火の近くにし過ぎるんじゃねぇぞ。じわじわと焼くんだ。だが、喰うまでにリミットもある。離し過ぎるなよ!」
むちゃくちゃな指示だ。でも確かにこの村の人々は肉や魚の火の入り方にうるさい。一番美味い状態で食べる方法を知っていると言ってもいい。
皆が火を見つめ、今か今かと待ちわびている。
肉からは肉汁が滴り、それが落ちると「じゅっ」と音がする。香草を塗ったおかげで肉の焼ける匂いと香草の香りが嗅覚を刺激する。
ヴァンデン・プラスが1串持ち上げて火の入り具合を確認した。
「いい具合です。では食べま……」
ヴァンデン・プラスが言い切る前に皆が我先にと串を奪い取るように掴み、貪り始めた。
皆いい顔をしている。今からランクAの強敵モンスターを倒しに行くとは思えない程に。
腹を割った会議ができて、短時間でこのメンバーだけで食事もできたのは良かった。
皆はあっとういう間に食べ終わって、手についた肉の脂を舐める者をいた。
俺はまだ食っていたが、そのまま食ってていいと言われた。
「ヒロトが飯を食うのが遅いのぐらい俺らでも十分承知だ。その間に俺たちは配置につくさ」
ダイナスティは振り返りながら言った。彼がいれば、ソングさんもヴァンデン・プラスも護衛に徹底することができるだろう。
20人には予め用意させた木の板を2枚重ねたカスタネットのような物を持っている。
位置に着くと1回、ウコーンが現れた時には3回、別のモンスターが現れた時は5回、救援が欲しい時は10回(無数に叩く)と伝えてある。
俺の場所からは聞こえないかもしれないが、こうしておくとで、仲間内での状況が把握できる。これをソングさんやヴァンデン・プラスそして、ダイナスティ達が活かすこととなる。
俺は通常の戦闘になれば足手まといなので、走ることも認められなかった。ソングさん曰く、俺が走るスピードはハイハイをし始めた頃のソングさんぐらいの遅さらしい。
それは言い過ぎだとは思うが、今日ほどもっと鍛えておかなかったことを恨んだ日はない。
――――ターン
木の板の音が1回ここにも聞こえた。
続けざまに別の方向から4つ、その後も聞こえてきた。
これで全員が配置に付いたということだろう。
――――タン!タン!タン!
ブラックウコーンが現れた!!
――――タン!タン!タン!
また聞こえた。
――――タン!タン!タン!タン!タン!
別のモンスターが現れた!!
それから木の板の音が幾度も聞こえてきた。
3回だったり、5回だったりと。
俺は様子を見る為に坂を上った。
森の奥の方で見え隠れしていてよく見えないが、あらゆる所から木の板の音が聞こえる。
板のけたたましい音に隠れるように、草が擦れる音がする。
それは皆が必死に駆け回る音だ。
まだ遠くて音しか届いてこない。
獣の嘶きが聞こえた。恐らくソングさんかヴァンデン・プラスがモンスターを倒しているのだろう。
草を掻き分ける音が大きくなってきた。
一人がこちらに向かって走って来ていた。後ろには3羽ブラックウコーンが付いてきている。
下を向いて必死に走ってくる。顔は見えないので、誰かは判断が付かない。
ブラックウコーンも跳躍を活かした突進と自慢の一角で突こうとしてくる。
「ひぃひぃぃぃぃいいい!!!」
「頑張れ! もうすぐだ!」
追いつけないことに苛立ったのかブラックウコーンの1羽が高く跳躍した。そこから急降下した。
グサッ!!
走って来ていた仲間のふくらはぎをブラックウコーンに刺された。
刺されたことで、全速力で逃げていた仲間だったが、引き戻されるように倒れ込んでしまった。
よく見ると、ふくらはぎを刺したブラックウコーンは、角が足を貫通し、地面に突き刺さったまま垂直に浮いているような状態になっていた。
全速力で走っていたので、仲間の胸を上下に膨らんでいる。伏せた状態なので、息がし辛そうだ。
それでも顔を上げ、精一杯声を張り上げた。
「嫌だ。嫌だ! 俺は死にたくない!! 助けてくれよ!! 仲間だろ!!」
言われる前に向かっていた。
俺は走るのも速くはない。腕も全然だ。だが、助けを求めている仲間を見殺すことなんかできない!!
急に黒い何かが目の前を通り過ぎたと思ったら、右頬に衝撃が走った。
新手のぶ、ブラックウコーンか……!!
ブラックウコーンではなく、ソングさんだった。
「目を覚ませ! お前が死んだらどうする?!大事な命だろうが!」
「じゃあ! あの人が死んでも良いって言うんですかっ!?」
必死だった。
俺を助ける為に誰かが死ぬのなんか絶対におかしい。命の重さは一緒のはずだ!
「放っておけ」
「何でだよ!? ソング!!!」
俺はソングさんの胸倉を掴んでいた。呼び捨てにもしていた。
でももう抑えられない。
「落ち着け。落ち着け!君!! 俺たちの仲間にあんな顔をした奴がいたか?!」
――――え?
ブラックウコーンにふくらはぎを刺された仲間の顔をもう一度見た。
確かに、あんな顔の仲間はいなかった……。
気が動転していて、色々と気付かなかったんだ。色々と。
「ソング。ありがとう。間違う所だったよ」
「ああ、お互い様だ」
俺はソングさんの腹に剣を刺した。ソングさんの腹からは白い血のようなものが吹き出した。白い血が服全体にかかる。
「な、何をしやがる……!!」
ソングさんだったものがキツネのようなモンスターに変わっていく。化けの皮が剥がれたというやつだ。
「ソングさんは、俺を呼ぶ時はいつも『ヒロト』と呼んでくれる。それに上下関係にうるさいソングさんだ。そんな人が、気が動転した1回目の呼び捨てはノーカンにしても、2回目の呼び捨ては絶対に許さないはずだ」
キツネの姿に完全に戻ると、人の言葉とは思えない言葉を喋りながら、そのモンスターは息絶えた。ブラックウコーンに刺された仲間の振りをしたモンスターも変化が解かれた。
こちらはタヌキのモンスターだった。
危なかった……!!いや、待てよ、まだ修羅場がある。
化けていた2匹は倒せたが、3羽のブラックウコーンは残っている。
ブラックウコーン3羽が次の目標を俺に切り替え突進してきた。
落ち着け……!! レッドウコーンの時と一緒だ。
誘い込む。罠とばれない寸での所まで引き寄せる……。
ブラックコーン3羽が縦3列になって猛突進してくる。
まさに黒い三連星!!
俺は、ニュータイプでもなければ、親が科学者でも、メカに詳しい訳でもない。歳は似たようなものだが、あそこまでの気迫も根性もないんだよ。
残念ながらな。
タイミングを見計らって、大急ぎで急斜面を駆け下りた。
斜面を駆け下りるスピードに足の回転が追いつかなくなり、転げ落ちてしまった。
あちこちと打って痛かったが、そんなことを言ってられる状況じゃない。
素早く立ち上がり、一緒に落ちてきたブラックウコーン3羽の首に剣を刺し、仕留めた。
「キューン……」
3羽ともの目の色が濁った。
「おっしゃーーー!!! 3羽討伐したぞーーー!!!!」
1-1
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この物語の1話目です。
是非こちらからも見て下さい。
2-1はこちらから!
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