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2-20

「初日の稼ぎが発表されて、ちなみに俺は3万しか稼げなかった」

 

 嘲笑(あざわら)うような(わら)い声が聞こえた。無理もないだろう。


「俺は悔しかった。自分の不甲斐無さに。そして、ギルドのみんなに助けてもらっている状況に……。俺は例え自分が売られることとなろうと、このギルドのみんなと精一杯闘いたい。この国に来て何も成し遂げず、死んでいくのは嫌だ! 協力して欲しい!!」


 石の上に座った一人が作戦用の紙に目を落としてから、手を挙げた。

 確か名前をソーナー・ダイナスティと言ったか。


「この配置なんだけど、俺は山が得意だ。しかし、横にいるコイツは走るのが得意なんだが、山には慣れていない。配置を(いじ)ることは可能か? 」


 その質問を皮切りに20人全員から質問の大波が押し寄せてきた。

 1つ1つ丁寧に答えていった。それでも納得しない者は再度質問をしてきた。

 納得できるところまで作戦を練る。それはクライフが昨日教えてくれたことだった。


「よーしよし、お前らなんだ? 急にやる気出てきてるじゃねぇか。ああ?」

「俺はヒロトがどうせ死ぬんなら、嬉し泣きしながら死んで行って欲しいだけだぜ」


 ダイナスティがそう言った。顔は笑っていた。清々しい笑顔だ。


「よぉ~し、お前ら。伝説を作る準備は万端か!!」

「「「おお!」」」

「ヒロトがこれから流す涙は、嬉し涙だけだ! いいな?!」

「「「おおお!!!」」」

「よし、行くぞ!!!」


 そう言って、ソングさんと20人のメンバーはギルドを駆け出していった。


 呆気に取られる俺。そして、その横で、手で口を塞ぎ、押し込むようにして笑うヴァンデン・プラス。皺の深い目尻に涙がすこし溜まっている。


「ソングさんは、やはりこのギルドには欠かせないお方ですねぇ」

「ああ、そうだな」

「そして、あなたもです。あなたもこのギルドには欠かせないお方ですよ」

「そうなれるように、今から頑張るよ」


 ヴァンデン・プラスはまた吹き出すように笑った。


「ああ、ははは。すみません。ソングさんのあの真剣な顔を思い浮かべたら笑い止まらなくて……」


 ソングさんは馬鹿だけど、皆に好かれている。しかし、やはり馬鹿なので、俺も時々ツボにはまってしまう。


「はぁぁあ。笑いました。さぁ、ヒロトさん。私たちも参りましょうか」

「ああ」


■  ■  ■  ■  ■  ■


 山に着くと、ソングさんとヴァンデン・プラスにブラックウコーンの倒し方を実践してもらった。

 ただ、まずブラックウコーンがどこにいるか見つけるのに困難を極めた。

 山の地面や葉はどこも黒いので、奴等は色を同化させている。


 やっと見つけたと思ったら、飛び跳ねながら、考えられない速さで突進してきた。

 ソングさんとヴァンデン・プラスは各々、(あらかじ)め決めていたスポットに向かって走った。


 その間何度もブラックウコーンに突かれそうになった。ソングさんに至っては、耐え切れず、2度斬りかかった。

 1度目はブラックウコーンの立派な角に阻まれ、2度目は、胴体に剣が届いたものの、太い毛と鉄のように硬い皮に剣が入り込まなかった。やはり、こいつを倒すには喉元を斬るしかなさそうだ。


 二人が無事2羽を下り坂まで誘導し仕留めたが、拍手をする者も称賛する者もいなかった。「あの二人でさえ、これ程苦慮するんだ」誰しもがそう思いつめた顔をしていた。

 ただ、その顔には絶望の色は微塵もなかった。どうしたら、自分たちでも倒せるのか。それを考えているように思える。


「二人であれ程苦労したんだ。作戦をもう少し練りたいが、いいか?」


 俺は全員に向かって、聞いてみた。


「練り直すったって、今から何を?」


 ダイナスティが言い返してきた。不満と不安に満ちた顔だった。


「クライフにここにる20人を選抜してもらったのは2つの条件からだ。高地出身者や走るのが好き(・・)な(・)者を選んでもらったんだ」

「おいおいヒロト、高地出身者はまだ分かるが、走るのが好きな奴なんか使い物になるのか?」


 ソングさんが案の定絡んできた。


「今回の場合、多く走ってもらうことになるから、速さより距離。走り続けてくれる事が重要だ」

「なるほど」


 ヴァンデン・プラスが頷き納得しているようだ。


「山が得意な奴は勾配の激しいルートを。走りが苦じゃない奴はより、平坦なルートを複数見つけておくのはどうかな。って、思ったんだ」


 トレッキングという言葉がある。山道を走るスポーツだ。

そちらに長けた者は、よりトレッキングらしいコースを。ランニングに長けた者は、よりランニングらしいコースを。それが生存率と成功の確率を上げる一番の方法だと思った。


「なるほど、それは名案かもしれませんね。どうでしょ、みなさんヒロトさんの案に乗ってみませんか?」

「まぁ、俺たちも死にたくないしな。死なない確率が少しでも上がるんなら、俺はするべきだと思うぜ」


 ダイナスティがそう言った。この20人の中でもリーダー的存在なのかもしれない。

 ソングさんに聞くと、若いがリーダーシップが取れて統率力もある将来が有望視された一人だと言っていた。

 ソングさんが握った拳を何度か叩き、肩をグルグルと回してから叫んだ。


「よし、じゃあお前ら。もう一度山の中を見て行くぞ!!」


 多少遠回りになってもできる限りにことは、全てやってから挑むべきだ。まぁこれもクライフの受け売りだけどな。


「では、私は彼らが調査の間に襲われないよう護衛を行いますね」

「ああ、頼むよ」


 皆が調査に行った。俺は急勾配の斜面下の山裾(やますそ)にいるので、モンスターが多く出てくることはない場所だ。ここにいれば護衛もいらないだろう。その代わり何もモンスターを捕えられない。



 日が頂点に昇った。昼ぐらいの時間だろう。

 皆が調査を終えて戻ってきた。何匹かのモンスターを担いでいた。大きさはそれ程大きくない。モンスターというより鹿のようにも見える。

 ただ、コイツも黒い。やはり森に同化するような個体のようだ。


「狩ってきたんですか?」

「ヴァンデン・プラスに聞くとよ、コイツら大した金にならないんだとよ。ちょうど昼だし喰っちまうかってな」


 ソングさんがニコニコしながらそう言った。皆の表情も同じようなものだ。でも待てよ……。


「モンスターって食べられるんですか?」

「そ、それは……って、言われてもなぁ」

「私から説明しましょう。モンスターの肉は時間が経つと悪臭と毒の回り食べられたものじゃありません。ただ、殺してすぐ血抜きをし、2時間以内に食べれば、それはもう美味です」


 ヴァンデン・プラスがモンスターの肉を喰ったことがあるかのように饒舌に説明した。


「それは楽しみだなぁ。狩人にしか許されない食べ物ってことか。じゃあ早く血抜きをしよう」

「「「ハハハハハ」」」

 

 ソングさん、その他全員が笑い出した。


 え? 俺なんかおかしなことを言ったか? 血抜きには専用の装置とかがあるのか? ファンタジーの世界だと何でもアリだしな……。


「「「フフフフフ」」」


 今度は含み笑いだ。20数人で爆笑されるのも腹が立つが、含み笑いはもっと腹立たしい。なんだよ。もう、コイツ等! ソングさんの馬鹿が移ったか?!


「ヒロト。俺たちがここに戻ってくる時間を無駄にすると思っていたのか?ほれ」


 ソングさんがそう言って、鹿の首から血が流れているのを見せた。皆満足そうな顔だ。


「まだ血は抜き足らねぇから吊るすがよ。こうやった方が血の抜けが早くていいんだとよ。ヴァンデン・プラスのおっさんが教えてくれたよ。伊達に長生きしてねぇな」


 なんか失礼な言い方にも聞こえるが、ヴァンデン・プラスも怒ってなさそうだし、とりあえずいいか。

1-1

https://ncode.syosetu.com/n1211ff/1/

この物語の1話目です。

是非こちらからも見て下さい。


2-1はこちらから!

https://ncode.syosetu.com/n1211ff/12/

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